" KISS " が上手い作家
私はキスシーンを極めたい
もう、覚悟は決めた
原稿用紙とペンを手に
私は空の旅に出た
2,635,193人が乗るジェット機は
すでに離陸し空の上
さ迷い人の行く先は
まだ誰にもわからない
私はキスシーンを極めたい
読んだ人をポワポワさせる
書いた私もニヤニヤできる
そんな瞬間を
手に入れたいのだ
甘いキス
優しいキス
切ないキス
美しいキス
何度も読み返したくなるような
ロマンチックなキスシーンを書けるようになりたいのだ
既に空高く目的地は遠い
届かぬ高みに溜息をつく
────窓の外 雲の合間に 高評価
ブックマークに 「いいね」と感想───
【 詠み人:ゆりキッス☆黒い安息日 】
俗物的だと笑わば笑え
程度が低いと見下せばいい
それでも
私が美しいと感じる事に、きっと誰かが共感してる
私が楽しいと感じる事に、きっと誰かが共感してる
私が愛せる全てのことが、きっと誰かの胸に刺さる
それを証明したい
その証拠が欲しい
自分に素直になることが、きっと最短距離なんだ
そう信じて旅に出たんだ、キスシーンに愛を見出したんだ
だから私は……
う……
息が出来ない……
苦しい……
助けて……
「お客様の中に
キスシーンが上手い作家さんはいませんか!」
機内にドクターコール
駆けつける客室乗務員
そのままくたばれと誰もが思う機内で一人
立ちあがる勇敢な救世主
「接吻歴65年、口付けの大家と言われたワシにまかせよ」
大柄な和服の老人が
私の肩を掴み
長い髭の隙間に覗く唇を突き出し迫ってきた
ちがう! そういうことじゃない!
ちがう! そういうことじゃない!
「……………………………………!」
ご覧なさい、あの空を
飛行機雲が、見えるかな
夢を信じて、空高く飛ぶ
さ迷い人の、足跡が