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剣舞祭にユリウスも参加することが決まり…話はまとめへと移った。


「検知はしやすいが、それでも国全体だから…。特定に時間がかかる。剣舞祭後に、万全な準備をもってして。宰相を追い込もう」という結論になり。エドワードが、ユリウスとナタリーにそう告げたのち。


「…これで、僕の方からは全部かな。いや~スムーズな話ができて、本当に助かったよ」

「ホ、ホホ…」


会話を終えて。ニコッとほほ笑むエドワードとは逆に…ユリウスは何か思うところがあるのか。エドワードを一瞬、鋭く見ながらも。「…では、殿下とは祭り当日に」と言いながら。帰り支度のため、立ち上がった。


「ああ、もう夕方だね…」

「そ、その…エドワード様。私、お手洗いに…」

「おっと…気が回らなくてごめんね」


屋敷でも紅茶を飲み、会合でも紅茶を飲み。ナタリーはトイレへ行きたくなっていた。なかなか言い出せず、この時まで我慢していたのだ。そんなナタリーの様子に、エドワードは謝罪を言って。


すぐに使用人へ声をかけ。「彼女を案内してあげて」と命じる。そして、ナタリーに「戻ったら、僕が屋敷まで送ろう」と声をかけてきた。


「は、はい。ありがとうございます…では、失礼します」


そのままナタリーは、王城の使用人に案内され。トイレへと向かっていくのであった。そうなると、部屋に残ったのは。エドワードとユリウスだけになっていて――。


「…公爵の母君。少しは証言したものの、頭が追い付いていないせいか…意識が朦朧としている」

「……そうか」


エドワードの言葉を聞き。ユリウスは暗く沈んだ表情になる。そうしたユリウスを目にとめながらも、エドワードは続いて。


「彼女は、君の親だとしても…罪状を軽くするつもりはないが…」


そう口に出して、ユリウスに聞いてきた。彼の言葉からは、ユリウスの反応を窺う様子が見て取れた。そしてユリウスは、エドワードに対面しながら。


「軽くしないでいい。俺は減刑を望んではいない」

「…そう、それなら。特に問題はないよ」

「…わざわざ表面上だけ、俺を思いやらなくていい」

「おや…僕は、そんなに冷たい男に見えるかい?悲しいね」


エドワードはユリウスに、薄く口を開いて笑みを向ける。その口元から「まあ、公爵の国と――もめごとは回避したいからね。あの“約束”もしかり」と言葉が出た。


「……ふん」

「僕は、古くからの…国同士の取り決めだと聞いているけど。あんな物騒な約束…無くしたほうがいいかい?」


エドワードからの言葉にユリウスは沈黙した。ユリウスから反応がないことに、どう思ったのか。エドワードは「まあ、僕の一存でどうにかできるのか不明だけど…ナタリーの親しい“友人”のためであれば…と思ったんだ」と、言う。


ユリウスは、沈黙しながらも。ぴくっと眉を動かし、エドワードを見つめる。


「おや、変な顔だね。どうして、とでも言いたそうな」

「………」

「意中の女性に、尽くしてあげたいと思うのは普通じゃないかい?」


そしてエドワードはユリウスに相対して。


「僕は、ナタリーを愛している。彼女の同意があれば…すぐにでも式を挙げたいくらいにね」

「…っ!そ、そうか…」

「公爵…君は、どうなんだい?」


エドワードは会合の時とは一変して。柔らかい笑みを消し、探りを入れる視線を。ユリウスに向けた。その視線を受けてユリウスは思わず、たじろぎ。


「……俺は」


ユリウスが何か言葉を出そうとしたその時。


「お待たせしました…!」


部屋の扉が開き。使用人と共に、ナタリーが帰ってきた。ナタリーは、部屋の中にいる二人の様子を見て。


「あ、あら…もしかして、お話し中でしたか…?」


なんだか、トイレへ行く前とは違う雰囲気を察知したので。そう問いかければ。


「ふふ、大丈夫だよ…むしろ仲良くなったくらいさ」

「え、ええ…?」


全く仲いい感じはしないのだが…とナタリーは、疑問に思うものの。男同士の友情はこういうものなのかもしれない…と、ズレた考えに至った。男性との交流を防いできた…お父様のたまものである。


「ああ、そうだ。ナタリーを送った後に…公爵も、僕の魔法で送りましょうか?」

「まあ!」


暗い雰囲気だったが、エドワードがこう提案するくらいなのだから。やっぱり、二人は仲良くなったんだと。そう思った瞬間。


「遠慮する。では、当日にまた…ご令嬢、お帰りは気をつけて」

「は、はい。閣下もお気をつけて」


エドワードの提案に乗らないユリウスが、部屋から出て行くのを見送り。断られてしまったエドワードを窺うように、視線を向ければ。彼は楽し気に笑いながら。


「公爵は…照れ屋なんだろうね?」

「……?」


彼が言う“照れ屋”が何を指しているのか分からず。頭の中に疑問符が浮かぶものの。これもまた友情があるからこそ。エドワードには、分かることなのかもしれない。そう結論付け、ナタリーも帰り支度をして…エドワードの魔法で屋敷へと帰るのであった。


◆◇◆


お母様の助力もあって。その日は、お父様のしつこい絡みはなかった。


というのも、屋敷の玄関に着いた際に。エドワードの魔法によって、帰宅したナタリーを出迎えたのはお母様だった。


「時間に間に合ったね。ナタリー」

「まあ、まあ!おかえりなさい!」

「エドワード様、ありがとうございます」

「ふふ、ナタリーの笑顔は嬉しいけれど。君と離れるのが…名残惜しいね」


そして、ナタリーとエドワードが話している中。何かに気づいたのか…「ちょっと、外に行ってくるわね」とお母様が扉を抜けて出て行く。


「おや、ナタリーの父上が帰ってきたようだね」

「あら…!お父様が…」

「あまり、長居をすると…大変なことになってしまいそうだ」

「ほ、ほほほ…」


帰宅が被るタイミングに、驚きを持ち。加えて、エドワードが言ったことも否定できずに。愛想笑いをナタリーは浮かべた。


「ナタリーを困らせるつもりはないから…最後に」

「…へ?」


そうエドワードが言ったのち。ナタリーの片手を持ち上げて。


「剣舞祭は、君と二人きりでディナーが食べられるのが…楽しみだ」


エドワードは、そのままナタリーの手の甲に軽くキスを落としてから。ナタリーが「エ、エドワード様…」と顔を赤くして困惑する中。視線を合わせて、ウィンクをし。


「もちろん。剣舞祭も楽しんでね。君のために…かっこいい姿を見せるから。じゃあね」


そして、エドワードは再び魔法陣を起動すると。風が玄関内に、吹き込んできたのが分かった…次の瞬間。彼の姿は、もうそこにはなかった。その代わり、玄関の扉が開き――お父様とお母様の声が聞こえてきて。


「今日は、わざわざ出迎えてくれるなんて…嬉しいなあ」

「ふふ、一番にあなたを労わりたくて」

「え、ええ~もうっ。へへっ…お、ナタリー…ぼーっとして、どうしたんだい?」

「へっ!?」


お父様の言葉にハッとなり。慌てて冷静さを取り戻すナタリー。そんなナタリーの様子に、奇妙な視線をお父様は向けてくるものの。お母様が、フォローをするように。


「遺跡に毎日出向いているあなたに…ナタリーもきっと、心配をしていたんですよ」

「え、え~そうだったのかい?もう~~」

「あなたが元気に帰宅したから、ナタリーも安心したのよ…ね?」


お母様から、良い笑顔を向けれられ。確かに、お父様が無事に帰ってくることに嬉しさはあるので。「え、ええ」と頷き返せば。


「ナ、ナタリ~!」


嬉しさ全開のお父様に抱きしめられながら。その日一日は、怒涛な会合もありながらも。過ぎていったのだった。


◆◇◆


そして、翌日。

仕事の早いエドワードのおかげもあって。新聞一面には、剣舞祭の話題がでかでかと書かれていた。


我が国の太陽と同盟国の月が大会出場!?


その見出しは、ナタリーの国だけでなく、同盟国にも広く届いたらしい。なにより、これを読んだナタリーの頭の中では。マルクがユリウスに茶化すように笑いながら。


「団長が月って書いてあるよ…ひぃ…よ、良かったじゃないか…うっ、いてっ」と言い募っては、小突かれている様子が…なぜだか思い浮かんでしまっていたのだとか。



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