人殺しの道具
士官学校生活が始まり一ヶ月が過ぎ異常が日常になり、鬼がたまには人間に見えるくらいになってきた。
「一学年、急げ走れ!」
訂正、あれは鬼だ。
それはそうと今日は、一学年の銃貸与式だ、やっぱり軍隊と言ったら銃だよな!これを貰ってやっと士官学校に入った実感が湧くというもんだ。
そうして遂に銃貸与式の時間になった、一学年全員が朝礼場に集まり教官が一人ひとりに手渡すらしい、さっさと行って銃を貰おう。
そう思い朝礼場に着くと教官が立っていた、珍しいな教官が生徒よりも早くいるなんて、いつも行事がある時はギリギリに来るか始まってから来るのに、今日はとても早くにいる、生徒なんて俺が一人目で誰もいないのに何か考えているように遠くを見ている。
「おや、一番乗りはオーレンドルフ君でしたか、こんなに早く来るなんていい心がけですね。」
「ええ、教官もお早いですね、ところで俺の名前を覚えていてくれたんですね。」
「はい、私はその学年で入った生徒は全員の名前と顔を覚えているんですよ、教官として当然でしょう」
マジか、教官なんて高い所で見下しているだけの存在だと思っていたが、その考えは改めなくてはいけないようだ。だがまだ疑問が残っている。
「教官は何故こんなにも早くここに居るんですか?」
「ああ、それはですね、この銃貸与式がとても大切な行事だからですよ、勿論他の行事が大切ではないと言っているわけではないですが、私が何故こんなにもこの行事を大切にしているか分かりますか?オーレンドルフ君」
それは銃を渡すからだろうけど、そんな浅い答えを望んでいるんではないんだろう、じゃあなんだ?やっぱり人を殺す道具を渡すからだろうか?
「人殺しの道具を渡すからですか?」
「確かに極論、銃は赤子ですら他人の命を簡単に奪ってしまう道具ですが、私が言いたいのはそうではありません、あなた達はこの銃を使うより、使わせる事の方が多くなるでしょう、それはあなた方の肩に千や万の命がかかっていると言って過言ではありません、このポランド陸軍士官学校はそのようなに部下や国民の命の事を学んだり実感する機会は多々有りますが、その中でもトップレベルに時期が早く、とても深い意味があります。そのようなとても大事な行事に生徒よりも遅く行くなんて出来るあろうはずがありません。
そろそろ他の人達も集まって来ましたね、では私は準備が有りますのでこれで」
考えた事なんて無かった自分の部下なんて…俺は自分の事や家族たちの事しか考えてなかったが、俺は将来部下や銃後の国民の命の責任を担うんだ。
そうして決意を改めた銃貸与式はつつがなく終わった。