ドッグ・イート・ドッグ//ルサルカ旅団
本日18回目の更新です。
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──ドッグ・イート・ドッグ//ルサルカ旅団
アーサーのいる六道関係施設に迫るオールド・ワグナー所属の生体機械化兵。第4.5世代の熱光学迷彩に姿を隠した彼らが着実に迫ってくる。
『迫撃砲が射撃準備を終えている。いつでも支援可能』
『目標を戦術リンクにアップロードした。叩きのめせ』
『了解』
オールド・ワグナーは準備していた旧ロシア陸軍の口径82ミリ迫撃砲でまずは煙幕弾を叩き込んだ。その煙幕によって迫撃砲が狙いを定めるのと同時にアーサーの視界を塞ごうとする。
『前進、前進。サイバーサムライなど我々の敵ではない。電磁ライフルで挽肉に変えてやれ。ルサルカ旅団の恐ろしさを思い知らせろ』
『迫撃砲が攻撃準備射撃を実施する』
次に迫撃砲は榴弾を叩き込んできた。
その迫撃砲弾は建物に影響が与えられるほどの威力はない。口径82ミリの旧式迫撃砲弾にそのような威力はないが、アーサーが建物から出れば八つ裂きに出来る程度の威力は十分にある。
『敵は身動きができないはずだ。叩きのめすぞ』
『RPGを準備しろ。建物ごと吹っ飛ばす』
迫撃砲弾が降り注ぐ建物に向けてオールド・ワグナーの生体機械化兵が対戦車ロケットを構え、そして放った。
限定AI制御かつサーモバリック弾頭のそれが建物内のもっとも殺傷効果が及ぼせる位置にて炸裂し、建物が爆炎に包まれる。衝撃波が駆け抜けて窓から噴き出す。
『やったな』
『ああ。これでくたばらないはずがない』
オールド・ワグナーの送り込んだ部隊は勝利を確信していた。
だが、そこで生体機械化兵のひとりの首が刎ね飛ばされ、さらに旧式の機械化ボディが排熱処理に失敗して爆発。
『サイバーサムライだ。どこから現れた……』
『クソ。あれは目標だ。まだ生きているだと』
アーサーは“毒蛇”を構えてオールド・ワグナーの生体機械化兵に肉薄し、超高周波振動刀で敵を引き裂き、撃破する。
『アーサー。敵はルサルカ旅団って連中だ。旧ロシア空挺軍の生体機械化兵で編成されている。プロの殺し屋どもだぞ。用心しろ』
「ああ。用心して皆殺しにする」
アーサーは土蜘蛛からの連絡にルサルカ旅団と呼ばれた生体機械化兵たちを見渡し、彼らが手に握っているのが旧ロシア空挺軍の装備である口径14.5ミリの電磁ライフルであることを確認した。
『殺せ。次こそは確実に』
敵は正面に8名。一斉にアーサーに電磁ライフルを向け、引き金を引いた。
「時間停止短時間起動」
アーサーは放たれた極超音速ライフル弾を“毒蛇”で切り払う。
『馬鹿な。いくらサイバーサムライでもそんなことは』
『撃ち続けろ。怯むな』
電磁ライフルが次々に大口径ライフル弾を叩き込むもことごとくアーサーに叩き落とされ、アーサーはゆっくりとルサルカ旅団の生体機械化兵に近づいていくる。
『こうなれば手榴弾だ。くたばれ』
じわじわとアーサーが近づいてくるのに生体機械化兵が手榴弾を投擲。電子励起爆薬で起爆し、衝撃波と鉄片が撒き散らされる。
『これで奴も──』
斬撃が油断した生体機械化兵に叩き込まれ、胸を引き裂かれた結果排熱機構が破損した機械化ボディが高熱となり爆発した。
『未知のサイバネティクスを使用してやがるぞ。化け物だ』
『何としても殺せ。さもなければ殺されるだけだぞ』
ルサルカ旅団の兵士たちは必死にアーサー銃撃し、殺害しようとする。
「皆殺しだ」
だが、銃弾は1発としてアーサーに達さず、ルサルカ旅団の兵士たちは鏖殺された。
破損した機械化ボディがあちこちに転がっている。人工筋肉が炎で焼けてタンパク質が変性し、奇妙な形に捻じ曲がっていた。装甲であった複合装甲も砕け、そして炎に焦げて異臭を発している。
「はあはあはあ」
アーサーはそのような生体機械化兵の墓場で激しく息を吐いていた。目は充血し、鼻と口からは血が漏れている。
『お父さん! 大丈夫……』
「大丈夫だ。問題はない。まだ敵はいるのか……」
『まだいる。けど、ここは逃げよう。戦っても意味がないよ』
「奴らは俺たちを殺しに来てるんだ。逃げても追われる。だから、戦わなければならない。そうしなければ安息などないんだ」
『だけど』
「敵の情報をくれ。全て殺す」
『お父さん』
アルマがいたたまれない顔をしてアーサーを見つめていた時、ネフィリムのアバターがアーサーの拡張現実に表示された。
『アルマのお父さん。敵は撤退を始めましたよ。ただ、ハイキャッスルタワーが襲撃を受けているのです。恐らく敵は先に六道を倒してから、こちらに戦力を集中させるつもりですね』
「今なら六道の戦力とで挟み撃ちに出来る、か」
『その通り。ハイキャッスルタワーに向かうことを推奨します』
「分かった。やろう」
ネフィリムの提案にアーサーが頷く。
『アーサー。ハイキャッスルタワーに向かうんだな?』
「そのつもりだ」
そこで土蜘蛛から連絡が来た。
『妲己の姉御には世話になった。助けてやってほしい。ハイキャッスルタワーは酷い攻撃を受けている。猶予はあまりない。足はこっちで準備しておくから、頼むぜ』
「ああ。妲己を助けよう」
土蜘蛛の言葉にアーサーが頷き、それからアーサーは土蜘蛛がハックして準備したSUVに乗り込んだ。
「TMCが燃えている」
ハイキャッスルタワーに向かうまでの道路で夜空に伸びるいくつもの炎の柱と煙が見えた。TMCが全面的な攻撃を受けている。TMCが燃えている。
『大井統合安全保障は先ほど緊急事態宣言を発令しました。全てのTMC市民は大井統合安全保障職員の指示に従ってください。指示に従わない場合、事前の警告なく発砲する可能性があります。繰り返します──』
TMCの警察業務を委託されている大井統合安全保障が全力出撃しているが、彼らが守っているのはあくまでセクター一桁台のみだ。
金持ちは安全も金で買えるというわけである。
『メッセージが1件です』
そこでSUVを運転するアーサーの拡張現実にメッセージが届いた。
『よう、サイバーサムライ。俺様だ。以前に仕事を回してやったジェーン・ドウだよ。覚えてんだろ? お前に仕事を与えてやるよ。やる気があるなら返信しろ。すぐにな』
「メッセージを返信。話を聞く気はあると伝えろ」
すぐにアーサーがジェーン・ドウからのメッセージに返信。
『おいおい。何だ、このメッセージは。大物にでもなったつもりか……。まあいい。仕事を回してやる。今TMCが燃えてるのは知ってるな……』
すぐにジェーン・ドウが直接通信してきた。
「知っている。既にロシア人と交戦した」
『なら、話は早い。ロシア人のボスであるカジミール・スルコフって男を殺せ。それが仕事だ。他の連中はどうでもいい。この男を殺せば70万新円だ』
「分かった。情報は……」
『奴の生体認証データだ。確実に消せ。しくじれば消されるのはお前だ。じゃあな』
ジェーン・ドウはそう言い放って連絡を切る。
「かくして天から硫黄と炎が降る、か」
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