第五話--それぞれの思い--01
俺たちは何事もなかったように作業を進めた。誰も話す者はいなかった。話す事は出来なかった……。皆、ただ、ただ、黙って目の前の作業を進めていた……
あらかたゴミの仕分けが終わったようだ。この後は、このゴミを都から離れた所にある大孔に捨てに行くだけだ。ここからは搬送部隊の仕事で、俺は搬送部隊の護衛として同行するが、unus達はここでお役御免となる。
不意にduoがunusに問いかけた。
「なあ、ダンナ。お願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
unusはduoの声に何かを感じ取ったのか、声が険しい。
「俺も奴らと一緒に行って良いかな?」
「……」
unusは何も言わなかった。いや言えなかったのだろう。duoの気持ちが痛い程わかるだけに答えられるはずが無い。しかし、これは明らかに任務から逸脱した行為だ。徹底的に管理されている俺たち「コレクター」の気分一つで任務を変更できる事なぞできる訳がない。
「俺、リンを埋めてやりたいんだよ。ゴミと同じなんて可哀想じゃないか」
しばらく沈黙が続いた。
どうするんだ?
俺は2人のやりとりを黙って聞いていた。unusがひどく悩んでいるのがわかる。気持ち的には行かせてやりたいだろう。unusの性格なら尚更そう思うはずだ。
しかし、しかしだ……。
俺たちには自由と言われるものは無い……。
俺以外の「マリオネット・コネクター」は相互監視という意味もあり、チーム単位として行動をする事が原則となっている。俺と違い自分達の判断で単独行動をする事など、ありえないし許されない。やむをえず、単独行動を行わなければならない場合「ハンドラー」の判断を仰がねばならない決まりとなっている。あの「ハンドラー」が許可を出すなんて事は、まず、あり得るわけもなく、話も聞かないで却下の一言で終わりだ。
もしここでduoが強行的に単独行動に出てしまうと、理由如何、有無を言わさず「脱走」と判断されてしまう。その場合、即座にduoの処分命令が下され、最重要任務として「コネクター」全チーム総出でduoの処分任務にあたる事になる。数で言えば、12:1だ。これでは到底逃げ切れるものではない。速やかに「処分」されるのを待つだけだ。
単騎で「都」を脅かす存在となり得る強力な戦力「H.M.A」とそれを操る特殊な能力を持つ「マリオネット・コネクター」上の連中が簡単に単独行動を許可出来ない理由がここにある。だから「マリオネット・コネクター」の「脱走」は重犯罪となり即処分の対象となるのだ。
「脅威となる者は排除せよ!」
上の連中は俺たちを恐れているのだ。奴らは怖いから、常に俺たちの行動を監視、管理しているのだ。今、この瞬間でも「ハンドラー」が真面目に仕事をしていれば、通信を聞いている可能性もある。どう足掻いても俺たちには奴らの監視の目から逃れる術など無い……
duoが言っている事は限りなく不可能に近い……
いや……
一つだけだが、単独行動を取れる方法がない事も無い。しかし、この方法はduoだけではなく、「αチーム」全体がリスクを負う事になる。多分、unusも気が付いているだろう。もちろんtresも……あとはこの二人がduoの為にリスクを受け入れるかどうかだ。
しばらく沈黙が続いた。沈黙を破るかのようにduoが何かを言いかけた。
「ダンナ……無理なのはーー」
「duo!」
unusはduoの話を止めた。任務中の通信は聞かれている可能性がある。「ハンドラー」に余計な勘ぐりは受けたくない。
「duo!SINのサポート!搬送部隊の護衛任務だ!穴までの道中何があるかわからん。我々の『H.M.A』は動力の調子が悪く同行できん。SIN!悪いが一緒に連れて行ってやってくれ」
「ダンナ……」
「早く準備しろ!搬送部隊が出発するぞ!早く『ギャレイ』に『H.M.A』を収容しろ!」
「……すまない……」
「最後の手段」をunusは選択した。
「最後の手段」、これは「緊急事態」における「チームリーダー」による「緊急任務行動命令」というものだ。
これは任務中に「リーダー」の判断により必要とあればメンバーに「特殊任務」を下す事ができるというものだ。しかし、この「緊急任務行動命令」が適用されるには明確な規定がある。「チームメンバー」全員に「命の危険」が迫った場合、合同任務の場合は「同行チーム」に「危険」が迫ったと判断される場合だ。
簡単に言えば「命の危険」が迫ったら、全滅を避けるために、それぞれ勝手に行動して「H.M.A」と「命」を守れというわけだ。その代わり、生きて帰還したら上に「H.M.A」と「A.I」のログを事細かに調査され、「ハンドラー」の嫌味を聞きながら厳しい詰問を受けるという重労働が待っている。
ただ今回のケースのような場合は、どちらにも当てはまらない……。そもそも「搬送部隊」の護衛任務は俺に課せられた任務なのだから。
unusとしては今回の任務では、搬送部隊の「護衛」に俺一人では危険だと判断し、自分達も支援として同行する事が必要だと認めたが、自分とtresの「H.M.A」の調子が悪く同行する事が出来ない。その為にチームとしてはduoに「特殊任務」として「単独行動」を許可し、俺の支援をやらせるという筋書きにしたいのだろう。
俺としては、ある意味duoのわがままに巻き込まれた形になってしまう訳だが、別に嫌な気分にはならなかった。ヒトがヒトを思う気持ちが理解できたから……ずっと一人だった俺にもそんな気持ちが残っていたから……。
それに……
unusとtresは帰還したところで、タダでは済まない。duoが帰って来るまで厳重に監禁される。もしduoが帰って来なければ「脱走幇助」と判断され、連帯責任として二人も「処分」される事となる。こんなリスクのある手段は、自分の「チーム」を信じていない限り出来ることではない。
それでもunusは決断した。そして、一言も文句を言わないtresも同意している事だろう。ソロで行動する俺にはわからないが、unusはきっと部下に信頼され、自分も部下を信頼する良いリーダーなのだ。
「ダンナ、tres……すまない……本当にすまない……」
duoは掠れた声で呟いた。自分のチームを危険に晒す事はわかっているはずだ。わかっているから、奴はこれ以上何も言えないのだ。
「SIN、うちのシスコン野郎のわがままに巻き込んですまんな」
「いや、構わんよ。俺はソロだからお前達よりは自由が効く」
「すまない。……頼むぞ」
unusが言いたい事はわかっている。
もしもの事があった場合、duoを処分してくれという事だ。
嫌な役目だ……
「ああ、わかっている……」
俺は短く答えた。
次回の更新は16日、朝7:30となります。




