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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ラッキースケベ

作者: さば缶

1.

「やばい、遅刻、遅刻……もうホームルーム始まってる。」


「待って、そんなに急いだら転ぶって!」


 大学の廊下を全力疾走していた俺は、後ろから聞こえる声を気にも留めずにスピードを上げた。 しかし、焦りは禁物ってやつだ。 足元がもつれてバランスを崩した瞬間、目の前にいた同級生の珠希たまきに衝突してしまった。


「わわっ……!」


 その拍子に俺は珠希を抱きとめる形になり、勢いあまって彼女の胸をしっかりと掴んでしまった。


「い、痛い……っていうか、そこ、私の胸……」


「ご、ごめんっ、違うんだ、そんなつもりは……」


 俺は慌てて手を離し、顔を真っ赤にしながら後ずさる。 珠希も呆然としているが、すぐに視線をそらすと、小さく息をついた。


「……とりあえず、保健室、行く?」


「う、うん……とりあえず落ち着こう。」


 急いでいたこともあり、俺も珠希も打ち身が心配だった。 二人で保健室に向かう道すがら、周囲の視線が痛い。


「まさか初っ端からこんな災難に遭うなんて……俺、踏んだり蹴ったりだよ。」


「こっちだって恥ずかしいのに……もう、気にしないでって言いたいけど、無理でしょ。」


「本当にごめん……反省してる。」


 保健室の前で一度深呼吸する。 そしてお互い怪我の程度を確認したあと、いったん解散となった。


「じゃ、じゃあ……また講義で。」


「うん……気にしないでって言えないけど、とりあえず大丈夫だから。」


 そう言って珠希は保健室を出ていった。 俺も深いため息をつく。



2.


 翌日、キャンパスの掲示板前。 成績表が張り出されているというので確認しに行ったら、たまたま隣には珠希の姿があった。


「え……君も来てたの?」


「成績、気になるし……って、昨日はごめん。本当、いまだに気まずくてさ。」


「ううん……私も不注意だったし。」


「いや、あれは俺が……」


 言いかけたところで、またしても人が多いせいか誰かに押されてしまい、俺は前につんのめる形で珠希に突っ込んでしまう。


「きゃっ……!」


 不幸なことに、また手が彼女の胸元に伸びてしまった。 しかも昨日より強く押し付けている気がする。


「ご、ごめん……また……うわあ!」


 その瞬間、珠希の胸から何か“ゴロゴロ”という奇妙な感触が伝わってきた。 まるで固いローラーが高速回転しているような音と圧迫感。 信じられないことに、俺の手のひらが彼女の胸に吸い込まれるように巻き込まれていく。


「ちょ、ちょっと! な、なんだこれ……痛っ、痛い痛い痛い!」


「フォッフォッフォッ。」


「え、ちょ、なんで笑ってるの、珠希……?」


 周囲の人混みが一瞬にして遠のいた気がした。 珠希は胸に埋まった俺の腕を見下ろし、まるで余裕しゃくしゃくとばかりに言葉を続ける。


「どう、私は“呪いのローラー”を胸に埋め込んだの。 吸い込まれている気持ちはどう? 昨日はただのハプニングだけど、まさか連続して触りにくるなんて思わなかったわ、この性犯罪者」


 彼女の胸に埋め込まれた一対の機械式ローラーは、回転して挟まれた物体を押しつぶすように設計されており、まさに今俺の腕を押しつぶし、全身を吸い込もうとしていた。

 

「違うって、これは事故で……ぐああっ! まじで指がもげそう……痛いっ!」


「フォッフォッフォッ、一流の超人は弱点を常に克服するものよ。もう、二度とあんたにラッキースケベなんてさせないわ。」


 彼女はそう言うと、さらに胸を押しつけるような仕草を見せる。 俺は抵抗しようにも、何かに吸い込まれているようで全身の力が奪われていく。



「やめ、やめてくれ……腕が……体が……やばい……」


「ほんとはね、 ちょっとした改造人間ってところかしら。」


 そんなとんでもない告白をさらりとする珠希。 周囲はまったく気づいていないようで、俺だけが胸のローラーに巻き込まれ悶絶しているという地獄絵図だ。


「助け、誰か……はっ……く……」


 ローラーの回転数が上がるにつれ、俺は完全に意識が遠のいていく。 このままじゃ本当に死ぬ。 血の気が引き、呼吸すらまともにできなくなる。


「ふん。 私だって好きでこんな身体なわけじゃないのよ。 でも、おかげで私に触れてくるやつを撃退するのにはちょうどいい。 フォッフォッフォッ。」


「ぐ……そ、そんな……ふざ……けんな……」


 最後の力を振り絞って言い返そうとするものの、声にならない。 ローラーに巻き込まれた部分はまるで深淵に引きずり込まれるかのようだ。


 やがて俺は珠希の胸から弾かれるように放り出され、床へ転がった。 彼女は髪をかきあげながら、冷ややかにこちらを見下ろす。


「どうやら余計なエネルギーを吸い取られたみたいね。 大丈夫? って、大丈夫なわけないか。」


「がっ……は……っ……ぐ……」


 声も出せず、その場に倒れ込む俺。 幸いまだ生きてはいるが、腕は感覚がなく、全身が痺れている。


「ふう。 まだ生きてるだけマシかな。 フォッフォッフォッ。性犯罪者に人権は無い。これに懲りたら、二度と触れないことね。」


 気絶する間際、俺はなんとも言えない気持ちになった。 偶然とはいえ二度も胸に触れてしまったことを後悔しながら、この謎の呪いのローラーとやらに吸い込まれた痛みを思い出しながら、俺は深い闇の中へと沈んでいった。

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