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「ナタリー、殿下と公爵様がお忙しそうだなんて、残念だったわねぇ」

「なっ!?なにも残念じゃないだろう、お二人がお忙しいのは仕方ないさ…!」

「もう…あなたったら」

「は、はは…」


両親の話に、ナタリーは愛想笑いをしていた。そして、思い出すのは剣舞祭の終わったあとのことだった。


◆◇◆


というのも、剣舞祭が終わったのち。お父様にバレる前に、ユリウスの外套は脱ぎ。ミーナに渡して、綺麗にするように命じた。


(あら…もしかして、閣下の服は二着目に…?)


保管している服が着実に増えているような。


そんな疑問が頭を駆け巡るものの。その思考は――両親が、ナタリーに声をかけたことによって止まり。両親に連れられるがまま…陛下に挨拶を言いに行った際、エドワードとユリウスも王城にいて。


二人がナタリーに気が付くと。ナタリーのもとに来て、エドワードは宰相のこと、そして剣舞祭の処理があること。そしてユリウスは、ド派手に身体を動かしたために…フランツに呼び出しを受けていることを伝えてくれたのだった。


そのため、いつかの「ディナーを一緒に食べる」約束は流れてしまっていて。二人とも申し訳なさそうにしていた。しかし、ナタリーとしても二人の用事を優先してもらうことが第一だったので。


「お気になさらずに…お二人とも、剣舞祭では素敵でしたわ」

「ふふっ、ありがとう」

「……楽しめたのなら、良かった」

「でも、ディナーが行けなくなってしまうなんて…はぁ」

「……」


そうして、エドワードが「ディナー」という発言を残し。別れを言ってから――場を離れ、ユリウスもまた同じように…呼び出されている所へ向かっていく。


そして地獄耳なお父様が、「いったいどういうことなんだ…!」と。冒頭の両親の話へと戻っていくのであった。帰りの馬車の中、ナタリーは両親の話を聞きながら。愛想笑いを浮かべるのに、尽力していたのは…両親には秘密だ。


◆◇◆


にぎやかな剣舞祭から帰宅した――その翌日。

昨日、忙しそうにしていたエドワードが、突然…ペティグリュー家に現れた。それも、馬車などではなく。魔法によってナタリーの屋敷まで来ていて。


「ま、まあ。エドワード様…どうなされたのでしょうか?」

「ナタリー…、その…公爵にも報せを送ったんだが…」

「…?」


たまたま朝食を終えたナタリーが通りがかった時に、鉢合わせたので。驚きながらも、彼を迎える準備をしようと動く。ミーナもまた、「旦那様と奥様にご報告せねばっ!」と焦った様子で走っていった。


(でも、いったい…しかも少しお顔色が悪いような…?)


ナタリーはエドワードが屋敷に来る理由など見当がつかず。周囲の使用人たちとともに…彼を見守ることになる。すると、エドワードはどこか焦った様子で。


「急を要するから…礼儀などは、気にしないでもらえると助かる」

「は、はい…?」

「昨日不正を働いた者は…宰相から武器をもらい受けていたことが分かったんだ」

「え…」


エドワードの言葉を聞き、ナタリーは目を見開く。そして、開いた口が塞がらないまま…彼の言葉の続きを聞けば。


「剣舞祭が始まる直前まで、宰相は動いていたんだ…それも王城付近まで来るほどに」

「そ、それは…」

「…良くないことだが、検知器具の結果が出てね。奴の足取りが見えてきたんだ」


エドワードの表情は暗く重い。そんな彼の様子から、この話が厳しい現実のものだと痛いほどわかって。ナタリーは息を呑み、エドワードを見つめれば。


「昨日――宰相は…王城付近から、ペティグリュー領に来ている」

「……っ!?」

「だから、ナタリー、それと家の者の避難を――」

「その必要はありませんよぉ?」

「え?」


エドワードの声に被さるように聞こえてきた声に。思わず、ナタリーが顔を向ければ。そこには、ペティグリュー家の執事が立っていた。しかも気づけば、ナタリーとエドワードの近くまでやってきていて。


「…!貴様っ」


エドワードが、危険を察知し動こうとしたその一瞬先に。目の前の執事は素早く動き、ナタリーとエドワードの腕を掴んだ。


「いやぁ…追われるのって…こんなに不愉快…なんですねぇ?」


どろりと執事の顔が歪み――崩れていく。崩れた顔の先には、不敵に笑う宰相の顔があって。


「く…っ」

「ナ、ナタリーッ!」


エドワードが呻き、この場にたどり着いたお父様が自分を呼ぶ声を出した――その瞬間。


「お、おとうさ…」


ナタリーの声が全て発せられる前に。ナタリーの視界は既視感がある歪みに襲われ、魔法の風が宰相と二人を覆いつくした。なにかの力で押さえつけられる衝撃によって…ナタリーは思わず瞳を閉じ。


そのまま意識を保つことができず――気絶してしまう。


そうしたナタリーの変化などをお構いなしに。宰相は二人の腕を掴みながら、目にもとまらぬ速さで魔法を展開する。


そして風が周りを覆いつくし、横殴りの風が吹き荒れたと思った瞬間…彼らの姿は消えてしまうのだった。


突然のでき事に、屋敷の者たちは呆然とするばかりで。


「お、お嬢さまぁーーっ!」


事の次第にいち早く気づいたミーナの悲鳴が。屋敷に響き渡ったのであった。


◆◇◆


「…うっ」

「ナ、ナタリー!大丈夫かい?」

「エドワード様…だ、大丈夫ですわ」


再び意識が浮上し、目をぱちりと開けば。自分が倒れこむように、寝ていたことがわかった。そして、慌てて駆けよってくるエドワードの姿が見え。ナタリーは、よろよろと身体を起した。


目に色が戻り、あたりをキョロキョロと見渡せば。うっそうと暗い空間で、石造りの部屋だということが分かる。そして宰相の姿はなく――不安ながらも、少し安心して。エドワードに、「ここは…」と疑問を言えば。


「…先ほどあたりを、少し見たんだが。どうやら…」

「は、はい」

「ここは、ファングレー公爵家のカタコンベ…地下墓地のようだ」



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