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(閣下の家の――墓地…?)


エドワードから言われた言葉に、一瞬…理解が追い付かず。ナタリーは首を傾げていた。そんな様子に気づいたのか、エドワードは壁の一点を指さす。


そこには、「死してなお、ファングレー家に栄光を」という文字が書かれていて。


「僕自身も、全てを理解しているわけではないが…」

「はい…」

「宰相はどうやら…公爵の地下墓地に何度も滞在している形跡があったんだ」

「そ、そんな…」


いったい何のために通っていたのか。その点については、エドワードも知らないようで首をひねっている。なにより、場所が分かったから出ようと魔法を試みても。なぜか魔法が発動せず。何か打開策がないか…自分の知っていることを今一度、思い返していたらしい。


その中で分かること…エドワードが言うには、ファングレー家の墓地と王城付近に瞬間移動の魔法で、何度も行き来したのは確かだと。そう教えてくれた。


「でも、なぜ私たちをここへ…」

「そうだね…確かに出口がないから…閉じ込められているようなんだが…。いったい…」


そうしてぐるりと、エドワードが辺りを見渡してから。サッとナタリーに顔を戻すと…。


「まってくれ、ナタリー。何か声が聞こえないかい?」

「え…?」


突然、身構えたエドワードに触発されて。ナタリーも神経をとがらせながら、耳を澄ませば…自分たちが閉じ込められている石造りの空間――その壁から音がしているように気が付く。


「人の声が…聞こえますわ…」

「ああ…だが、変だね」

「変…?」

「うん…向こうの声が聞こえるということは、こちらの話し声も聞こえているかもしれないのに…気にせず話しているようだ」


エドワードに言われて、ナタリーは確かにと壁を見つめる。相も変わらず、何を話しているかは煩雑で聞こえにくいが…「ファングレー」や「公爵」という言葉を出している様子は理解した。


「ふむ…このままでは、らちがあかないね」

「ええ、どうしましょ…エ、エドワード様っ」

「ん?」

「な、なにを…?」


ナタリーが考え込もうとした矢先、エドワードが会話が聞こえる壁に対して。手をかざしていることがわかった。しかも何やら、魔力を手にためているような…。


「も、もしかして…」

「ああ、瞬間移動は試したけど…そういえば爆破などは試してなかったなって」

「ば、ばく…」


ナタリーが慌てふためいている中、不安を和らげるためか。輝かしいばかりの顔で、ニコッとほほ笑んだと思えば。


「大丈夫!加減は心得ているから、安心して」

「そ、そういう問題じゃ――」

「ただ公爵には、後で謝らないとね」


ナタリーの制止も空しく。エドワードは手に込めた魔力によって…起爆させるかの如く、壁にドカンッと…衝撃を与えた。その瞬間、多大なエネルギーに耐えきれなかったのか。ばらばらと目の前の壁は大きな穴をあけていた。


「ま、まあ…」

「ね?しかも、ちゃんと飛び散るのも考慮して…吹き飛んだ壁は灰燼にしたから」

「え?」


良い笑顔のエドワードとは反対に、ぞわっと…なんだか不吉な単語が聞こえたような。しかし、エドワードの行動によって道が増えたのも事実で。早速、エドワードが見ている穴の先を同じくのぞき込めば。


爆発の衝撃で煙がもくもくとたつ中。だんだんとおさまった先に見えたのは――。


「あ、れは…人…?」

「ふぅん?」


会話していたはずであろう人物たちがいるはずの場所には、青白く光るシルエットがあった。そして、その人物たちの顔を見た瞬間。ナタリーは目を見開く――なぜなら彼らは、あの見覚えのある顔は。


(ファングレー家の歴代当主様…!?)


以前の生の時、ファングレー家の屋敷廊下を歩くたびに見た――絵画。そこに描かれた歴代当主の似顔絵と…そっくりな顔つきの男性ばかりが、目に入ったのだ。


◆◇◆


「僕が幼い頃に見た――生前のご当主がいるようだね」

「…え?」

「ああ、ナタリーは知らないかもしれないが…公爵のお父上がいるようでね。だいぶ前に訃報を聞いたが…ウソというわけではなさそうだな」


呆然としているナタリーをよそに。エドワードもまたありえないものを見た驚きなのか、鋭く彼らを見つめている。


そして、「ファングレー家は幽霊でも飼っている…?まさかな…」と声を漏らした後、口角を少し上げ――首を振っていた。


「でも彼らは、こちらに気づいていないようですね…?」

「そう…だね」

「あんなに、大きな音があったはずですのに」


そうナタリーが言葉をつぶやくのと同時に。穴の先にある…自分たちと同じ部屋のような内装が一変し始める。


「これは――…」


エドワードの疑問をかき消すように。目の前に広がったのは、ナタリーの知るファングレーの屋敷よりも…ずっと新築の屋敷で。


劇場で見るよりもはっきりと現実に見えるそのつくり――そして、青白さを保つそれは。いったい何をしようとしているのか。わからない恐怖とともに、目の前で始まったその事象に目が離せない。


舞台セットのような屋敷の外観から――屋敷の内部へ変わり。ナタリーが知らないファングレー家の当主がベッドで横たわりながら。唸っている姿が映し出された。


「く…あっちへいけ…。まやかしどもめ…私は暴走など…クソ…」


唸る男性の周りには、先ほど見た青白い男性たちが囲むように立ち。言葉を浴びせている様子がわかる。


「お前はダメだ」

「暴走にのまれてしまう」

「化け物よ」


(――彼らは、いったい何を言っているの?)


苦しむ男性に…さらに苦しみを与えようとする光景に。ナタリーは目を奪われ…目を疑った。



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