第四話--合同任務--02
「どうしたduo!」
unusが叫んだ。明らかにduoの様子がおかしい。いくら呼びかけてもduoからの反応が全く無い。
「Atlas」のアームが何かを持っているようだ。俺の位置からだと遠くて見えない。
「『Atlas』のアームを拡大表示!」
A.Iはメインスクリーンにに「Atlas」のアームを映し出した。何かを壊れないように大切に持ったまま止まっている。
嫌な予感が、俺の全身を貫く。俺はA.Iに指示を出した。
「もっと寄れないか?これだと奴が何を持っているかわからない」
頼む。俺の嫌な予感が外れてくれ……
〈分析した結果だが……〉
「何だ!もったいぶらずにはっきり言え!」
〈SIN……残念だがお前の予想した通りだ……〉
俺の嫌な予感が当たってしまった……それも最悪な形で……
まずい!このままだと奴は壊れる!
俺は叫んだ。
「おい!duo!大丈夫か!おい!」
返事がない。俺は何度もduoを呼び続けた。ここで壊れてしまったら、間違いなく奴は処分されてしまう。
俺たち「コネクター」は精神的ショックの耐性は、ある程度は出来ているが、その限界を超えたら……
その先はただ壊れるか、最悪暴走だ。
もし、「コネクター」が暴走を始めたら「H.M.S」は、ただの殺戮兵器になってしまい、見境なくヒトを殺す。それだけは絶対に避けなければならない。
そうなる前に、奴を正気に戻さなくてはならない。
「duo!」
tresもduoに叫び続けている。
なぜいつも陽気なduoがこうなってしまったのか……
皆、「Atlas」のアームを見て理解した……
同じチームだからこそ、duoの気持ちが痛いほど分かるから……duoを放っておくわけにはいかなかった。
「おい!返事をしろ!duo!」
「ねぇ!お願い返事をして!」
「duo!」
『オ・ニ・イ・チャ・ン・オ・キ・テ』
微かに不思議な声が聞こえた。
「おい、何か言ったか?」
俺はA.Iに聞いた。
〈私は何も言ってない〉
「unos」とも「tres」とも違う。それに二人には今の声が聞こえていないようだ。
俺にしか聞こえないのか?
『オ・ニ・イ・チャ・ン』
誰だ?お前は。誰に話しかけているんだ。まさか!?
『ハ・ヤ・ク・オ・キ・テ・ミ・ナ・マ・テ・ル』
「……ああ……わかったよ……相変わらずお前は口うるさいな……」
duoは不思議な声に応えているようだ。
ああやっぱり……。
この不思議な声はduoに向けてのものだ。この声の主は誰なのか……俺にはわからない。なぜ俺には聞こえたのかもわからない。しかし、duoにはわかっているようだ。
なぜなら、duoが、まるでリンにむけている様な声をしていたから……
きっと妹にも同じように優しい声をかけていたんだろう……
「大丈夫だ……俺は大丈……」
「duo!ああ良かった」
tresの安堵した声が聴こえる。今にも泣き出しそうだ。
「正気みたいだな。大丈夫か?」
unosがduoを気遣う。コイツらが本当の「家族」のようにduoを心配していたのが声だけでも伝わってくる。
「みんなうるさいなぁ。俺はなんともないよ」
duoは俺たちに心配をかけまいと努めて明るく答えた。duoの気持ちを思うと、それが痛々しい。
「もう!心配しちゃったじゃないの!」
「少し休むか?」
「何言ってんの?休んでたらまた『ハンドラー』に嫌味を言われちまうよ。早くやっちまおう」
duoが「家族」に、心配をかけまいと気丈に振る舞っている。チームのメンバーもそんなduoの事をわかっているから何も言わない。
俺たちは何も無かったように作業に戻った。
duoの「Atlas」が慈しむように優しく守っていたリンをそっと降ろした。
「duo、本当に大丈夫なのか?」
俺は、ごくありきたりの言葉でしか声をかける事ができなかった。
こんな時にどんな言葉を奴にかければ良いんだ?
俺にはそんな言葉は見当たらなかった。
こうなる事がわかっていたのに……俺たちの命なんて、奴らにとってはおもちゃでしか無いのに……
俺たちはリンを止められなかった。いや止めることが出来なかった。俺たち「奴隷」は、こんな理不尽を受け止めなくては生きていけない……
「早くリンを埋めてやりたいんだ」
duoは自分の感情を押し殺すように静かにそして冷静に答えた。
duoの中は、俺以上の後悔と怒りで今にもはち切れんばかりだろう。それなのに、勤めて冷静に、静かに自分の感情を押し殺しているのだ。
奴の傷の深さが分かる。
「ああ、そうだな」
「奴隷」が死ぬという事は、この世界ではさほど珍しい事では無い。使い物にならなくなったら物のように処分され、そしてゴミと同じく捨てられる。
奴らにとって「獣の刻印」を持つ「奴隷」は人間では無いのだ。今までもこんな光景を俺たちは何度も見てきた。無惨な形で捨てられた「奴隷達」を……
そして、俺たちは知っている。この中には、「貴族達」の歪んだ欲望の犠牲になった者もいるということを……
このやるせなさは何だ?この感情は何だ?
俺には答えは出せなかった。
「貴族」に呼ばれるという事は、「奴隷」にとってはここから抜け出す事ができる大きなチャンスだ。しかし多くの「奴隷」たちは、遠からずここに捨てられる運命を辿る。
それは俺もduoも、いや「獣の刻印」を持っている者全員がわかっていた事だ。それでも、誰もそれを止める事はできない。「貴族」に呼ばれてしまったら、断る事などできるわけがない。
一縷の望みに賭けて送り出してやる事しかできない……
それがどんな結果になろうとも……俺たちには何も出来ない……
俺たちには運命を変える力なぞ無いのだ……
次回の更新は13日、朝7:30となります。




