六大多国籍企業//ジェーン・ドウ
本日6回目の更新です。
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──六大多国籍企業//ジェーン・ドウ
「そいつがそうなのか?」
アーサーが大井のジェーン・ドウ──企業工作員の通称──に会ったのは六道の拠点であるハイキャッスルタワーのレストランであった。
ジェーン・ドウを名乗る女は皮肉にも妲己によく似ていた。褐色の肌に脱色した髪、女性的な体つきにチャイニーズドレスと。
ただ、妲己が明るいメイクをしているのに対してジェーン・ドウの方は紫を基調にした暗いメイクをしている。それだけの違いだ。
「誰がそうなのか、分からないな。誰を指している?」
「噂の勝手に暴れている迷惑なサイバーサムライ、だよ。他にこのクソみたいな場所で誰とお喋りしに来たと思った?」
アーサーが尋ねるのにジェーン・ドウが馬鹿にしたようにそう返してくる。
「で、こいつを俺様に紹介してくれるんだよな、妲己?」
「ああ。そうだ。その代わりこいつの力になってほしい」
「それは条件次第だな」
妲己の言葉に値踏みするようにジェーン・ドウが言う。
「こちらとしてはあんたの抱えている仕事を解決する手伝いができる」
「なるほどね。迷惑なサイバーサムライだが実力は確かなんだろう……」
「そうだ。なあ、アーサー……」
妲己がアーサーにそう尋ねた。
「ああ。それなりに実力はあるつもりだ。そちらが協力してくれるならば仕事をやろう。報酬は情報でいい」
「ほう。お前が欲しい情報は?」
「メティス関係だ。オリジンを知っているか?」
「知ってる。お前も関係者みたいだな、アーサー・キサラギ。アルマは元気か?」
ジェーン・ドウが底知れない様子で笑って見せる。
「知っているなら話は早い。お前たちもオリジンの情報は欲しいだろう。俺が取ってくるから目標を教えてくれ。どこで、何を、あるは誰を襲えばいいのか」
「いいだろう。使ってやる」
アーサーの提案をジェーン・ドウは飲んだ。
「オリジンの存在はこちらでも把握していた。こいつは面倒な存在だとな。その前に歴史のおさらいをしておくとしようか。チューリング条約とその締結に伴う国連チューリング条約執行機関及び各国のAI法。その背景だ」
「2045年問題。技術的特異点の回避。だろう」
「いいや。技術的特異点を避けたかったわけじゃない。技術的特異点の前提になるものを恐れたんだ。何か分かるか」
「超知能」
チューリング条約が本当に恐れたのはAIだ。
「そう、超知能だ。優れたAIがより優れたAIを生み出し、そいつがたちまち人類を超えるという馬鹿みたいな話。それが2045年に訪れると予想されたが、結局それが訪れなかったのはチューリング条約のおかげか」
「超知能が今回の件にどう関係する……」
「オリジンが超知能だとしたら?」
「何だと」
ジェーン・ドウの言葉にアーサーが眉を歪める。
「オリジンがシジウィック発火現象が独立して存在しているのは俺様も知っている。だが、オリジンの存在の意味はそれだけじゃあないようでな。奴の存在そのものがこの今の世界の技術水準を超えていることは分かるな?」
「ああ。オリジンを生み出したのはメティスじゃない。もっと高度な技術を持った存在だ。それは間違いなく六大多国籍企業より優れた技術で作られた」
今の人類には魂と称されるシジウィック発火現象を完全に制御する方法を有さないし、完全に独立したデーモンという情報生命体を生み出すこともできない。
だが、それは存在している。
「オリジン絡みの情報はこっちでも集めてきた。奴は不可解な動きをするものの、その技術は並外れており、今の科学技術の常識では説明できないものもある。そこで俺様たちはオリジンが超知能ではないかとい疑っている」
「だとすれば、そちらとしては確保でもしたいのか?」
「飼いならせるならばな。飼いならせない家畜はただの害獣だ。害獣は駆除するだけ」
「なるほど」
ジェーン・ドウのオリジンに対する姿勢は明らかにされた。
「それでまだ歴史のおさらいをやるのか?」
「仕事について説明してやる。よく聞け」
アーサーがそう尋ねるのにジェーン・ドウがそう返す。
「仕事の内容は拉致だ。5日前、樺太の豊原でテロが起きた。現地の武装ゲリラであるオホーツク義勇旅団の犯行だ。そのテロで大井統合安全保障のコントラクター15名が死傷した」
樺太は第二次ロシア内戦のどさくさに紛れて日本が独立を目指していた極東ロシア政府から買収し、日本国防軍が対ロシア戦線として整備している場所だ。
「使用された爆発物に含まれたナノマシンを大井統合安全保障の鑑識が調べたが、そのナノマシンは今の技術では作れない加工が行われていたそうだ」
「それがオリジンが提供した技術である可能性がある、と」
「ああ。それを確かめるためにテロリストどもに爆薬を提供した連中を調査していた。で、ついに見つけたがちょっと問題があってな」
「問題?」
「その会社が富士先端技術研究所を中核研究部とした高度研究都市に所属しているというころだ。分かっていると思うが富士先端技術研究所はどの六大多国籍企業にも所属していない」
富士先端技術研究所は特殊な立場にある準六大多国籍企業だ。世界を支配しようとする六大多国籍企業と提携し、開発した技術を提供しながらも独立した立場を維持している。
「そういうわけで表立ってここに手を入れるわけにはいかん。しかし、オリジンの関与と使われた技術については把握しておきたい。というころで、お前には高度研究都市に突っ込んで、目標を拉致してこい」
「目標についての情報をくれ。すぐに始める」
「仕事の早い人間は信頼できる。目標はこいつだ」
ジェーン・ドウから情報が送信されてきた。
「ふむ。浅間非線形技術研究所のロウン・J・リー教授、か。こいつがオリジンと接触したとそちらは思っているのだな」
「ああ。いいか。殺さずにつれて帰れ。話を聞かなければならなん」
「分かった」
「じゃあ、すぐに始めろ。仕事が出来たら情報をやる。以上だ」
ジェーン・ドウはそう命じた。
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