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エドワードの腕から離れ。

やっと地面に立ち、ナタリーは歩く。離れる際に、何やらエドワードが名残惜しそうにしていたが…。そこの理由はあまり、深く考えないようにした。


「…コ、コホンッ!では、行きましょうか」


ナタリーの声を合図にして。一行は、塞がれていない――暗く開かれた通路の先へと足を向けるのだった。


◆◇◆


先へ進んで行けばいくほど、ランタンの優しい光とは違う。青白い光が、見えてくる。この色は、先ほどの奇妙な物体と戦った空間にもあった光だ。


「もうすぐ道の先のようだね…分かっていると思うけど。注意深くいこうね」

「え、ええ」


エドワードの言葉に対し、自分に気合を入れるように返事をする。そしてユリウスもまた、彼の言葉にしっかりと頷いた。


“影”の先導のもと、先へ――開けた遺跡の地下部分へ辿り着けば。


「こ、ここは…」

「……とても、快適に暮らしていたようだ…ね」

「……」


目に映ったのは、広く大きな…木造の床だった。床に覆われていない部分には。またさらに地下部分があるのか――深淵につながるほどの谷になっていた。


なにより、その木造部分は古めかしい土器がある一方で。たくさんの生活品が備えられていたのだ。まるで誰かの部屋のようなそこには。


遺跡には似つかわしくない…今発行されている本から、魔法器具があって。研究室をイメージさせる造りになっていた。そしてその部屋の中央に。


「…おや、おやぁ?客人を招待したおぼえは…なかったんですけどねぇ」


ナタリーたちを出迎えるように。宰相が身ぎれいな格好で、うやうやしく挨拶をしてきた。その挨拶に対して、まともに返す者はおらず。口を切ったのは、エドワードだった。


「……ここで何をしていたのか…捕まえてじっくりと問い詰めるとしましょう」

「おやぁ!せっかくの再会ですのに、エドワード殿下は性急で、いけませんなぁ」

「ふふ、お前と会話をするたびに不愉快になるよ」


エドワードは、鋭い眼光を宰相に向ける。そしてボソッと。「こんなやつを野放しにしていた…自分にも不愉快になってしまうね」と呟いていた。


そんなエドワードを見た宰相は、「おお、怖い、怖いですねえ」と。余裕があるのか、ヘラヘラと笑っていて。そうした二人のにらみ合いの時間に、突然。


「ちょっと!うるさいのだけど…いったい…」

「………っ!」

「あら…」


宰相の背後から。ゆったりとした足取りで、赤いドレスを身にまとった――元義母が現れたのだ。その姿を見た瞬間、ナタリーもそうだが…。ユリウスは、驚きで目を見開いていた。


「…母上」

「どっ、どういうことなのかしらっ!あなたが言うには、ここは見つからないって――」

「ええ、そのつもりでしたが…お相手が、予想以上に優秀だったようです」

「…そ、そんなこと知りませんわっ!あたくしは、あたくしは…完璧な計画だからと…」


元義母は宰相に詰め寄り、言い募っていた。しかし、宰相は肩をすくめるばかりで。


「まあ、まあ。そこのご夫人――前公爵夫人も、事情聴取が必要なようだね?」

「なっ!そ、そんな…っ!」


エドワードが、宥めるように。そして、元義母を追い詰めるように言葉を発する。その言葉を聞いて、彼女の顔色がみるみるうちに青白くなっていく様子が分かった。


「さて、お喋りはここまでだ…“影”よ」


エドワードが、そう命じれば。屈強な騎士たちが、宰相の方へ走っていく。


「おやぁ、困りますねぇ…実験はまだ続いているというのに」

「ちょっと!あんた、どうにか――」

「ああ、ご夫人がいましたねぇ?」


騎士たちが、手を伸ばし捕まえようとしたその瞬間。


「――え?」

「代わりにこの女を捕まえておいてください…それでは」


宰相はそう、言い捨てると。元義母の背中をドンッと押し…彼女は前に滑り転んでしまう。そしてそんな彼女に、騎士たちの意識が向いた――その一瞬。


ボフンッ


宰相は、すばやく床に何かを投げつける。それと同時に、大量の煙が生まれて。宰相の姿を消してしまったのだ。


「くっ、ずるいことを…追いますよっ!」


エドワードは、すぐさま体勢を立て直して。騎士たちに呼びかける。そして、ナタリーには「ここでしばしお待ちを」と言って。そのまま走り出した後、ユリウスの方を見ると。


「あなたの母君なのですよね?逃げないよう…頼みますよっ」

「あ、ああ」


素早く言い終われば、“影”と共に。エドワードは、煙の向こうへと走り去ってしまった。


そうなると――今ここに残っているのは。ナタリーとユリウスと…元義母だけ。


元義母は、捨て置かれたことに…まだ頭が追い付いていないのか。「ウソよ…だって、あんなにも協力したのに…どうして…?」とブツブツ、言うのみで。


「……母上、罪を受け入れましょう」

「ユ、ユリウス――?」


ナタリーが後ろで見守る中。ユリウスが、元義母…自分の母を捕まえるため。彼女へ近づいていく。


「ねえ…ユリウス。あたくしは悪くないのよ…だから」

「……っ」

「どっ、どうして、あたくしを睨んでいるのっ?あたくしは、家のために――ファングレーのため…」


へたり込んでいた元義母はズルズルと…後退するように動く。しかし、ユリウスの歩みよりもずっと遅いため――追いつかれてしまい。


「…母上。あなたは、もうファングレーではない。ただの罪人だ」

「…っ!う、ウソよっ、ウソよ!」


叫び声を出しながら、元義母はユリウスから視線をずらして。ナタリーの方を見れば。


「あ、あんたのせいねっ!すべて、あんたがきっかけで――」


そんな言葉をナタリーに言い放ち。まだ言い足りないのか、もっと声高に言おうとしている彼女を。ユリウスが掴み上げようとした…その時。


――ザシュッ


「くっ…」


ユリウスが、元義母から一歩離れる。


「え――」

「ふ、ふふふっ、ユリウス…あなたも悪いのよ」

「か、閣下っ!」


ユリウスは腕から血を流していたのだ。そして元義母の手元には血に濡れた短剣があって。自分の母親が武器を向けるはずがないという、ユリウスの不覚からだったのか。


いずれにせよ、元義母がユリウスを刺したのは明白だった。


ナタリーは、すぐさまユリウスのもとへ駆け寄る。そして傷口に、素早く癒しの魔法をかければ。


幸いなことに傷が浅かったため、すぐに縫合できて――血がにじんでいた傷が、綺麗になくなっていく。


「か、閣下、ご無理は――」


その様子を見たユリウスは、ナタリーに感謝を告げ。そのままナタリーの前に出て、元義母に立ち向かおうとしていた。


「傷が浅いから…なんてことは…」


怪我が治ってもう大丈夫だと思っていたユリウスが。


「…っく」

「閣下…!?」


突如として、地に足をつけてしまい…そのまま倒れてしまったのだ。


顔色もだいぶ悪くなり、呼吸が乱れている様子が分かる。ナタリーが、「ど、どうして…」と焦っていると。


「ふんっ、あの宰相も…少しは役に立ったようね…」

「……?」


元義母の話す内容が分からず。彼女をキッと鋭く見れば。元義母もまた、不愉快さを隠さず睨み返してくる。


「癒しの魔法だか、なんだか知らないけれど…もうユリウスはだめよ」

「……どういう」

「はっ、何も知らずに楽しく暮らす令嬢には、分かるわけがないわよね…」

「だから何を…」


義母の言葉がいったい何を指しているのか。皮肉だけではなく、憎しみのような感情を噴出していて。


「あんたも死ぬだろうから、優しいあたくしが…教えてあげるわ」


余裕が戻ってきた元義母が。ナタリーに対して挑発的な態度で、話し始める。


「ふんっ…ファングレーは、化け物ってことよ」

「…そんなこと――」

「人間の皮を被った化け物よ…知らないかしら?魔力暴走って」

「魔力、暴走…?」


義母の言葉にキョトンとすれば。彼女は、ナタリーに対して嘲笑をし。「本当に何も知らないのね…」と、暗い声を出した。


「魔力量が多いと、身体が耐えきれず…爆発するのよ。そんな呪われた体質を持つのが、ファングレーなの」

「………」

「あら、信じてないって顔かしら?」


ナタリーが怪訝な顔をしたのが気に食わないのか。また鋭くこちらを睨みながら。


「別に信じようが信じまいが、関係ないけれど。あの腕の立つ――あんたの国の宰相だったかしら?」と、ナタリーを見下ろすように、口を開いて。


「あの男が作った、この剣には…魔力暴走を誘発する作用があるの」

「なにを――」

「ほんと、大した才能よ。他人の魔力を溜めて、ユリウスに注ぐ。だなんて――あたくしは反対したから…この剣を渡さないように、持っていたのだけど」


そこまで言い終わると元義母は、口角を釣り上げて。


「でも、仕方ないわ…ユリウスが反抗的なのが、すべて…悪いのよ」


元義母の発言に、ナタリーは眉間に皺を寄せる。彼女の話は、信じがたいが――もし本当なら。


そんな不安が的中するかのように。周囲から。


――ゴゴゴッ


地面が揺れ、むき出しの岩面からは石がポロポロと落ち始めていた。


「ほら…魔力暴走が始まって…この場所が耐えきれなくなっているようね…ふ、あっはは…すべて終わってしまえば、いいんだわ」


元義母の邪悪な笑い声が、この空間で響くのだった――。




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