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「ちょ、ちょっと…!」


苦しむ男性を助けなければと…ナタリーが思わず、制止の声をかけるも。向こうに、自分の声が届いていないのか。全く反応がなく…エドワードが、「あれは…実体がないのかもしれないね」と言った。


「え…?」

「執念や思いが強いと形に残るのかな…?僕は、そういった夢幻の類は信じてないんだけど…」

「そ、それは…」


エドワードは自分の瞳に映る光景に、信じ切れていないのか。眉をひそめながら、じっと見つめていた。しかし、もしこれが執念などといった現実でないものとするなら。


(あの苦しんでいる男性は、助けられないということ…?)


周りに青白い人間が枕元に立ち、ずっと心無いことを言われ続けている。たとえ、その責め苦を受けているのが。他人だとしても…この状況を無心で見られるはずもなく――喉が詰まり、胸の痛みが生まれた。


見守ることしかできずに、その場にいれば。何度も、目の前の景色は変わっていく。ベッドでうなされる以外にも、日常の風景すらもうつされていて。


「ぐ…同盟国の王族どもめ…わが家をコケにしよって…」

「あ、あなた…」

「こんな手紙など…不要だっ」


公爵家の先代当主らしき男性が、怒り心頭に紙をぐしゃっと握りつぶす。その後、妻らしき女性がその紙に目を通し青ざめ――諦めた様子ながらも、奥の金庫に手紙と送付物をしまっていた。


「…ああ、神よ。どうして…わが家の死を、同盟国の王が…願い、命じてくるのでしょうか…助けを求めるのは罪なのでしょうか…ああ…」


(王がファングレー家の死を…?)


うなだれ、手を合わせて祈りを捧げる女性。その女性の口から発せられた言葉に、思わず耳を疑った。ファングレー家は軍事支援をしてあげている側だと思ったのに。


どうして、そんなことが起きたのか――手紙の内容を見ていないため、はっきりと断言はできないが。ただ、「王族」と言われていたので、エドワードの様子は大丈夫だろうかと。彼の方へ視線を向ければ。


「……」


手を顎に添えて…無言で考え込んでいる様子だった。わからない疑問が残る中でも、見える景色は様相を変えていく。そして再び映ったのは、あの怒っていた当主と――別の貴族の男性が会談している場だった。


「役立たずな王家に代わって、公爵様が願うことに…私がお力を貸しましょう」

「ほう…?だが、貴殿も王家に仕える…そちらの国のものだろう?」

「いやなに…誰もが、王家に忠誠を誓っているわけではございません…」


ファングレー家と相対して話す男性に、ナタリーは驚きを隠せない。彼が話す内容は、表立ってバレてしまえば反逆罪として投獄されてしまうほどの――。


「ふむ…」

「私どもはかつて、公爵様の支援がなかった頃――あの国の軍事面を担い、さらなる発展のためまい進したのですが…その力がかえって王家にとって脅威になってしまいましてね…」

「……」

「地位や力をはく奪され…そう、いうなればコケにされましてね。その時から、私の家は王家に対する復讐心しかないのですよ」


重い空気の中、「王家」に対する恨みが語られていた。そしてその話を聞いたファングレー家当主は、「貴殿の話はよくわかった…だが、信じるに足る保証が欲しい」と声に出す。


「なるほど、であれば。もうすぐ、私は…私の家が宰相の地位を保証されるようになります」

「ほぅ?王家で地位を得たのだな?」

「ええ…血反吐による努力の賜物なのかもしれませんね。ですので、この地位を使って――王家で秘蔵されている…“薬”を公爵様に献上しましょう」

「なに?」


ファングレー家当主の眉がピクリと動く。その反応をみた貴族の男性は、笑みを浮かべながら。「なんでも、その薬は万能なのだとか…痛みも病も…何もかも癒すことができるそうですよ」と。


「しかも王家の紋章が付いている器に、入っておりますので…偽装もできない産物」

「……なる、ほど」

「これが、公爵様の言う“保証”になるかは――」

「いや、それなら…なるだろう。持ってきて、効果が見込めた暁には…貴殿が欲している研究の場を提供しよう」


先ほどとは打って変わり。ファングレー家当主は、前のめりになって話をし始める。その様子に男性も満足しているのか頷いていて。


「では…きちんとした契約をしよう…厳重に保管している我が家の――家紋付きの用紙を持ってくるから…少し待っていてくだされ」

「ええ」


そうして、当主が消えた部屋の中――うっそりと笑う男性が。


「ただ…飲み過ぎると――毒にもなる産物なのですがね」


楽し気に呟いたのだった。


◆◇◆


(なんてことが行われて…)


当主と男性とのやり取りを見たナタリーは、背筋に震えが走った。話されている内容がもし本当ならば…様々な思惑が絡まり、それは現在どうなって――。


そうした不安からか、続いて映っている…薬を喜んで受け取る当主と。朗らかにやり取りをしている貴族の男性の姿に暗いものを感じてならなかった。


なにより、貴族の男性の胸元には――宰相を意味する勲章が下げられていて。まるで幽霊のようにうつるこの男性が、現在の宰相の先祖なのだとしたら。


そんなナタリーの想像を証明するように。切り替わった次の景色には。


「宰相様、夫と懇意にしていたあなたなら…今の公爵家の――力になってくださると信じているわ」

「ええ、もちろんですともぉ…奥様」

「はぁっ、あたくしは、ユリウスのためにも…あたくしこそが、家を守ってやらねば」

「ええ、ええ…家のことを思う、素晴らしい奥様ですねぇ」


元義母と楽しく談笑をする…(くだん)の犯人――宰相がそこにいたのだった。



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