表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/87

71



フランツとナタリーの間に沈黙が落ちる。それは、言葉を上手く呑み込めないような――重い空気感で。


「き、けん……ですか?」

「ああ……」


力を振り絞って、ナタリーは口を動かす。すると、フランツもその言葉に応えるように言葉を紡ぎ始めた。


「たしか前に、公爵様が起きんかった時があったじゃろう?」

「え、ええ」

「その時にな。公爵様の魔力暴走に関して――魔力量を検査してたんじゃ……まあ、いつも定期的にやっとることだから、そう変わったことではないんじゃが」


フランツが話す内容に、しっかりと耳を傾ける。そして、思い出すのは戦争時に……ナタリーとお父様を助けるために。敵から攻撃を受け、倒れてしまったユリウスの姿。


(でもたしか、あの時は。私の魔法で、傷が塞がって――)


ナタリーがフランツを見つめれば。フランツもまた、ナタリーが何を考えているのか分かったようで。


「そうじゃな、あの時は……ナタリー嬢のおかげで、公爵様の魔力も落ち着いていたんじゃ」

「……そうなのですね」

「うむ……しかし一時的にといった感じでな」


フランツが言うには、魔力検査でいつも大幅に記録される数値が減っていたとのことだった。しかし、魔力暴走の発端であるファングレーの魔力がまるっと消えたわけでもないらしく。


「結局、今のように……暴走することになってしまったんじゃ」

「……」

「じゃがな、一つ分かったことがあってのぅ」


話を切り替えるように、フランツが口を開く。


「公爵様の魔力がな……部分的に、変わったんじゃ」

「かわ、った……?」

「ああ、それも……検査をした時にみた――ナタリー嬢の魔力と混ざったものに変わっていたんじゃ」


フランツの話を聞き、ナタリーはハッとする。それは、つまり――。


「先ほど言った、公爵様を治す方法に戻るとしようか。それはの……ナタリー嬢が、公爵様が持つ魔力に自分の魔力を混ぜればいいんじゃ」

「……っ!それなら――!」


はじめフランツは、ナタリーの身体に悪影響が出るかもしれないと言っていたが。自分の魔力をユリウスに送ること。つまり、癒しの魔法を使うのであれば。いつも通りに、慣れたことなので――全く問題がないと答えようとした時。


「しかし――今の公爵様は、完全に暴走したと聞いておる。ナタリー嬢が、魔法を……魔力を使ったとしても」


より一層厳しい顔つきになったフランツは。


「ナタリー嬢の魔力が無くなる――もしくは、命に関わる負傷を負うかもしれないんじゃ」

「そ、れは――」

「厳しいことを言うんじゃがな、この可能性は……魔力暴走はじまりのころならまだしも……今はとても高い」


魔力がなくなるというのは、すなわち魔法が使えなくなることと同義で。なにより、魔力が無くなったあと、使われるのは自分の命。剣舞祭の違反者と同じく、生命力を使用することに繋がるのかもしれない。


今まで、魔力を完全に出し切り――その後、またさらに使おうとする事例は聞いたことがない。ナタリーの先祖すら、魔力を使い切るだけだったのだ。


そんな誰も踏み込んだことのない方法を試すのは――。


「悪いことは言わん……公爵様のことは忘れて。ナタリー嬢は、平穏な生活に戻ったほうがいい」

「……え?」

「公爵様の国・セントシュバルツでは、家を取り潰し――もう屋敷すら撤去されたと聞く……ナタリー嬢は何も悪くないんじゃ……時期が、運が悪かっただけで」


フランツはまるで、子どもをあやすように。諭すように、ナタリーに優しく語りかける。その言葉は、お父様と一緒で――本当に、ナタリーのことを気遣うもので。


「公爵様もな……ナタリー嬢に幸せに暮らしてほしいと言ってたんじゃ」

「閣下が……?」

「ああ、剣舞祭の頃じゃったかな。体質のことで、今話した内容と同じことを説明したんじゃが、ナタリー嬢に危険が及ぶのは嫌だとな……」

「……」


フランツの言葉を聞いたのち、ナタリーは自分の手に力を込め。きゅっと握る。


「フランツ様」

「なんじゃ?」

「閣下の体質を治す方法……可能性はゼロではない、で合っていますか?」

「ああ、そ、そうじゃが……」


ナタリーの言葉に、フランツは不意を突かれたようで。驚いている様子が分かった。そんなフランツに笑顔を向けて。


「私、閣下のもとへ行こうと思いますわ」

「ほぅ?」

「可能性がゼロではないこともそうですし――会って話したいこともあるんですの」

「……そうか」


フランツは眩しいものを見るように、目を細めたのち。「ナタリー嬢が決めたのなら、それが一番じゃ」とゆっくりと頷いた。


「ほっほっほ……公爵様が、うらやましいのう……」

「え?」

「いや、なんでもじゃ。ああ、そういえば――公爵様のもとへ行くとは言っていたが……場所はわかっているんかの?」

「はい……王城にいらっしゃる、と。ただ……」


ナタリーが言葉を言い切らずに入れば、フランツが察したように。「ああ、今じゃと――制限をかけているようじゃの……実質、封鎖しとるといったところかのう……うぅむ」と頭に手を当て――悩んでいる様子が伝わる。


「しかも。ここからじゃと……馬車でも時間がかかるからのう……」

「そう、ですわね」

「じゃが、わしはエドワード様のように瞬間移動の魔法は使えんからのう……」


フランツが「困った」と言いながら、何か手立てはないものかと。ぐるっと部屋を見渡したのち。カーテンに目を留まらせていた。


「ほっ!そうじゃったわ」

「フランツ様……?」

「ついのう……忘れてしもうていたんじゃが」


フランツは何かを見つけたかのように。立ち上がり、カーテンで閉め切られている場所へ、ずんずんと歩いていく。


(あのカーテンの先は……確か、エドワード様が寝ていた……ベッドがある場所?)


ナタリーは、フランツの行動を見守るように。視線を向けていれば。フランツはカーテンに手をかけ、勢いよく。


――シャッ


「ほれっ!起きんかいっ!」

「うっ……」

「え?」

「まったく。上がいないとすぐ、怠けるからのう……」

「うぅ……なんだよ、じいちゃん。ちょうど休憩の時間なんだから……ってか、俺は、美女さえいれば、怠けたりなんか……ってあれ?」


フランツが開けたカーテンの先には、見覚えのある軽薄そうな――甘いマスクをした男。ユリウスとよく一緒に騎士団にいた――。


「マルク様……?」

「麗しのご令嬢っ!?」


ナタリーも驚いたが、それ以上に。素っ頓狂な声をあげながら、マルクは盛大に驚いていた――。


お読みくださりありがとうございます!

⭐︎の評価を下さると、励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ