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「おや…大きな石が道の穴を覆ってしまったようですね…」
エドワードは、その塊に対して。冷静に淡々と、呟いた。そして、一方のユリウスは。
「だ、大丈夫か…っ?」
ナタリーの身の安否を確認するべく。エドワードに抱きかかえられているナタリーのもとへ、駆け寄ってきた。
「え、ええ。エドワード様のおかげで…」
「そうか…よかった…」
近くで、怪我の有無を確認したのち。ナタリーに傷一つないことが、わかり…ホッと安心した表情をしながらも。空いている手で、グッと握りこぶしを作っていた。
(どうしたのかしら…?)
こぶしを作る理由を聞こうと、口を開こうとした。そんな時。
「おーい!大丈夫か…っ!」
「ナッ、ナタリィ~!」
石の塊が覆いつくせなかった…ごくわずかな隙間から。後続の人たちの声――とりわけ、マルクとお父様の声が聞こえてきた。
「やっときたようですね?」
エドワードが、ゆったりした足取りで。石のもとへ歩く。そして、ナタリーをお姫様抱っこで抱えながら。
「あ、あの…エドワード様、おろし――」
「こちらは、どうにか無事だ」
「そのお声は、殿下…!うちのナタリーは…」
「あっ!お父様、私も無事ですっ!」
エドワードに下ろしてと、催促をするつもりが。機を逃し、変わらず抱えられたまま…話すことになった。
ナタリーの声を聞いたお父様は、嬉しそうに。「よかった…無事で」と言っていることがわかる。
「どうやら、石の柱が脆くなっていたようだ。それで、ここに落ちてね…」
「うへ~。そんなことが…」
「だが、魔法で吹き飛ばせば…壊せるだろうから」
エドワードは、石の塊越し――後続の面々に。魔法を使うから、少し離れておいて…と話し。ナタリーと共に、石から距離をとって。
彼が自身の靴を地面にコツコツと、音を鳴らしながら。叩けば――。
ドカンッ…そう、大きな音が石の方から聞こえ。見てみると、そこには。
「…え?」
「ふぅん?」
ナタリーとエドワードの疑問の声があがる。なぜなら、確かに爆発は起きたのに。
石の塊が全く壊れていなかったからだ。
「だいぶ、硬いようだね?」
「え、ええ」
予想を覆した結果に、呆然とする中。傍から見ていたユリウスが「俺が斬ろう…」と、しまっていた剣を再び取り出し。目の前の頑丈な石に、一太刀を浴びせる。
ガキンッと確かに、鋭い音は鳴った…が。
「……斬れない、か」
ユリウスの斬撃をもってしても、その石が壊れることがなかった。石の向こう側にいる、声が再び聞こえてきて。
「ちょっと、ちょっと~かなり、大きな音が鳴ったけど…この石、全然壊れてないよ…?」
「そうみたいだね…ふふっ」
「すまない…」
「えっ、殿下と…ユリウスも試したのっ!?」
マルクは、それなのに壊れないなんて――ありえないとばかりに。声を上げていて、「ど、どうすれば…?」と困惑を漏らしていた。
「どうやら、この石…魔法が効かないみたいだね?」
「そ、そうなのです…か?」
「うん…公爵も、魔法無しで切り伏せることは難しそうだから…どうしようねえ」
エドワードが間近で、楽しそうにしていた。どうやら、この石に興味がわいたようで。「ペティグリューの遺跡は、面白いものがあるんだね」と明るい声だった。
そんなエドワードに…石の向こう側から声がかかる。
「……殿下。おそらく、先に通路が見えますか?」
「ん?あ、ああ、見えるよ」
この事態に、黙っていたお父様が尋ねてきて。エドワードの答えに…「うーん」と声を出しながら。
「今、我々がいる場所は…おそらく、遺跡の――入り口の真下です」
「…なるほど」
「ですので…先に行けば…。私は見たことがないのですが、建物で地下空間があるなら…外に通じる階段などが、あるやもしれません」
「ふむ…」
エドワードは何かを思案しているのか。考え込んでいて。「このまま、とどまっていても…宰相が来ないとは限らないが…」と言い。続けて。
「だが、行くのも――何が待ち受けているのか…危険なことには違いないね…」
「……」
悩むエドワードに、なにも言葉をかけることができない。どちらにせよ、危険がある選択に間違いはないのだ。
「…うーん。僕は先に進む方が、良い選択だと思うのだけど…公爵はどうお考えで?」
「……俺は」
エドワードに話を振られ。ユリウスは、視線を合わせて…少し考えたのち。
「俺も、先に進む方がいいと考え…ます」
「ふぅん?」
「もちろん進む危険はあった…が。崩れやすいここにいるよりも。地盤が安定している所に、行った方がより安全だ…と」
ユリウスは、「そう考えております」と答えた。確かに、先ほどの奇妙な物体が出した光によってところどころ…脆くなっている部分があった。
「確かに、そうですね。公爵とも意見が一致しましたから…我々は、先に進みましょうか」
エドワードは、後続に聞こえる声量で。エドワード、ユリウス、ナタリー…そして“影”の面々で進むことを伝える。そんな話を聞いているうちにナタリーは、ふと疑問を抱いた。
――あれ…?そういえば。あの石は、魔法で壊れないのだとしたら…。敵が出していた光はいったいどんなエネルギーが…?
「ふふっ、難しい顔をしているね?」
「あ、えっ?」
「そう、この石…僕の得意な魔法まで。外に出るのを邪魔してくるみたいでね…」
そして彼は眉をハの字に下げて。困ったように。「石が外とここを…障壁みたいに隔ててーー地面になければ大丈夫だったのかな?」と言った。
「でも、石を越えなければ…魔法は使えるみたいだから」
そう、エドワードはナタリーを励ますように笑いかけた。
そして、その言葉を聞いた瞬間。ナタリーは、ハッと気が付く。エドワードの得意な魔法…瞬間移動が使えないということは。逃げるにも逃げられない状況になっていたのだ、と。
「あんなに大口を叩いて、君を逃がすといったのに、ね。ごめんね…」
「い、いえっ!魔法が通じない石があるなんて…誰も予想できませんでしたから」
「ふふ、そう言ってくれると助かるよ…」
エドワードの瞬間移動魔法が石を越えて、使えないことを――おそらく、あの石を壊す魔法の時。ユリウスをはじめとして。マルクやお父様は、気づいたのかもしれない。
だから、進むか留まるかの話をし。結果、進むことになったのだ。
「…かといって、こちらも甘んじて待つだけはせず――どうにか、合流できるよう…他の道も考えてみます」
「ああ、よろしくね」
「ナ、ナタリ~ッ!父さん、必ず助けにいくからな…!」
「お、お父様、あまり無理はせず…」
ナタリーの声が聞こえてなかったのか。お父様は、「うおおおお~!」とやる気を出して…おそらく外に向かって走っていったのだろう。
マルクが、「ま、待って~!」とお父様を追いかけていったようだ。
そうして後続の人員が、外へと足を向け――気配が消えたころ。エドワードとユリウスが率いる先陣も動き出そうとした。その時。
「…殿下」
「なんでしょうか?」
「俺が、ご令嬢を抱えましょう」
「へえ?心配でもしてくれたのかな?」
ユリウスが、エドワードに話しかける。その言葉に、ナタリーはまだ自分がエドワードに抱えられている状況を思い出して。カーッと顔に熱が集まってくる…もちろん、ずっと抱えられてることへの羞恥心で。
(閣下も、いったい何を言ってるのかしら)
抱きかかえられなくとも、しっかり歩けるのに。そう思って、言葉を出そうとしたら。
「ナタリーは、羽のように軽いから…ずっと僕が運ぼうと思っているんだ」
「ほぅ?…お言葉ですが、殿下の体幹では。ご無理なさらない方がいいかと。俺は、日ごろから鍛えておりますので…」
「……へぇ?」
なぜかナタリーを抱っこするのに、火花が散っている。そんな状況になってしまっていて。自分を抱えたところで、何も利益なんて生まれないのに。この二人はいったい、どうしてしまったのだろうか。
どんどん顔に熱が集まっていき――。
「私はっ!一人で歩けますからっ!下ろしてください!」
ナタリーは、強い意志をもって。そう宣言した。
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