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あわてんぼうなミーナの案内で。嬉しそうなお母様と共に…屋敷の玄関へと向かう。すると、そこには。いつぞやに見た礼服姿の使者様がいて。


「お待たせいたしました」

「いえ、お越しくださりありがとうございます」


恭しく挨拶を交わせば。使者は早速といった形で、所持していた巻物を手に取り。話し始め…たのだが。


「コホンッ。此度は…」

「…は、はい」


お母様と共に。使者の口元を凝視する。何を言うのか身構えれば。どこかもごもごと口を濁している様子なのが分かった。


「え、えっと。使者様?」

「はい」

「お父様に御用があったのでしょうか?」


お母様とナタリーには言えないから、話せないのではと思い。そう切り出せば。使者は首を振り、「いや、違うんだ」と言ってくる。


(“違うんだ”…?)


急にフランクな喋り方になった…そう、感じるのと同時に。


「いや…やっぱり。だますのは、良くないよね」

「え?」


使者が指をパチンと鳴らした、その瞬間。彼の周りに、風が吹きこみ。あまりの風力に、周りにいた全員が、思わず目を閉じてしまう。


そして再び目を開ければ。


「まあ!まあ!」

「ふふ、ごきげんよう」

「エ、エドワード様…!」


お母様が、明るい悲鳴を上げる中。使者だと思っていた男性の姿形が変貌し。そこに立っていたのは、エドワード本人だったのだ。服装すらも、彼がいつも着ている…王族の服で。


「ふふっ。驚いたかい?早く、ナタリーに会いたくて…来てしまったよ」

「まあ~ナタリー。いいじゃない…」

「お、お母様…」


娘よりも、顔を赤く火照らせ…喜ぶお母様。しかしナタリーとしては、エドワードが直々に来なければならないのかと。用件の重要さに、気をとられていて。


「ナタリーの母上のように…君も、もっと照れてくれた方が…僕も嬉しいんだけどね」

「きゃ~!母上!だなんてっ!」


お母様と女性の使用人たちが、歓喜の声を出す。エドワードの発言に、彼の真意はいったいどこにあるのか分からないものの。「ご、ご冗談を…ほ、ほほほ」と、軽く流すことにした。


「冗談じゃないのだけれど…まあ、ナタリーとしては。きっと本題の方が気になるだろうからね…」

「……ほ、ほほ」


姿勢を直したエドワードは。ナタリーに向き合ったかと思うと。口をおもむろに開いて。


「早速だけど…僕と共に。王城へ来てほしいんだ」

「……へ?」

「まあ…!」


彼は、ウィンクをしながら。ナタリーにそう言ってきて。また、ナタリーにゆっくりと近づきながら。


「ど、どういうこと…」

「ふふっ、もちろん。私的に呼びたいということもあるのだけど…」


ナタリーは、近づいてくるエドワードに。緊張してしまい…身体が固まってしまう。そんな様子のナタリーにますます笑みを深くするエドワードは。さらに、ナタリーの近く…耳元に口を近づけたかと思うと。


「遺跡で宰相と出会った当人たちで…情報を共有したくて、ね」

「…っ!そ、それは」


ナタリーがハッとしたように、エドワードの顔を見れば。彼はまるで内緒話をするように…人差し指を口元に近づけて。シーっと言っている。


(宰相について…経緯が分かったってことかしら)


おそらく、宰相に関して恐怖を広めたくないのか。新聞に載るのも、彼の表立った情報のみだ。遺跡で口にしていた「実験」や「魔法の才」などは詳しく報道されていないのが現状で。


ナタリーは、神妙な顔つきになって。「お、お役に立てるのであれば…!」と言った。きっと王城で集めている情報の方が、精密なのだろうけど。


それでも、宰相に関する情報提供や元義母について話せるのかもしれないと意気込んだ。そして、ナタリーがそう返事をすれば。エドワードは嬉しそうにほほ笑んで。


「そうか、ありがとう」

「え、ええ!」

「なら、善は急げ…だね」

「え、ええ…?」


彼の言葉の意味が分からなくなり。そう聞き返せば。


「ちょうど…今日、会合の場を用意したんだ」

「…へ?」

「ナタリーの母上、彼女を城へ連れて行っても…よろしいでしょうか?」

「まあぁ!やだ~!もちろんですわっ!」

「……へっ?」


ナタリーの知らないところで。話が素早くまとまっている気がする。あれ?あれ?と、気にしていれば。エドワードが、「お母上から、許可もいただいたことだし。行こうか…ナタリー」と手を差し伸べてくる。


「えっ、お、お母様?」

「ナタリー、いってらっしゃい。お父様にはうまく、言っておきますから!」

「え、ええ?」

「ふふっ、ちゃんと夕方までには…お送りしますので」

「あらぁ!」


宰相に関しての会合は必要だ。確かに、必要なのだけど。この現状、お母様に誤解されていないだろうか。そう思いつつも。エドワードに「ほら」と催促されて、手を重ねることになれば。


お母様に送られる形で。何度も体験した視界の歪みと共に。ナタリーは目をつむることになった。


◆◇◆


視界が歪んで、浮遊感を感じたのち。

まだ足が地面に着かない感覚があった。なんだか、瞬間移動の時間が長いような…と思っていれば。


「もう、着いたよ。ナタリー」

「え…?」


驚いてパチッと目を開けば。確かに、そこは王城の応接間にいて。


(あら?エドワード様が近いような…)


「殿下は…無礼という言葉を、ご存知ないのでしょうか?」

「ふぅん?」

「えっ!」


横から、覚えのある――低い声が聞こえてきて。思わず、視線をやれば。そこには、黒い装いをしたユリウスが立っていたのだ。


「ナタリーが体勢を崩しそうだったので…咄嗟に、支えたのは…普通のことだと思いますがね。心外な言い方ですね?」

「……その割には、下心が隠せていないように見えますが」

「……言いますね?」


バチバチと二人の視線の間で。火花が散っているこの光景は…。と思い自分の状況を確認してみれば。


「エ、エドワード様っ!」

「ふふっ、どうしたんだい?」


そこで気が付いたのだ。ナタリーの今の姿勢が…エドワードにぴったりと寄り添うような姿勢であること。そしてエドワードの片腕が、ナタリーの腰を支えてくれるようにあって。


いつもは魔法を使っている彼が。思いもよらぬほどに、逞しい腕であったことにも気づくほどで。なにより、そのせいで――ナタリーの身体が、エドワードに体重がかかる形で…浮いてしまっている状況に。やっとナタリーの理解は追いついたのだ。


「も、もう一人で立てますからっ。その、お気遣いは感謝しますわっ」

「…ん?もう、いいのかい?」

「………」


ナタリーが焦ったように、解放を願えば。すんなり手をゆっくりと放してくれて。その後、エドワードは冗談めかして…ユリウスに言葉を放った。


「ふっ、漆黒の騎士殿。目が怖いですよ?」


そうなのかと。ナタリーは、彼の顔を窺えば…いつも通りの、真顔なユリウスがいるだけで。


(怖いかしら…?)


エドワードは、いったい何を言ったのかと視線を向ければ。おかしそうに笑っていて。「器用なものだ」となぜか賞賛していた。


「まあ、これで揃ったから…始めるとしようか」



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