通常業務//報酬
本日3回目の更新です。
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──通常業務//報酬
死体があちこちに転がっている。
破壊された軍用グレードの機械化ボディから循環型ナノマシンの混じった人工血液が漏れ出し、血だまりを作っていた。首や四肢というパーツも散らばっている。
「ファック、ファック、ファック! クソッタレ──」
またひとりの独立系民間軍事会社所属のコントラクターがアーサーの振るう超高周波振動刀“毒蛇”によって切り裂かれ、地面に崩れ落ちた。
「ナイト・ゼロ・ワンよりナイト・ゼロ・フォー! 制圧射撃だ! クソサイバーサムライの動きを止めろ! やれ!」
「了解!」
民間軍事会社部隊の指揮官の指示に従いコントラクターが操る口径12.7ミリ電磁重機関銃がアーサーに向けて乱射され、アーサーが遮蔽物に飛び込む。
「面倒なのがあるな。一気にやるしかない」
アーサーは遮蔽物から自分を狙う電磁重機関銃を見て呟く。
「空間転移起動」
そうアーサーが告げた瞬間、彼の姿が消えた。
「目標を消失!」
「熱光学迷彩か。生体電気センサーで──」
民間軍事会社の指揮官がそう指示を出そうとしたとき、その首が飛んだ。首が空を舞い、首から鮮血が吹き上げ、身体が力を失って崩れ落ちる。
「なっ……!? 後ろにいるだと!?」
民間軍事会社部隊のコントラクターたちが驚愕する中、彼らのの背後に突如としてアーサーが姿を現していた。
そして、彼の操る“毒蛇”に刃が舞う。
「畜生──」
「うわあっ! た、助け──」
次々にコントラクターたちが切り倒さ、死んでいく。
「最後のひとり」
「ひっ……!」
血を帯びた“毒蛇”の刃をアーサーが最後に生き残っていたコントラクターに向け、ゆっくりと近づいてくる。コントラクターは既に戦意を喪失しており、弾が切れたマガジンを交換することすらしていない。
「ま、待ってくれ! 投降する! 投降するから殺さないでくれ! 助けて!」
コントラクターが必死にアーサー向けて叫んだ。
「そうしたところで俺に何の得がある?」
しかし、アーサーはそう言うのみ。
「やめ──」
そして、アーサーの“毒蛇”がコントラクターの首を刎ね飛ばした。
その直後、電気自動車のモーター音が響き、建物の地下駐車場から車が勢いよく飛び出すと、セクター13/6の道路を疾走していく。
「逃げたか」
アーサーは逃げる車に仕事で依頼された殺害目標がいることを確認した。
「時間停止、空間転移同時起動」
車が動きを止め、同時に瞬間移動したアーサーが車のボンネットに立った。
「終わりだ」
アーサーは“毒蛇”で車のフロントガラスを割ると同時に手榴弾を放り込むと車のボンネットを蹴って素早く離脱。
時間が動き出すと同時に車が大爆発し、殺害目標全員が死亡した。
アーサーは炎上する車に近寄り、死体を機械化した眼球でスキャンする。
「土蜘蛛。仕事は終わった。目標は全員死亡」
『早いな。もう終わったのか?』
「ああ」
マトリクスを通じてアーサーが土蜘蛛に死体の生体認証データを送信し、仕事の完了を報告した。
『妲己の姉御には報告しておく。後で報酬の話があるはずだ。連絡を待て』
「分かった」
土蜘蛛から六道の幹部である妲己という仕事をアーサーに依頼した女性に仕事の完了が報告される。
『アーサー? 仕事が終わったらしいね』
「ああ。終わった。土蜘蛛から連絡が行っただろう?」
『こちらでも確認した。よくやってくれたね。報酬を送金する』
「確認した。また仕事があれば回してくれ。それから──」
『メティスについては引き続き土蜘蛛に調べさせる。安心しな』
「すまない」
『構いやしないよ』
ハスキーな女性の声がワイヤレスサイバーデッキを通じてアーサーに届く。アーサーが礼を述べると声の主である妲己は僅かに笑って通信を終了した。
「終わった、お父さん?」
「ああ。終わった」
そしてアルマが現れ、アーサーが笑みを浮かべる。
「まだ……こんなことをしなければいけないの? 人を殺して……」
「仕方ない。セクター13/6で生き残るにはこれしかないんだ」
「ここから出ていくのは?」
「メティスに追われているから無理だ。ここにいて辛うじて逃れているのだから」
キサラギ親子がここに逃れているのはひとえにメティス・グループという世界を牛耳る六大多国籍企業の一角に追われているからだ。
「だが、いつかお前は自由になれる。ひとりで生きていけるようになる。こんなところで過ごさなくてもよくなる。だから、今は我慢してくれ」
「でも、それでお父さんは……」
「俺のことはいいんだ。これは俺の招いたことなのだから」
アーサーはアルマにそう言うと歩き始める。
TMCセクター13/6の通りをアルマと進むが、通りにいる堅気の人間も犯罪組織の人間もアーサーの声をかけようとはしない。腰に下げた“毒蛇”と明らかに機械化された身体が彼をサイバーサムライだと示しているからだ。
同時にアルマにも気づく様子はなかった。半透明で宙を漂うアルマを見て声を上げる人間などいない。気づいていないのだ。
「おじさん、遊んでいかない?」
通りにいた電子ドラッグのウェアを首のブレインコンピューターインターフェイスポートに突っ込んだ若い娼婦──セクター13/6には腐るほどいる人種──がアーサーに笑いかける。
アーサーは娼婦を一瞥して鼻を鳴らすと立ち去った。
「ED野郎!」
若い娼婦はそう吐き捨てたが、アーサーの耳には届かない。
アーサーは暫く歩き、立ち飲み酒場に顔を出す。トタン板と廃材で作られ、みすぼらしい風体の男女が集まっている場所だ。
「よう、アーサー。いつものかい……」
酒場の主人は日本陸軍横流しの戦闘服姿の大男。合成酒の化学薬品臭を漂わせながらアーサーに声をかけた。
「頼む。金が入った」
「あんたは加減を知っている男だから何も言わないが」
「分かっている。説教はいい。ブツをくれ」
「はいよ」
店主が昔のSDカードに似た形状をしているウェアをテーブルに置く。
中身は電子ドラックだ。スリープ・アズ・デッドという電子ドラッグでフェンタニルの過剰摂取で死んだオールドドラッグジャンキーの疑似体験を記録してある。
「金を送った」
アーサーはそう言ってウェアをワイヤレスサイバーデッキに突っ込む。
同時に電子ドラッグの効果が脳と全身に及び痛みが消える。ずっとアーサーを苛んできた痛みが消えていく。
「あんたが買うのはいつも鎮静系のドラッグだな。何があんたを苦しめているんだい、サイバーサムライ……」
店主が電子ドラッグでダウナーな状態になったアーサーにそう尋ねた。
「……罪だ。俺自身の……」
その問いかけにアーサーがそう呟いた。
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