表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SIN〜第一部〜  作者: 冬馬
第四話
19/51

第四話--合同任務--01

 翌日の朝、俺が一人朝食をとっていると、昨日と同じように懲りずにduo(ドゥオ)が声をかけてきた。

 しかし、何かいつもと様子が違う。無駄に明るいduo(ドゥオ)では無かった。


「なあ、SIN。リン見てないか?」


「そういえば、今日は見てないな」


「そうか、ずっと探してたんだけど居ないからよ」


 duo(ドゥオ)の顔が暗く沈んでいた。


「あいつ、『貴族』の家にお呼ばれに行くって言ってたもんな。気に入られてそのまま住み込みで働くようになったのかな……」


「そうかもな」


「あいつ、ちゃんとやれるかなぁ。ああ見えてそそっかしい所あるからな」


「そうか」


「いつも任務の前は、あいつの顔を見て元気をもらってたんだけどなぁ」


「そうか」


「だけど、あいつが幸せになれたら良いか。こんな所にいるよりも貴族様のメイドの方がずっと良いに決まっている」


「そうだな」


「SIN……」


「なんだ?」


「お前って、やっぱり良い奴だな。メシも食わないで俺の話を聞いてくれてるもんな」


 何を言い出すんだ、コイツは。


 面と向かってそんな事を言われて俺は戸惑ってしまった。その戸惑いをコイツに悟られたく無い。後で何を言われるかわかったものじゃない。俺は必死にその戸惑いを隠そうとした。


「メシが不味いからだ」


 我ながら下手な言い訳だと思う。


 duo(ドゥオ)は声を上げて笑った。


「昨日、俺がおんなじ事を言ったら、お前、冷たい目で俺を見てたぞ」


「そうだったか?そんな事よく覚えているな」


 俺はとぼけた。昨日の事を覚えてるって言うのも悪くは無いな。


「お前も人間らしいところがあるんだな。安心したよ」


 ここぞとばかりにduo(ドゥオ)が絡んでくる。コイツなりにリンの姿が見えない不安を消したいのかもしれない。


 duo(ドゥオ)はチラリと時計を見た。


「そろそろ、出る時間だぞ。『ハンドラー』にどやされたく無かったら、早く食っちまえ」


「ああ、わかってるよ」


「またな。外で会おうぜ。我が友よ」


 duo(ドゥオ)は笑いながらハンガーに向かって行った。


「我が友?なんだそれは?」


 友……友か……気分の悪いものでは無いな。友と呼べる者なぞ、今まで居なかった。友か……


 それよりも……


 俺にも不安が付き纏っている。


 俺は朝食のトレーを片付けながら、辺りを見回してみた。やはりリンの姿は見えなかった。


 嫌な予感が当たらなければ良いが……



 今日の合同任務は、簡単に言えばゴミ掃除だ。

 「都」から出るゴミは周辺にそのまま捨てられる。というよりも垂れ流しである。ありとあらゆるゴミが「都」周辺に撒き散らされているわけだから、本当に酷い有様だった。

 ある時その酷い有様を「貴族様」が目にしてしまい、ひどく気分を害された事から「都」周辺のゴミ掃除は「貴族様」から頂く大切な仕事になった。

 ゴミを垂れ流しにしているのは、他ならぬ「貴族様」達なのだが……


 H.M.Aを操る「マリオネット・コネクター」1チームプラス俺、A.Iのオートパイロットによる重機、そして防護服を着て手作業で作業をする「奴隷」と結構な大所帯で作業にあたる。


 実はこの「貴族様の仕事」も「奴隷」達にとっては、そう悪いものではない。

 「奴隷」達はまだ使えそうな物を物色し、隠れて持ち帰るのだ。「貴族」にとってはゴミでも「奴隷」にはとてつもない価値を持った宝物だ。きっと、リンの絵本も父親がこの仕事で拾ってきた物だろう。

 もちろんこう言う行為は見つかれば厳重な処分対象となるが「奴隷」達で密告などするものは誰もいない。「奴隷」にしてみたら大切な生活の糧、潤いとなるからだ。

 そんな理由もあってゴミ掃除は「宝探し」のようなもので「奴隷」の中でも人気のある任務となっている。


 もう一つ「奴隷」が進んでこの任務をしたがる理由がある。


 「ゴミ掃除」は「都」の外での作業なので、その気になれば逃げ出す事(脱走)も出来るからだ。

 これもあえてそれを止める奴なんて誰もいない。上に報告した所で「上の連中」は「奴隷」の事なぞ気にも止めない。防護服を着なければ生きていけない、こんな過酷な環境の中逃げ出したところで、何も出来ない事を知っているからだ。

 逃げ出した「奴隷」は事故で死んだと記録されるだけだ。

 

 実際、このゴミの中には様々なつまらない理由で処分された「奴隷の亡骸」も無数に捨てられている。

 「奴隷」は使い捨てのゴミと同じ扱いなのだ。


 逃げ出した奴らが、このゴミになった死体と同じにならなければ良いと送り出した「奴隷」たちは切に思っている。

 この不毛の大地で生きていけるのか、生き抜いていけるのか。それだけは誰にもわからないのだが……

 いつか自分達を救い出してくれる事を夢見ている。


 unus(ウヌス)と簡単なブリーフィングを済ませ、直接格納ハンガーから「H.M.A」を出した。一応、装備を積んでいるギャレイも外に出してある。装備を交換する為に「都」に戻るのは非効率だ。


 俺は、高く積み上がったゴミの山を見てうんざりした。よくも、こんなに無駄な事が出来るもんだ。まだ食える物、使える物が沢山混じっている。「奴隷」達には見た事も無いものばかりだ。


「さて、仕分けするか」


 duo(ドゥオ)が作業を始めた。duo(ドゥオ)の「H.M.A」は4本足の多脚型で、model「Atlas(アトラス)」と言う。このような不整地では効率が良い。


 duo(ドゥオ)は「Atlas」のアームを巧みに操り、ゴミの中からまだ使えそうな物を中心に、「奴隷達」の方に寄せていた。「奴隷達」は我先に物色を始める。


「ちゃんと、仕分けろよ。今度はそっちだ」


 これはduo(ドゥオ)なりの優しさだろう。他の二人も少なからずduo(ドゥオ)と同じような事をやっている。「αチーム」の奴らはお人好しばかりだ。


 これが第二世代以降だと、まずこんな事はしない。

 奴らは「マインドコントロール」を強くかけられ、感情が削られている分、ただ効率的に作業を進めるだけだ。それでも、不思議と「奴隷達」の暗黙の了解だけは守っているようだ。


 単純に任務以外に興味がないだけかもしれないが……


 別に俺自身には第二世代に感情があろうが無かろうが関係のない事だし、「任務」は「任務」だ。他人の事なぞどうでも良いのだが……かく言う俺も「αチーム」の奴らと同じ事をやっている。俺にも人間らしさが残っていたらしい。


「!?」


 ゴミの仕分けが粗方終わる頃、duo(ドゥオ)の「Atlas」が急に止まった。


duo(ドゥオ)!」


次回更新は9日、朝7:30となります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ