初スタバ、友達に騙されて最大サイズのフラペチーノを買う
特大のカップを手に、俺は途方に暮れる。店内の椅子に腰を下ろし、見るからに甘くてカロリーのやばそうな飲み物に、渋々ストローを突き刺しながら俺はつぶやく。
「あいつら許さん」
ことの発端は、俺がスタバに行ったことがないと言ったことだった。
すると友人たちが、フードコートで待ってるから行ってみたらどうだとと言ったので、オススメの飲み物を聞いたてみた。
すると、フラペチーノのベンティがいいと言われた。周りも賛成していたので、それを頼むことにしたのだ。
今思い返せば、店員さんの態度や値段の高さから察しておくべきだった。
普通の営業スマイルかと思ったが、ベンティと言ったらめちゃくちゃ笑顔でかしこまりましたと言っていたし、値段も思っていたより結構高かった。
ああ、どうしよう。
過去をいくら嘆いても、カップの中身は減らない。俺は意を決してストローから一口吸った。
美味い。冷たくて美味しいし、クリームの部分とよくあっている。これはワンチャンいけるかもしれない。
そんなふうにも思ったが、やっぱり無理だった。
何となくこうなりそうな気はしていたが、どうしよう。カップの中にはまだ半分くらい残っていたが、これ以上飲んだら、甘ったるさで胃もたれしそうだ。
こんなサイズ誰が得するんだ?
あ、まさかシェア用か? 残った分をタダでもらおうとしたのか? もしそうなら絶対にあいつらには渡したくない。
だが現実問題、これを飲まないのが一番もったいない。しかたないがフードコートに行くことにしよう。そう思って俺は歩き始めると、後ろから話しかけられた。
「ねえ、高橋君だよね。そのサイズ飲んでるの?」
「え? 吉川さん!?」
「私もよく頼んでるけど他の人が飲んでるのは初めて見たよ」
振り返ると、後ろのテーブルに同じクラスの吉川さんがいた。そして彼女の手には、俺のものと同じサイズのカップに、残りのほとんどないフラペチーノが入っていた。
何かの間違いかと思って二度見しても、それは変わらない。吉川さんあんなの飲めんの? 俺の中にあった彼女のイメージが変わっていくが、これはチャンスかもしれないと思い直し、聞いてみる。
「吉川さんってまだお腹すいてる?」
「少しはね。どうかしたの?」
あれ飲んでまだ!? 内心めちゃくちゃ驚きながらも、それを見せないようにしてお願いした。
「実はこれ、間違えて頼んじゃって多すぎるんだ。本当に申し訳ないけど、だいじょうぶなら残り飲んでくれる?」
……しばらく沈黙が流れた後、俺は気付いた。そんな親しくもない人に頼むことじゃないなと。ヤバイ、引かれた。訂正しようとした矢先だった。
「分かった。もったいないし、飲んであげるよ」
吉川さんが、少し頬を赤らめながら答えてくれた。彼女の照れた顔が可愛くてノックアウトされそうになりながらも俺は、なんとかありがとうと絞り出した。すると、彼女は、俺がテーブルに置いたカップを手に取り、飲もうとした。
「ちょっと返してくれ」
「なに?」
俺は吉川さんを止め、返してもらったカップのストローを抜いてからもう一度渡した。
「自分のストローあるだろ」
「あ、そうだった」
本当に気づいていなかったらしく、慌てて自分のカップからストローを抜いて、俺の渡したカップに入れた。
あのまま俺が止めなければ間接キスしてたよな……それでOKするってこの人大丈夫か? そんなことを考えていると、吉川さんがまた話しかけてきた。
「高橋くん、ありがとう」
「どうした?」
「だってこの味頼むかどうか最後まで迷ったもん」
彼女は抹茶味、俺は店員さんにお勧めされた季節のフルーツ味を頼んでいた。もしかしたら俺に罪悪感を感じさせないために言ったのかもしれないが、ツッコまずにはいられなかった。
「これより下のサイズにすれば両方頼めただろ」
「あ、たしかにそうだね」
本当に気付いていなかったようで、その返事に思わず少し笑いが漏れてしまった。
彼女は少し不満げな顔をした。だが、フラペチーノを飲むうちにだんだんと笑顔になっていく。結局、見ているこっちも嬉しくなるくらい幸せそうな顔をしてくれた。
「そういえば間違えて頼んだって言ってたけど何かあったの?」
そういう彼女に理由を説明すると、あいつらに対して怒り始めた。
「そんなとこで騙すなんて信じられない。 飲めなかったらもったいないのに」
「たぶん余ったら飲んでくれる予定だったから大丈夫だよ」
宥めるように返しても、彼女の気持ちはおさまらない。
「それにしても時間経つと味が落ちちゃうし、なにより高橋くんの初スタバの印象が悪くなっちゃうよ」
確かにそうかもしれないが、俺はそんなこと思っていない。
「吉川さんが話しかけてくれたおかげでいい思い出になったし、大丈夫」
「でも……」
「わかった、じゃあ来週の金曜、学校終わりにここ来るからおすすめ教えてくれ」
「え」
「お願いできるか?」
「まかせて」
よし、これなら吉川さんの溜飲が下がるし、おれもいい思い出が作れるし、ついでに店も得する。三方良しだ。
「それじゃ、楽しみにしてるからな」
「うん」
そう言って俺は、金曜日のことを想像しながらそのまま家に帰った。楽しみだなー。
女の子と二人で遊びに行くなんて、小学校以来だ。服とかどうすればいいんだろう。あ、そういえば連絡先聞けばよかった。
いろいろ考えていると、俺を騙した友人たちからLAINが来た。やりすぎたと思って反省してるらしい。
少し考えてから、菩薩のような心で、全員に許さんと送った。
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