なんとかこれくしょん
突然、隣の部屋に住んでいる子があたしのところにやってきて、それで、スイートポテトを差し出した。
「なに……?」
「食べてよ、おなか空いてるんでしょ?」
「空いてるけど……」
いや、訂正しよう。この子は『隣に住んでいる子』ではなく、『隣に住んでいる子によく似ている子』だ。目鼻立ちも髪の色や質感まで、なにもかもが隣に住んでいる子にそっくりだった。
彼女はスイートポテトをあたしの手に押し付け、急かすように声を出す。
「ねえ早く食べて。感想が聞きたいの」
「あなたが作ったの?」
「ううん、買ってきた」
「どこで?」
「ここの近くには、あのお店しかないでしょ」
あのお店か。
思えばここに来て数週間、あたしはあまり外のことを知らない。否、知ることができない。なぜかと聞かれても、あたしにも理由は分からない。ただ、あたしやあたしのトモダチたちが行くことを許されているのは、噴水が美しい、狭くて窮屈な広場だけなのだ。それ以外は、いま目の前にいるこの子しか行くことが許されていない。
この不思議な子は、いつもこのくらいの時間になるとあたしの目の前に現われて、あたしが望むものをなんでも買い与えてくれる。お風呂に入りたいと言えば入れてくれるし、風邪をひいたら薬だってくれる。嫌な顔一つせずに、全て世話をしてくれるのだ。
「ねえ、美味しい?」
「うん……でもあたし、さつまいもあんまり好きじゃないのよね」
「わーなにそれ! じゃああなたの大好物ってなに?!」
「えー? 教えなーい。サキのそっくりさんが自分で考えてくださーい」
この子は何者か。それを知る術は、無力なあたしにはない。ただここで、彼女の言うがままに生活するしかないのである。
「ねーねー、のどかわいたでしょ? はい、オレンジジュース」
「うん、ありがと」
「……どう?」
「……ふつう、かな」
*
「あー! もう! オレンジジュースも大好物じゃないの?! じゃあなんなのよー!」
「沙希、お風呂入っちゃいなさい」
「あ、うん。ねえねえお母さん……お母さんの大好きな食べ物ってさあ……」
「え? だからさっきも言ったじゃない。スイートポテトよ」
「だよねえ?! こっちの『おかあさん』はすきじゃないみたいなんだけど?!」
「知らないわよそんなの。ゲームの話でしょ。ほらほら、早くお風呂!」
「ちぇーわかったわよ。『おかあさん』の大好物がわかったら、住人全員コンプリートなんだけどなあ」
「はいはい」
おわり
目いっぱい遊んでみました。
わからない人にはほんとにわからないんですよね。申し訳ありません。
つ、次こそ連載を……!