54
剣舞祭にユリウスも参加することが決まり…話はまとめへと移った。
「検知はしやすいが、それでも国全体だから…。特定に時間がかかる。剣舞祭後に、万全な準備をもってして。宰相を追い込もう」という結論になり。エドワードが、ユリウスとナタリーにそう告げたのち。
「…これで、僕の方からは全部かな。いや~スムーズな話ができて、本当に助かったよ」
「ホ、ホホ…」
会話を終えて。ニコッとほほ笑むエドワードとは逆に…ユリウスは何か思うところがあるのか。エドワードを一瞬、鋭く見ながらも。「…では、殿下とは祭り当日に」と言いながら。帰り支度のため、立ち上がった。
「ああ、もう夕方だね…」
「そ、その…エドワード様。私、お手洗いに…」
「おっと…気が回らなくてごめんね」
屋敷でも紅茶を飲み、会合でも紅茶を飲み。ナタリーはトイレへ行きたくなっていた。なかなか言い出せず、この時まで我慢していたのだ。そんなナタリーの様子に、エドワードは謝罪を言って。
すぐに使用人へ声をかけ。「彼女を案内してあげて」と命じる。そして、ナタリーに「戻ったら、僕が屋敷まで送ろう」と声をかけてきた。
「は、はい。ありがとうございます…では、失礼します」
そのままナタリーは、王城の使用人に案内され。トイレへと向かっていくのであった。そうなると、部屋に残ったのは。エドワードとユリウスだけになっていて――。
「…公爵の母君。少しは証言したものの、頭が追い付いていないせいか…意識が朦朧としている」
「……そうか」
エドワードの言葉を聞き。ユリウスは暗く沈んだ表情になる。そうしたユリウスを目にとめながらも、エドワードは続いて。
「彼女は、君の親だとしても…罪状を軽くするつもりはないが…」
そう口に出して、ユリウスに聞いてきた。彼の言葉からは、ユリウスの反応を窺う様子が見て取れた。そしてユリウスは、エドワードに対面しながら。
「軽くしないでいい。俺は減刑を望んではいない」
「…そう、それなら。特に問題はないよ」
「…わざわざ表面上だけ、俺を思いやらなくていい」
「おや…僕は、そんなに冷たい男に見えるかい?悲しいね」
エドワードはユリウスに、薄く口を開いて笑みを向ける。その口元から「まあ、公爵の国と――もめごとは回避したいからね。あの“約束”もしかり」と言葉が出た。
「……ふん」
「僕は、古くからの…国同士の取り決めだと聞いているけど。あんな物騒な約束…無くしたほうがいいかい?」
エドワードからの言葉にユリウスは沈黙した。ユリウスから反応がないことに、どう思ったのか。エドワードは「まあ、僕の一存でどうにかできるのか不明だけど…ナタリーの親しい“友人”のためであれば…と思ったんだ」と、言う。
ユリウスは、沈黙しながらも。ぴくっと眉を動かし、エドワードを見つめる。
「おや、変な顔だね。どうして、とでも言いたそうな」
「………」
「意中の女性に、尽くしてあげたいと思うのは普通じゃないかい?」
そしてエドワードはユリウスに相対して。
「僕は、ナタリーを愛している。彼女の同意があれば…すぐにでも式を挙げたいくらいにね」
「…っ!そ、そうか…」
「公爵…君は、どうなんだい?」
エドワードは会合の時とは一変して。柔らかい笑みを消し、探りを入れる視線を。ユリウスに向けた。その視線を受けてユリウスは思わず、たじろぎ。
「……俺は」
ユリウスが何か言葉を出そうとしたその時。
「お待たせしました…!」
部屋の扉が開き。使用人と共に、ナタリーが帰ってきた。ナタリーは、部屋の中にいる二人の様子を見て。
「あ、あら…もしかして、お話し中でしたか…?」
なんだか、トイレへ行く前とは違う雰囲気を察知したので。そう問いかければ。
「ふふ、大丈夫だよ…むしろ仲良くなったくらいさ」
「え、ええ…?」
全く仲いい感じはしないのだが…とナタリーは、疑問に思うものの。男同士の友情はこういうものなのかもしれない…と、ズレた考えに至った。男性との交流を防いできた…お父様のたまものである。
「ああ、そうだ。ナタリーを送った後に…公爵も、僕の魔法で送りましょうか?」
「まあ!」
暗い雰囲気だったが、エドワードがこう提案するくらいなのだから。やっぱり、二人は仲良くなったんだと。そう思った瞬間。
「遠慮する。では、当日にまた…ご令嬢、お帰りは気をつけて」
「は、はい。閣下もお気をつけて」
エドワードの提案に乗らないユリウスが、部屋から出て行くのを見送り。断られてしまったエドワードを窺うように、視線を向ければ。彼は楽し気に笑いながら。
「公爵は…照れ屋なんだろうね?」
「……?」
彼が言う“照れ屋”が何を指しているのか分からず。頭の中に疑問符が浮かぶものの。これもまた友情があるからこそ。エドワードには、分かることなのかもしれない。そう結論付け、ナタリーも帰り支度をして…エドワードの魔法で屋敷へと帰るのであった。
◆◇◆
お母様の助力もあって。その日は、お父様のしつこい絡みはなかった。
というのも、屋敷の玄関に着いた際に。エドワードの魔法によって、帰宅したナタリーを出迎えたのはお母様だった。
「時間に間に合ったね。ナタリー」
「まあ、まあ!おかえりなさい!」
「エドワード様、ありがとうございます」
「ふふ、ナタリーの笑顔は嬉しいけれど。君と離れるのが…名残惜しいね」
そして、ナタリーとエドワードが話している中。何かに気づいたのか…「ちょっと、外に行ってくるわね」とお母様が扉を抜けて出て行く。
「おや、ナタリーの父上が帰ってきたようだね」
「あら…!お父様が…」
「あまり、長居をすると…大変なことになってしまいそうだ」
「ほ、ほほほ…」
帰宅が被るタイミングに、驚きを持ち。加えて、エドワードが言ったことも否定できずに。愛想笑いをナタリーは浮かべた。
「ナタリーを困らせるつもりはないから…最後に」
「…へ?」
そうエドワードが言ったのち。ナタリーの片手を持ち上げて。
「剣舞祭は、君と二人きりでディナーが食べられるのが…楽しみだ」
エドワードは、そのままナタリーの手の甲に軽くキスを落としてから。ナタリーが「エ、エドワード様…」と顔を赤くして困惑する中。視線を合わせて、ウィンクをし。
「もちろん。剣舞祭も楽しんでね。君のために…かっこいい姿を見せるから。じゃあね」
そして、エドワードは再び魔法陣を起動すると。風が玄関内に、吹き込んできたのが分かった…次の瞬間。彼の姿は、もうそこにはなかった。その代わり、玄関の扉が開き――お父様とお母様の声が聞こえてきて。
「今日は、わざわざ出迎えてくれるなんて…嬉しいなあ」
「ふふ、一番にあなたを労わりたくて」
「え、ええ~もうっ。へへっ…お、ナタリー…ぼーっとして、どうしたんだい?」
「へっ!?」
お父様の言葉にハッとなり。慌てて冷静さを取り戻すナタリー。そんなナタリーの様子に、奇妙な視線をお父様は向けてくるものの。お母様が、フォローをするように。
「遺跡に毎日出向いているあなたに…ナタリーもきっと、心配をしていたんですよ」
「え、え~そうだったのかい?もう~~」
「あなたが元気に帰宅したから、ナタリーも安心したのよ…ね?」
お母様から、良い笑顔を向けれられ。確かに、お父様が無事に帰ってくることに嬉しさはあるので。「え、ええ」と頷き返せば。
「ナ、ナタリ~!」
嬉しさ全開のお父様に抱きしめられながら。その日一日は、怒涛な会合もありながらも。過ぎていったのだった。
◆◇◆
そして、翌日。
仕事の早いエドワードのおかげもあって。新聞一面には、剣舞祭の話題がでかでかと書かれていた。
我が国の太陽と同盟国の月が大会出場!?
その見出しは、ナタリーの国だけでなく、同盟国にも広く届いたらしい。なにより、これを読んだナタリーの頭の中では。マルクがユリウスに茶化すように笑いながら。
「団長が月って書いてあるよ…ひぃ…よ、良かったじゃないか…うっ、いてっ」と言い募っては、小突かれている様子が…なぜだか思い浮かんでしまっていたのだとか。
お読みくださりありがとうございます!
⭐︎の評価を下さると、励みになります。
よろしくお願いします!