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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ラッキースケベ

作者: さば缶
掲載日:2025/02/28

1.

「やばい、遅刻、遅刻……もうホームルーム始まってる。」


「待って、そんなに急いだら転ぶって!」


 大学の廊下を全力疾走していた俺は、後ろから聞こえる声を気にも留めずにスピードを上げた。 しかし、焦りは禁物ってやつだ。 足元がもつれてバランスを崩した瞬間、目の前にいた同級生の珠希たまきに衝突してしまった。


「わわっ……!」


 その拍子に俺は珠希を抱きとめる形になり、勢いあまって彼女の胸をしっかりと掴んでしまった。


「い、痛い……っていうか、そこ、私の胸……」


「ご、ごめんっ、違うんだ、そんなつもりは……」


 俺は慌てて手を離し、顔を真っ赤にしながら後ずさる。 珠希も呆然としているが、すぐに視線をそらすと、小さく息をついた。


「……とりあえず、保健室、行く?」


「う、うん……とりあえず落ち着こう。」


 急いでいたこともあり、俺も珠希も打ち身が心配だった。 二人で保健室に向かう道すがら、周囲の視線が痛い。


「まさか初っ端からこんな災難に遭うなんて……俺、踏んだり蹴ったりだよ。」


「こっちだって恥ずかしいのに……もう、気にしないでって言いたいけど、無理でしょ。」


「本当にごめん……反省してる。」


 保健室の前で一度深呼吸する。 そしてお互い怪我の程度を確認したあと、いったん解散となった。


「じゃ、じゃあ……また講義で。」


「うん……気にしないでって言えないけど、とりあえず大丈夫だから。」


 そう言って珠希は保健室を出ていった。 俺も深いため息をつく。



2.


 翌日、キャンパスの掲示板前。 成績表が張り出されているというので確認しに行ったら、たまたま隣には珠希の姿があった。


「え……君も来てたの?」


「成績、気になるし……って、昨日はごめん。本当、いまだに気まずくてさ。」


「ううん……私も不注意だったし。」


「いや、あれは俺が……」


 言いかけたところで、またしても人が多いせいか誰かに押されてしまい、俺は前につんのめる形で珠希に突っ込んでしまう。


「きゃっ……!」


 不幸なことに、また手が彼女の胸元に伸びてしまった。 しかも昨日より強く押し付けている気がする。


「ご、ごめん……また……うわあ!」


 その瞬間、珠希の胸から何か“ゴロゴロ”という奇妙な感触が伝わってきた。 まるで固いローラーが高速回転しているような音と圧迫感。 信じられないことに、俺の手のひらが彼女の胸に吸い込まれるように巻き込まれていく。


「ちょ、ちょっと! な、なんだこれ……痛っ、痛い痛い痛い!」


「フォッフォッフォッ。」


「え、ちょ、なんで笑ってるの、珠希……?」


 周囲の人混みが一瞬にして遠のいた気がした。 珠希は胸に埋まった俺の腕を見下ろし、まるで余裕しゃくしゃくとばかりに言葉を続ける。


「どう、私は“呪いのローラー”を胸に埋め込んだの。 吸い込まれている気持ちはどう? 昨日はただのハプニングだけど、まさか連続して触りにくるなんて思わなかったわ、この性犯罪者」


 彼女の胸に埋め込まれた一対の機械式ローラーは、回転して挟まれた物体を押しつぶすように設計されており、まさに今俺の腕を押しつぶし、全身を吸い込もうとしていた。

 

「違うって、これは事故で……ぐああっ! まじで指がもげそう……痛いっ!」


「フォッフォッフォッ、一流の超人は弱点を常に克服するものよ。もう、二度とあんたにラッキースケベなんてさせないわ。」


 彼女はそう言うと、さらに胸を押しつけるような仕草を見せる。 俺は抵抗しようにも、何かに吸い込まれているようで全身の力が奪われていく。



「やめ、やめてくれ……腕が……体が……やばい……」


「ほんとはね、 ちょっとした改造人間ってところかしら。」


 そんなとんでもない告白をさらりとする珠希。 周囲はまったく気づいていないようで、俺だけが胸のローラーに巻き込まれ悶絶しているという地獄絵図だ。


「助け、誰か……はっ……く……」


 ローラーの回転数が上がるにつれ、俺は完全に意識が遠のいていく。 このままじゃ本当に死ぬ。 血の気が引き、呼吸すらまともにできなくなる。


「ふん。 私だって好きでこんな身体なわけじゃないのよ。 でも、おかげで私に触れてくるやつを撃退するのにはちょうどいい。 フォッフォッフォッ。」


「ぐ……そ、そんな……ふざ……けんな……」


 最後の力を振り絞って言い返そうとするものの、声にならない。 ローラーに巻き込まれた部分はまるで深淵に引きずり込まれるかのようだ。


 やがて俺は珠希の胸から弾かれるように放り出され、床へ転がった。 彼女は髪をかきあげながら、冷ややかにこちらを見下ろす。


「どうやら余計なエネルギーを吸い取られたみたいね。 大丈夫? って、大丈夫なわけないか。」


「がっ……は……っ……ぐ……」


 声も出せず、その場に倒れ込む俺。 幸いまだ生きてはいるが、腕は感覚がなく、全身が痺れている。


「ふう。 まだ生きてるだけマシかな。 フォッフォッフォッ。性犯罪者に人権は無い。これに懲りたら、二度と触れないことね。」


 気絶する間際、俺はなんとも言えない気持ちになった。 偶然とはいえ二度も胸に触れてしまったことを後悔しながら、この謎の呪いのローラーとやらに吸い込まれた痛みを思い出しながら、俺は深い闇の中へと沈んでいった。

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