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「ナ、ナタリー!父さんが代わりに行くからっ、ナタリーは行かずとも…!」

「あなたっ!それなら、私でも大丈夫なはずよ…!」

「旦那様っ!?奥様っ!?こ、このミーナが、いきます…!」


ナタリーの言葉に反応した三人は、ナタリーが危険に遭うかもしれないと心配をして。ナタリーではなく、自分がっ!と身を乗り出してアピールしてくる。


(私は周りに…本当に恵まれているわ)


自分の身よりもナタリーを案じてくれる両親とミーナ。彼らが、心配して代わりに行きたいと思う気持ちはありがたいが…。


「お父様、お母様…涙露草の場所はご存知ないですよね?」

「うっ…それは…」

「……そうね」


お父様は、急に分が悪そうな顔をしながらも…「でもっ!」と譲れない気持ちを出す中。地図なんて読み慣れてないお母様は、しゅんとして暗い表情になる。


そうした顔をさせてしまうことに、悪いなと思うが――次に、ミーナを見て。


「…ミーナ」

「は、はいっ!」

「どうやら、魔法が使えないと…」

「知ってます…!魔法が使えない私は、命が危ないかもしれないってことはっ!」


ミーナもまた、譲れない部分があるのか。ナタリーを説得するように。「自分が行きます!」と言い募ってくる。


大好きな、大切な人たちから言葉を貰って。ナタリーは思ってくれて嬉しさを感じながらも…決心したように、顔を彼らに向ければ。


「私は、お父様、お母様…そしてミーナを危険に遭わせたら、そんな自分が許せませんわ…」

「そ、それは…同じ…」

「ペティグリューは、癒しの魔法をつかさどる…そして、命を脅かす危険性を少なくする。そうでしたよね?お父様」

「うっ」


露骨に、苦し気な表情に変わるお父様。それを聞き――さらに、強く言い出せなくなったお母様とミーナ。そう、ペティグリューは困っている人…とりわけ死にそうな人がいたら放っておけない。


そんなお節介さを、幼い頃から学ぶ。


それは、屋敷の使用人を越えて――領民たちにも浸透しているのだ。だからこそ、彼らもナタリーがエドワードと共に行くのが、一番…命を落とす危険性が少ないと分かりつつも。


ナタリーを一人にさせて大変な目に遭わせたくない…と。彼らの優しさが、生まれてしまって。


「…うっ、分かった」

「お父様…」

「ナタリーが案内するのは仕方ない…」

「あ、あなた」


ナタリーの言葉に、しぶしぶ引き下がるお父様の姿が見える。お母様が、心配で仕方ないと悲しそうにしていて。父の表情を見ると、ナタリーは心が苦しくなった…その瞬間。


「だけどっ!父さんも一緒に行くからねっ!」


お父様が、宣言するように高らかと言い放った。お母様もミーナも…もちろんナタリーも。お父様に視線を向ける。いい案が思い浮かんだとばかりに、お父様は笑顔で。


「ナタリーだけでは、護衛が足りないだろう…!幸い、父さんは魔法が使えるから…心配は無用だっ!」

「………へ?」

「殿下、一人くらい増えても瞬間移動の魔法は大丈夫でしょうか?」

「あ、ああ…」

「よしっ!それなら、父さんが必ずナタリーを守って…一緒に帰ってくるからな…!もう何度も経験しているから…これなら、君もミーナも…安心だろう!」


少しの沈黙が続き。エドワードが、「こちらでも、護衛はしっかりとするので、ナタリーのお父上は…」と言葉を続けようとすれば。


「あ~~ちょっと耳が遠くなってまして…歳かもしれませんなあ」

「だから…」

「やだぁ~~ナタリィ~、父さん、絶対護衛するからっ…じゃないと…」

「え…?」


お父様が、いつぞやの駄々をこねるような姿勢…床に這いつくばろうとしている気配を感じ。ナタリーはすぐさま。


「お父様っ!」

「な、なんだ…」

「何も起こらないかもしれませんが…無茶はしないって約束できますか…?」

「うんっ!」

「ナ、ナタリー?」


エドワードが、驚いたように声をかけてくる。…それも、そうだろう。ナタリーとお父様の会話を聞いていると。二人の立場が逆転したように感じてしまい。


(床で駄々をこね始めたら…もう止められないから…)


ナタリーは、護衛を許可されて。嬉しそうにはしゃぐお父様を…遠い目で見ながら、自分を納得させていた。


床で醜態を晒して提案を受けるより、きっと受け入れたほうが。何とは言わないが、ダメージが少ない気がする。羞恥心…いやこれ以上は考えてはいけない。


「その、申し訳ありませんが…エドワード様…お父様も共に…」

「あ、ああ…ペティグリューの総意であれば、僕から異論はないよ」

「ありがとうございます」


エドワードの了承を得て。その言葉に、満足そうにお父様は頷いていた。そして、お母様に「家のことは、代わりに頼むぞ」と言い。お母様も、お父様のワガママに慣れてしまっているのか。


極めて冷静に、「決して、殿下に…ナタリーに迷惑をかけてはいけませんからね…」と話しながらも。ナタリーが一人で行くことにならなくて、本当に良かったと…安心しているようだった。


「怪我の心配は、ぬぐえませんが…殿下、そして二人を信じておりますからね」


お母様の言葉に、ナタリーとお父様は頷いて。エドワード王子も、しっかりと受け止めているようだった。


「では、明日の朝…迎えに来るので。僕は、王城に帰るとしよう」

「エドワード様、来ていただいて…その御心に感謝しますわ」


エドワードは、ペティグリュー家に見送られる形で。また玄関へと戻り。そこで手をかざし始めた。


「魔法で帰るので…無作法だけど、許してほしい」

「え、ええ。構いませんわ」


周りが見守る中、エドワードは床に手をかざし。何かをつぶやく。すると…床を覆う形で大きな黄金の魔法陣が現れた。それを確認したのち。


「では、失礼する…また明日もよろしくね」


そう言って、彼はパチンと指を鳴らす。その瞬間、突風がビュンと室内に吹き込んできて――思わず。その場にいた面々は、目をつぶることになる。風が収まり、最後に聞こえたのは。


「ああ、伝え忘れたけど…明日も魔法で来るね」


そう楽し気に、話すエドワードの声だった。


そんなエドワードを見送った後。山へ向かうことが決まったナタリーとお父様は、明日に備え。傷薬から、身体を保護する衣服まで。万全な準備をした。


そして体力も必要だと。早めに就寝することになったのだ――。


◆◇◆


小鳥のさえずりが聞こえる朝。

エドワードが来る少し前に――ミーナが、慌てたように走る音が聞こえてきた。


「お、お嬢様ぁぁぁあ!」


バタンと…いつものように。ナタリーの部屋の扉を、勢いよく開けてきて。


「どうしたの…?」

「そ、それが…」


ミーナの手元には、朝の新聞が握られている。なんだか、嫌な予感がしながらも…ミーナから渡された新聞を見れば。


王家直属騎士が発見!不審死体の謎!?


大きな見出しにそう書かれていたのだ。どうやら、ペティグリュー領から出た崖に、その死体はあったらしく。騎士が到着したころには、体内から血を抜かれたように…干からびていたとのことで。記事の近くには、情報を求むと記載されていた。


なにより、その人物の似顔絵があって――。


「こ、この人、昨日お話した…報告が遅れていた…採取班の人ですっ!」


悲痛なミーナの声に…ナタリーは頭から血の気が引く感覚を覚えた。


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