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朝食を終えて、自室に戻れば…早速、自分が何をするべきかを考える。ずっと願っていた故郷にいるためか、より前向きになれている気がした。
(褒賞として嫁いだあとも、一応この領地は私の所有だったわね)
王族もナタリーに対して可哀相と思い、そうしてくれたのか…。
いや…それはないな、きっと自国の領地だから、ナタリーが死んだ時にでも適当に言って再び回収する算段だったのだろう。
そんなふうに思うのは、戦争後の王家が腐敗してしまったから…。というより、戦争が始まるあたりから王家は、おかしくなっていったように感じているからだ。
お母様の不調を解消したら、過去に…今となっては未来に参加する王家主催の舞踏会に行かねばーーー。
◆◇◆
ノックをすれば、お母様が「あら?誰かしら」と返事をする。早速、お母様の体調を確認しにきたのだ。
「ナタリーです。お母様、入ってもよろしいでしょうか…?」
「まぁまぁ!ナタリーね。ええ、入ってちょうだい」
木製のしっかりしたドアを開ければ、シックな調度品に囲まれたお母様の部屋が見える。そしてその中央にあるベッドに、母は横になっていた。
声は元気そうだったのに、顔色は少し悪い。ベッド近くの椅子へとナタリーは腰掛けた。
「お母様…お身体大丈夫ですか?」
「…あら、心配してきてくれたの?ふふ…大丈夫よ。きっと季節の変わり目で、風邪をひいてしまったんだわ」
「それでもっ…私はお母様のお身体が心配です」
ナタリーが母に悩ましげな視線を送ったことがわかったのだろうか、起き上がって頭を撫でてくれる。撫でる時にチラリと見えた腕には、不気味な黒い斑点が浮かんでいた。
(やっぱり…黒点病にかかっているんだわ)
黒点病は、魔力の流れが悪くなるのが原因で肌に斑点が現れる。重くなると血液の流れすらも止まってしまう病だーーしかし戦争が始まる前の今では、まだ認知が広がっていない。
「ほら、可愛いナタリー…明るい笑顔を見せてほしいわ…あなたには笑顔が似合うもの」
「そう…ですか?」
「ええ、あら、もう…無理をさせてしまいましたね…私ったらだめね」
「そ、そんな…」
笑うために頬を動かしたはずなのに、私の顔を見たお母様はーーひどく悲しそうで。そのままぎゅっと、抱きしめてくれて。
「…いいこ、いいこ。ナタリーはよく頑張っておりますよ。何か悩みがあるのなら…いつでも言ってね」
「……っ」
「よく考えたら、こうしてしっかりと話すのは…久しぶりに感じますね」
「……ぅ、ひっく」
「ふふ、好きなだけ、ね。人はゆっくり、立ち止まることも大切だから」
お母様の温もりにふれて、今まで堰き止めていた何かが決壊した。それでも、少しずつ変わったようなーー失っていたものを取り戻したように感じた。
「お母様…みっともない姿を…」
「いいえ、ナタリー。そんなことないわ。お父様でも私でも…抱えきれなくなったらいつでも来ていいのよ」
「…ありがとうございます」
お母様は、私の目下あたりを布で優しく拭ってくれる。
(この病を絶対にどうにか、しなければ)
大好きなお母様を二度と失わぬようにーーナタリーは、部屋から出てミーナに外出をする手配を頼む。「あら、急ですね」と少し驚いた表情をしていたが、すぐに馬車を用意してくれた。
(黒点病は確かに…認知が少ないけど)
馬車に乗って、目的の場所を伝える。故郷から少し離れたところへ、馬車は向かって行った。
◆◇◆
故郷とは違った懐かしい匂いを感じながら、馬車から降り一軒の平家の前に立つ。ドアノッカーを数度叩けば…「どうぞ」という声。それに伴い開いたその先は、薬草や消毒液の匂いがして。
「ほっほっ、珍しい…元気な患者さんじゃのう?」
「ご機嫌麗しゅう…お医者様」
彼こそが、お母様を治すための光であり…公爵家で妊娠の時から、私を支えてくれたーー友人がそこにいた。
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