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「さて、そうしたら。今の状況を伝えないとね」

「お母様、ありがとうございます」

「いいのよ。ただ、今は結構……逼迫しているようなのは確かよ。公爵様のいる――王城のお話は、伝え聞いた限りだと。人の入城を制限しているそうよ」

「そ、そんな……」


王城へ人の出入りを制限するのは、戦時や災害時のはずで。ナタリーはお母様の話を聞いて、ごくりと喉を鳴らす。


「どうやら、王族や王城に仕える者以外――貴族すらも立ち寄れないのだとか」

「……でも、その制限が続いているということは」

「そうね。まだ、王城に閣下は“生きている”可能性は高いと……思うわ」


お母様は、ナタリーの肩をポンと優しく叩いて。


「きっと何か、打開できるはずよ」

「は、はい」

「いい顔になったわね。ふふ……あ、そういえば。閣下のご病気、ご体質は……あのお医者様では、治らなかったのかしら……」


ふと、お母様が疑問を口に出す。それは、ナタリーも考えていて……というより。前世では、フランツがユリウスの身体を治したと思っていたのだが。


(フランツ様は長年……閣下の身体を診てきたのだから、何も知らないことはないはず)


ナタリーは地下墓地で、魔力暴走があることはよくわかったが。それに対して、自分の魔法で治すことができるのかはあいまいだ。


(一時的な治療はできたのだけれども――結局閣下は、再発して……)


思い浮かぶのは、ペティグリュー家の遺跡で見た――苦痛の表情をするユリウスの顔だ。自分の知識だけでは、限界かもしれない。しかし。


黒点病のこともしかり、様々な病に精通しているフランツなら。そして、ファングレー家の担当医としても。彼に会えば、何かがわかるかもしれないのだ。


「お母様、私。フランツ様の所へ行こうと思います」

「そう。決めたのね?」

「はい……!」


力強くお母様に返事をすれば、お母様はにこりと微笑み。


「そうしたら、家から出なければいけないわね……」


その言葉を聞き、ナタリーは暗い表情になった。現在、自分はお父様から見張り――外出を禁じられているのだ。決めたはいいものの、そう簡単に出ることなど――。


ナタリーの考えこむ様子とは、対照的に。お母様は、すぐさま立ち上がって……ナタリーの部屋の扉を開ける。


「奥様、お話は終わりましたか?」

「ええ、ああ……そういえば、そろそろあなた交代の時間じゃなかったかしら?」

「あっ、確かに……そろそろですね」


どうやら、お母様は扉の外にいる見張りの使用人と話しているようだった。


「ずっと立ちながらいるのも、辛いでしょう?」

「い、いえ……お心遣い痛み入ります」

「そうねえ、あら……ミーナじゃない!」

「奥様……!ミーナでございます!」


使用人の声とは別に、聞きなれたミーナの声が聞こえてきて。


「そろそろ、働きすぎなミーナに休暇を与えようと思ってね」

「えっ!あ、ありがとうございますっ!」

「ええ、明日はゆっくり休んでいいから……最後に、今日の……この方の見張り交代のお仕事を任せてもいいかしら?」

「もちろんですっ!」

「お、奥様……っ!」


ミーナの明るい声と、使用人の感極まった声が同時に聞こえたのち。お母様は、使用人に下がるよう命じて――再びナタリーのいる部屋にミーナと一緒に戻ってきた。


「お嬢様っ!お身体は大丈夫ですか…?」

「ミーナ、大丈夫よ……それよりも……」


ナタリーは、ほほ笑むお母様に、ミーナが入ってきた理由に疑問の視線を向ける。だって、ミーナは代わりの見張り役として――。


「奥様っ!うまくいきましたね……っ!」

「ええ、ばっちりよ!」

「え?……えっ?」


なにやら、二人の中では特に齟齬はないようで。ニコニコと笑うミーナに、お母様はウィンクをしている。一方のナタリーは、二人の顔をキョロキョロとみて。


「ふふ……ミーナには、手伝ってもらったのよ。屋敷からの脱出計画ってところかしら?」

「はいっ!私、旦那様も、奥様も大好きですが……お嬢様の侍女で、お嬢様のお役に立てることがなによりの誇りなんですっ!」

「ミーナ……」

「へへ、幼い頃からずっと一緒なのもありますけどね」


照れ笑いも入ったミーナは、ナタリーを嬉しそうに見つめた。そう、ミーナはペティグリュー家に仕える使用人の子どもで。幼い頃からずっと一緒だった。


「ふふ、いい侍女をもったわね。ナタリー」

「はい……!ありがとう、ミーナ」


ナタリーがお礼をいえば、ミーナはまたさらに。嬉しそうな笑顔を見せてくれた。


「じゃあ、馬車を用意しているから……荷物を持って裏口へ、ミーナ。案内してあげてね」

「はいっ!お任せを……!」


お母様にそう言われ、荷物を持っていこうとポーチに手をかけ。他に持っていくものがないか、引き出しなどもあけて確認する。


(……エドワード様からいただいた……ペンダント)


目に入ったのは、ずっと返しそびれていた……獅子の紋様が入っているペンダント。王城のことを話していたこともあり、彼の顔が浮かび――。ポーチの中へ、無意識に入れていた。


「荷物を持ちましたわ」


ナタリーの声を聞いたお母様は、こくりと頷き。ミーナに視線を向け――。


「それじゃあ、ミーナ。お願いね……屋敷の中での、お父様のことは私に任せておきなさい」

「お母様……っ」

「いい?後悔をしない気持ちを大切にしなさいね」

「はい……!」

「良い顔よ。それじゃあ、いってらっしゃい」


お母様から励ましの言葉を受け。目をしっかりと開いて、お母様と視線を合わせた。そして。


「いってきます!」


お母様に背中を押されるように、ナタリーは部屋から廊下へと出て行った。お母様を残して、扉が閉まったのち。


「本当に、お父様にそっくりね……ふふ」


部屋に残されたお母様の、楽し気な声が響いていたのだった――。



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