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SIN〜第一部〜  作者: 冬馬
第三話
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第三話--生き残ると言う事--02

 穴倉の外での任務が無くても仕事熱心な『ハンドラー』は定時連絡をしてくる。もし連絡に出るのに遅れようものなら、また嫌味のオンパレードだ。


 A.Iとくだらない話をしているうちに、俺に一つの疑問が浮かんだ。


 A.Iは任務以外、俺の中を覗かない。任務以外は俺の監視をしていない。と言う事は、それはコイツなりの気配りって奴なのか?

 そんな事を考えた俺は可笑しくなった。


 そんな馬鹿な。


 コイツにそんな事ができるわけが無い。コイツはただの機械だ。やはり今日の俺は少しおかしいみたいだ。


 《ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ》


 〈定時連絡が来たぞ〉


 モニターのスイッチを入れると、見たく無い、いつもの顔が現れた。


 『今日は時間通りだな。珍しい事もあるもんだ』


 いつも一言多い。コイツは本当に人をうんざりさせる天才だ。


 『通知してある通り、明日は『αチーム』との合同任務だ。時間に遅れないように集合しろ。duo(ドゥオ)と呑気に飯食っている暇なんかないぞ』


 本当にいやらしい奴だ。今朝の食堂での出来事まで知っていやがる。コイツはどこまで俺を監視しているんだ。本当にうんざりする。


 「わかってるよ」


 俺はぶっきらぼうに答えた。コイツとはまともに話したくない。


 『話は以上だ」


 俺は返事をしなかった。どうやら、それが気に障ったらしい。


 「真面目に聞いているのか?」


 途端にコイツは不機嫌になった。コイツの機嫌なぞどうでもいいが、長くなるのは勘弁してもらいたいので返事をする事にした。


 「聞いてるよ。明日は遅れるなだろ?」


 「そうだ。子供じゃ無いんだから、返事くらいできるだろうが。まぁいい。何か質問は?』


 「別に……」


 『ふん、相変わらず生意気な奴だ』


 最後に捨て台詞を吐いて通信を切りやがった。当たり前だが、俺が奴の事を嫌いな様に、奴も俺の事が嫌いらしい。


 そんなに俺の事が嫌いなら、監視なんかしなければ良いのに。コイツはトイレまで覗いてるんじゃないか?


 俺は「ハンドラー」とのやりとりで、ちょっとした事に引っ掛かりを感じた。今朝の食堂でのやり取りをコイツは知っている。と言うこうとは、リンの絵本も、食いかけのパンの事も知っていてもおかしくない。いや、アイツの事だ。確実に知っている。


 なぜ何も言わないんだ?


 わざわざ、その事を俺に話したと言う事は、奴が釘を刺して来たと理解した方が良さそうだ。


 俺はやりかけていた作業に戻った。すると、


 〈あまりハンドラーに逆らうな〉


 唐突にA.Iが妙な事を言い出した。


 「なんだと?何が言いたい?」


 俺はA.Iからの知ったような忠告に少し腹が立った。その俺の気持ちを知ってか知らずかA.Iが追い打ちをかけてくる。


 〈あまり『ハンドラー』を怒らすと、任務がキツくなるだけだぞ〉


 「そんなのはいつもの事じゃないか。何を今更言ってる。それとも俺に『ハンドラー』の犬にでもなれって言うのか?」


 〈そういう事では無い〉


 「じゃあなんだって言うんだ?」


 コイツの言いたい事は理解はしている。「ハンドラー」に逆らうと、細かい嫌がらせを仕掛けてきて、色々と任務に不都合が出てくるからだ。しかしそんな事は慣れているし、俺は毎回、任務をこなして来た。それの何が悪い。それよりも、コイツの大人ぶった対応に腹がたった。


 〈生き残る事を考えろ、SIN〉


 A.Iが俺に諭すように言った。


 「何?」


 コイツは何が言いたいんだ?


 俺にはコイツの言いたい事がわからない。


 〈生き残る事を考えるんだ〉


 生き残る……生き残る……

 

 いつも俺は生き残って帰ってくる事だけを考えている。現に今までも生き残って帰ってきているじゃないか。


 生き残る……


 「……生き残る事に……何の……意味がある……生き残った所で……何が……ある……」


 俺たちの命は虫ケラと同じだ。どんなにヒトだと訴えても、到底、俺たちはヒトとして扱われない。危険な任務に出され、失敗をすれば、簡単に切り捨てられる。上の奴らの気に障れば、いつでも処分される。奴らは遊び飽きたおもちゃを捨てるように俺たちを処分する。


 俺たちの命は軽い……俺たちの生きているこの世界は平等など存在しない……


 〈とにかく今は生き残る事を考えてくれ〉


 A.Iが必死に訴えかけてくる。


 必死?機械なのに?


 「なんでお前はこんな事にそんなに必死なんだ?俺が死んでも別に構わないだろう?」


 コイツは所詮は機械だ、友人でも家族でも何でもない。そもそも機械にそんな感情なんかあるはずがない。それでもコイツは俺に生きろと必死に訴えてくる。


 「なぜだ?」


 俺はもう一度聞いた。コイツの真意が聞きたかった。


 〈……私は、お前のために作られた……〉


 「それが答えか?」


 〈そうだ、お前のために作られた私がお前の生命維持を最優先する。合理的な話だ〉


  何を期待していたんだ、俺は……。


 俺は何か違う答えを期待していたのかもしれない。

 コイツの、機械としてごく当たり前の答えに少し落胆した。

 

 確かにコイツの答えは合理的だ。コイツにとっては、俺を生かす事が存在理由(レゾンデートル)なわけだ。ならば俺の存在理由(レゾンデートル)とは?誰にも必要とされていない俺が存在する事に意味はあるのだろうか……。


 変な事を考える様になった。duo(ドゥオ)の影響を受けているな。


 「なるほどな。わかったよ」

 

 俺はコイツに何を期待したのだろう。何て言って欲しかったのだろう。


 〈…………〉


 A.Iは何も応えなかった。俺も何も聞かなかった。俺は黙って自分の作業に戻った。

 

 俺たちは普段の形に戻った……


今回で第三話は終わりです。次回から第四話となります。

次回の更新は6日、朝7:30となります。

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