カレンダーに嬉しい予定を書き込んだ
私は寮で魔法学院に入学して良かったと心の底から思ってニヤニヤしていた。
視線の先には壁にかけられたカレンダーがある。そこには次の休みの日に『チャヒード様 とお出かけ』と書き込んである。
授業で見た彼のとても繊細で美しい魔法が忘れられない。
チャヒード様は公爵家の五男である。公爵家の令息ならば魔法学院ではなく貴族学院に進むものだと思うが、彼は魔法学院を選んだ。
「五男だから自分で身を立てなきゃいけなくてね」と言って笑っていた。とても親しみやすい人だった。
王都には二つの王立学院がある。
一つは貴族の嫡男やその夫人となる予定の婚約者。彼らを補佐する弟妹。そういう人たち以外にも、未来の領主と縁を結びたいと親に入学させられた子などが進む。
領の運営や家政のなどを学ぶ学校である。魔法の授業もあるが、高度な魔法を扱う授業はない。
一方、魔法学院は魔法の授業に重きを置いている。
騎士や文官を目指す人には専門の学校がある。
お父様はまだ婚約者のいない私に、貴族学院に行って結婚しても貴族でいられる相手を探して欲しかったようだ。しかし、男爵家の五人の子の末っ子である私を望む男性を探すより、自分で身を立てる技術を身につける方が現実的だと思った。
母や兄たちが賛成してくれたので私は今ここにいられる。そして素敵な魔法を使う彼と知り合う機会を得たのだ。
知り合う機会と言っても今はまだ、ただのクラスメイト。
カレンダーの予定も『チャヒード様』の後に小さく小さく『たちと』と書いてある。
休みの日に出かけた。楽しかったが私はあまり彼と話ができなかった。彼と親しくなりたいと思っているのは、私だけではなかったからだ。婚約者のいない女子はもちろん、公爵家とつながりを持ちたい男子も群がりすごかった。残念だったが、それを補うほどいいことがあった。
今まで班が違うのであまり話したことのなかった、子爵家の三男のシェシービ様たち数人と少し親しくなれたのだ。話してみるとみんな水魔法が得意という共通点があり、そこから話が弾み授業でわからないことを質問する仲間になった。
進級しチャヒード様ともシェシービ様ともクラスが別れてしまった。
でも水魔法仲間とは、予定が合えば図書室で一緒に勉強したり、休みの日に遊んだりした。
私は今、カレンダーを見ながらニヤニヤしている。
カレンダーには『シェシービ様とお出かけ』と書いてある。
もちろん『シェシービ様』の後に空欄はない。