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「ねえ、宰相様…ユリウスの身体を治す…薬は――」

「ええ、もうすぐ…できそうですよぉ。だから、奥様の心配には及びません」


安心させるように言葉を吐き、目の前のテーブルに手を伸ばしたかと思うと。酒瓶を手に持ち――元義母のグラスへと注ぐ。彼女は、その様子に満足しているようで…そのまま、グラスを手に持ち。


中身を飲み干していく。


「ああ、そういえば、奥様…ご子息の薬もそうなのですが…奥様の健康にも。この薬はいかがでしょうかぁ?」

「あら…あたくしのくすり?」

「ええ、ええ。身体の緊張などをほぐしてくれる…画期的な薬なのですよぉ」

「まぁ…」


彼らの話が、盛り上がりを見せ終わった頃。元義母が「ユリウスが魔力暴走をしないで済む…化け物にならずに済むことが知れて――良かったですわぁ…感謝します」と口に出した。


「いえいえ、お力になれたのであれば…幸いですよぉ」

「宰相様は、謙虚な方ねぇ…いつも通り、ご支援を…執事から送りますので…」

「ありがとうございます」


そうして不敵に笑いあった彼らは、元義母の案内のもと。裏の出口から消えていくのであった。


(――そんな…こんなおかしなことが、公爵家で…?しかも、魔力暴走って――)


ハッと脳裏によぎった言葉を証明するように。元義母と宰相がいなくなった瞬間、ぱちりと見えるものが切り替わった。そこに映っているのは、ベッドで寝ているユリウスで。


「か…っか…」


ナタリーの口が無意識にユリウスを呼び掛けてしまう。それほどに、目に映る彼の姿は――悲惨だった。


ベッドで寝ているユリウスは、呻きながらも。何かにおさえるように…自身の腕へ爪を立てている様子が分かった。そして、苦しむユリウスの枕元にも…はっきりと青白い人間たち――ファングレー家の先祖が立っていた。


彼らは口々に、「化け物」、「爆発」、「終わり」と呟き。ユリウスが、その言葉を振り払うように…そして耐えるように。自身の肉体に負荷をかけることで、意識を保っているようだったのだ。


「あまりにも…これは…」

「かっか…閣下…っ」

「……むごい、な」


エドワードが言葉を漏らし。ナタリーもまた、言わずとも酷い状況に…身を乗り出して近づこうとした…まさにその時だった。


「おや、おやぁ…まったく、すごい音がしたと思ったら…観劇をしていらしたんですねぇ」


久方ぶりに聞く――粘着質な声が背後から聞こえたのと同時に。目の前の光景も、まるでストップがかけられたように…パッと消えてしまって。


ナタリーはすぐさま、声のした方へ顔を向けた。するとそこには、予想通り――。


「先ほどぶり…ですかな?…おや、そんな怖い顔をしないでくださいよぉ」


おどけて話かけてくる宰相が、そこにいたのであった。


◆◇◆


「まったく、公爵家はすごいですよねぇ…死してなお、魔力が多いあまりに霊としても存在し続けるなんて…おそろしいですねえ」

「……お前と談笑なんてする暇などないんだがね」

「はあ…やはり、第二王子はせっかちで嫌ですねえ。そうは言いながらも、霊たちが見せたものに目を奪われたのでしょう…?時も忘れて」


宰相は心を見透かすように、ナタリーとエドワードにニヤリと笑いかけた。居心地が悪いのか…エドワードは鋭く宰相を睨みつけている。


「あれは…」

「おや、ご令嬢も見て思うことが…?私も初めて見た時は、驚きましたからねえ。わかりますよ…お気持ち」

「あれは、あなたが…あなたの先祖がしたことは…まことなのですか…?」

「ふ…本当にただの演劇をしているだけなら、良かったんですがねえ」


ナタリーの疑問へ、ひどく拍子抜けした表情を浮かべながら。


「すべて本当のことですよ…私が聞き及んでいるものも…わざわざ、霊たちは映してくれるようで」


そう、宰相は答えた。そして。


「ファングレーという家は、だいぶ特殊でしてね。父親の魔力のほとんどが子に伝わるんですよ…しかも魔力を使用すればするほど、摩耗もしてしまって…。だから可哀そうに、子が耐えられる容器なら大丈夫ですが。無理になれば…」

「…魔力が暴走する、のですか?」

「ええ、ええ。まさしく。そんな時に王家打倒を掲げる…私の家が目をつけましてね。力にもなるし…研究しがいもありますからねえ」


謎を解明するのが、そこまで楽しいのか。彼は、誰かに聞いてくれと言わんばかりに…陽気に喋りだす。


「本当に、研究のし甲斐がありましてね。彼らの体質を改善する方法は全くなく…まあ興味もありませんから…いえ、それよりも彼らね。なんと…遺伝する時に少し魔力をこぼすんですよ」

「こぼ…す?」

「そうっ!まあ完璧にまるっと遺伝なんて、普通の人間でも無理ですからね…当たり前ではありますが…ただこぼれた魔力は、あの屋敷にずっと残っていたようで…」

「え……」


そこまで言うと宰相は、身を震わせながら。「本当に幽霊みたいでしょう?しかも、あの映像のように…子孫の枕もとにまでやってくるんですから…おそろしいですねえ」と。


「まあ、そこを初めて発見したのが、私の一族なのでね…!すごいでしょう!称えられてしかるべきですよね…本当に」

「戯言を…」

「おや?信じたくありませんか?…しょうがありませんね、公爵家にあった王族の手紙をあげますから…お読みになればいい」

「な…」


敵意むき出しのエドワードに対して、宰相は懐から紙を取り出すと。彼に向って放り投げる――その紙に身構え、視線を向ければ。確かに、紙の内側に唯一無二の王家の紋章が描かれていて。


その紋章を目にしたエドワードは、さっとその紙を拾い上げ読み始める様子がわかった。読み進めるエドワードの姿に、宰相はにんまりと気を良くして。


「私、ウソはつきませんので。ゆっくり読んでくださいねえ」

「どうして…」

「ん?」

「才をお持ちなのに、どうしてまだ復讐なんて…」


ナタリーがそういえば。宰相は、その言葉を鼻で笑い――その後。


「ペティグリューはいつもそうだ…何も、悪いことが起きない」

「え?」

「あなた方が、画期的な発明を公表しようとしていたこと…私の先祖も知っていましたよ?」


宰相はナタリーに対して暗くよどんだ声を出すと。


「なのに…同じく発明を先に世に出した――私たちが弾圧されるのを見て。手のひらを返して闇の中へ、地下遺跡に隠してしまうなんて」

「そ、それは」

「別に、これに関して復讐どうこうはありませんが…不平等ですよね?私たちは没落し、憂き目にあって。あなた方はのうのうと…」


そして怒りを込めるように、ナタリーを睨み。


「八つ当たりをしたっていいと…思いませんか?」

「…え」

「良かったじゃないですか、私たちという実験台を経て。あなた方は、無茶せずに済んだ…そして、今となれば…あなた方が隠した発明を有効活用してあげている」

(彼は…何を言っているの?)


ナタリーは宰相の言い分に絶句した。だって、あんまりにも理不尽な理由で。


「ああ、言い忘れていましたが…この提供された実験場で発見だけに終わっておりませんからね?」

「なにを…」

「先ほど言った…公爵家のこぼれた魔力を集める発明をしまして…!」


嬉しそうにはしゃぐ宰相は。じゃじゃーんと言わんばかりに、小さな箱を取り出し…こちらに見せてくる。


「何世代にもわたる魔力を別室で抽出していましてね…もうすぐ終わりそうなんです」


凶悪な笑みを浮かべた宰相は続けて。


「簡易的な魔力暴走装置を…あの国に落としたら…どうなるんでしょうねえ?」

(少しの魔力暴走で、地面が揺れるほどの衝撃を起こしたのだから…)


ナタリーがその威力を想像し、絶望した表情を浮かべれば。宰相は、それに追い打ちをかけるように。


「この箱が、その装置を発射する――スイッチなんです」



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