追跡者//ハッカー
本日14回目の更新です。
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──追跡者//ハッカー
『ローガン。アーサー・キサラギは次にマトリクスで動く』
ジョン・ドウからそう言われ、ローガンはマトリクスを探っていた。
彼自身は自分が優れたハッカーではないことを自覚していたので、そこは外注することにしている。
「お前が仕事を受けるハッカーか……」
「ああ。俺はマトリクスじゃあ有名だぜ」
ローガンはTMCセクター13/6のハッカーのたまり場であるバーで仕事を受けるハッカーと会っていた。
ハッカーは20台前半ほどの若い男でスキンヘッドにした頭にアニメーションタトゥーを入れている。脳みそがサイケデリックに動き回る電子ドラッグジャンキーの妄想みたいなタトゥーだ。
「有名かはどうでもいい。仕事をちゃんと果たせば10万新円だが、しくじったらそれ相応の罰がある。それでも受けるか……」
「金が欲しい。やるから仕事の中身を教えてくれ」
「この男を探し出せ」
ローガンがハッカーの端末にアーサーの情報を送信。ハッカーがそれを確認しながら情報が十分かを確認する。
「いつまでに探し出せばいい?」
「明日の0800まで。すぐにやれ」
「あいよ」
「待て。悪いが監視させてもらうぞ」
「けっ。仕事には信頼が大事だぜ」
「それなら信頼に値する人間になることだ」
ローガンはハッカーが仕事をやる拠点までついていく。
ハッカーの拠点としているのはTMCセクター13/6によくある違法建築物のひとつで薄汚いアパートだ。部屋も1LDKと狭く、外からは近くに店舗を出している外食チェーンの騒々しい宣伝広告が響いてくる。
「さて、仕掛けを始めますか」
ハッカーがマトリクスにダイブする。
ハッカーはアーサーについて検索エージェントを放ち、マトリクスの中をを探る。
「ヒット! 問題の男は六道関係の施設からマトリクスにアクセスしてやがる。それから何名かと一緒にいるみたいだぜ。ハッカーどもかね……」
「追加の報酬を払うからそいつらのデータを採取してこっちに送れ。それから六道関係の施設というのは何だ?」
「連中の運営している賭場さ。そこにサイバーデッキがあるみたいだな。そこからアクセスしてるぞ。住所のデータは別料金だ」
「払ってやる。寄越せ。見てくる」
「オーケー。これだ」
ローガンは雇ったハッカーから住所を受け取るとTMCセクター13/6の通りを六道の施設という場所に向かった。
「おい。そこのデカいの。そこで何してる?」
六道の施設は情報通り賭場で武装した六道の構成員がいた。自動小銃で武装したスーツと防水ジャケットというTMCスタイルの服装をした下っ端だ。
「気にするな。俺の用事はすぐに終わる。“R.U.R.”、やるぞ」
「了承」
それから起きたのは虐殺だった。
「クソ! 敵だ! 撃て、撃て!」
「あいつサイバーサムライだぞ、畜生!」
ローガンは六道の武装構成員を次々に超高周波振動刀“牛鬼”で引き裂いていき、彼らの手足が、腹部から零れた有機、無機問わぬ臓物が賭場の床に撒き散らされる。
「た、助け──」
邪魔であれば無関係な客すらもローガンは斬り倒した。
死体が積み重なり、銃痕が壁に刻まれ、鮮血が周囲を染め、そして皆殺しとなった。
「この先か」
ローガンはそう呟いて賭場の奥にあった金属の扉を蹴り開ける。
「サイバーデッキ。しかし、ハッカーはいない。なるほど。これは踏み台か」
雇ったハッカーが見つけたアクセス地点は実際の位置を特定されないために利用された踏み台でしかなかった。そこにはアーサーも土蜘蛛もいない。使われていないサイバーデッキのライトが点滅しているだけで何の手がかりもなかった。
「“R.U.R.”、もういい」
ローガンは小さくため息を吐くと物言わぬ死体だけになった賭場を出てハッカーのいるアパートに戻る。
「どうだった……」
「無駄足だった。他に情報は……」
「奴らはネフィリムってハッカーと接触したみたいだ。“ストレンジャー”とマトリクスでは知られていた奴だな。ハッカーについての情報を纏めてそっちに送るぜ」
「そうか。ご苦労だった」
「じゃあ、報酬を──」
ローガンはハッカーの首を“牛鬼”で刎ね飛ばした。
「ジョン・ドウ。奴はマトリクスで動いていたが、何をしようとしていたかは分からない。情報の線が途絶えた。どうする……」
『奴が接触したハッカーについてこちらで調べておく。その間にやってほしい仕事がある。アーサーはこれで本格的に六道に匿われているのが分かった。そうだな、ローガン……』
「ああ。そのようだ。仕事とは……」
半ばジョン・ドウが言うだろう仕事について予想しながらもローガンは一応そう尋ねた。
『六道を潰す。そのための手札は準備した。お前に任せる仕事はそれだ』
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