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「ナタリィィ~!」


ユリウスと共に帰宅後。

お父様の盛大なお出迎えによって、どこか熱をもった――ぎこちなかった雰囲気はぱっと消えた。


屋敷に戻ってきてから、ユリウスとナタリーを見てお母様はどこか満足げに「あらあら」とほほ笑んでいた。ただ一方で、お父様からは、「何も、起きなかったか」といった心配に関して――根掘り葉掘り聞かれ。


対応が大変だったのだが…ナタリーは久しぶりに。慣れ親しんだ街へ外出ができて本当によかった、とそう思った。


(お母様、ミーナ…ありがとう)


お父様の心配という名の…矢継ぎ早な言葉に、ミーナが「旦那様、まあまあ」と押しとどめて。表情が少し柔らかくなったユリウスとも、挨拶をし部屋へと戻ることとなった。


「お嬢様…ええ、ミーナは分かっておりますともっ!」


ミーナによって、寝る支度が整えられていく中で。きっと、お父様とは別にたくさん聞かれるやも…と身構えていたが。どうやら、ミーナはすでに何かを察しているようで――。


「私は案内を閣下に――」

「ええ、ええ。大丈夫ですっ!」

「そ、そう…」


何も大丈夫には見えないけれど。程よい疲労感と心のしこりが取れたナタリーは、ぐっすりと眠りにつくのだった。


◆◇◆


ユリウスとのお出かけがあった翌日。

ナタリーの屋敷では、元気のいい声が響いていた。


「ユリウス~!回復したみたいだねぇ~!いやあ、よかったよかった」

「……心配をかけたな」

「本当に!そうだからねっ!いつも、行くときは俺に一言って…」

「…すまない」


いつかの手紙の通り、戦争の処理が終わったのか。副団長であるマルクが、ナタリーの屋敷に訪問しにきたのだ。そして、ナタリーと出会い頭に…手を取って親しみを込めた挨拶をしようとしたところ。


彼は、なにやらナタリーの背後を見て。「アッ、いやあ。お久しぶりです。麗しいご令嬢っ!」と、どこか焦ったように手を離してきたのだった。ナタリーは挨拶を返したのち、後ろを振り返れば…ユリウスがいることは分かったが。


(マルク様…いったいどうされたのかしら)


態度の変化によって、特に問題は起きてなさそうだったので。そのまま、笑顔で返すのみにとどめた。そうするとユリウスとマルクは、話し込むように何度かやり取りをし。


「身体が治ったばかりで、心苦しいんだけどねえ…その」

「構わない。なんだ…?」

「どうやら…ユリウスのお母様が…」


はじめは、和気あいあいと会話をしていた二人の空気が。何かをきっかけにして、重いものになっていて。屋敷の玄関だったため、ナタリーが立っている所からでは聞こえなかった。


ずっと立ち話をさせるのも…失礼だろうと思い。応接間に案内しようと声をかけようとしたところ。先にユリウスがこちらを向いて。


「…突然のことだが、行かねばならない用事ができてしまって…な」

「…っ!…そ、そうですの」

「マルクから、外に騎士団の団員がすでに待機しているようだから――後日、今回の滞在費やもてなしてくれた礼は――」

「えっ!い、いりませんわっ」


どうやら、マルクと話す中で――早速、ユリウスは騎士団の仕事ができたようで。屋敷から出て行き、騎士に戻るのだろう。身体が治ったら、当たり前の――想定していたはずのことなのに。


ここ数週間、一緒にいる時間が多くて。ナタリーにとっては、ユリウスが出て行くことに少しの驚きがあった。


「それより、お身体は…大丈夫ですか?」

「ああ、十分に回復した…その…長く世話になった。本当に感謝する」


彼は、マルクに促されるように身支度を始めている。ユリウスが、騎士団へ戻ると聞いて――お父様やお母様が見送りにやってきて。使用人たちも、ユリウスの帰り支度を手伝っているようだった。


しかし、そもそも荷物という荷物はなかったため。すぐに準備は整い――。


「お気をつけて…」

「ああ、ありがとう」


マルクと共に彼はペティグリュー家へ感謝を述べ、扉から出て行く。


彼の背中を見送ることに寂しさを――感じるのは、きっと一緒にいすぎたためだから。懐いてくれた…動物と離れるような、そんな寂しさだと。


彼に対して暗い感情の整理は少しついたものの。それとは別の――他のやましい気持ちはないのだと――自分を説得するように心でつぶやく。


(あら――?)


扉から出て行くユリウスの姿に、ナタリーはふと目がとまる。なんだか、胸を押さえていたような。それも、痛みがあるのか少し顔色が――。


でもその表情を見たのは一瞬で、すぐに気を引き締めた彼の…いつもの顔に戻っていたので。自分の見間違いなのかもしれない。


「お、お嬢様…きっとこの外套は、公爵様の…ってあれ?」

「あっ」


ミーナが、息を切らしながら。黒い外套など、ユリウスの私物を持って来たのは――ちょうどもう…屋敷から姿が見えなくなった頃で。すっかり、返しそびれていた服の存在を今更思い出す。


他のことに気を取られて。いつも忘れてしまう自分に、「もうっ!」と感じながらも。お父様にバレると事が大きくなりそうなので…ミーナにこっそりと仕舞ってもらうように頼む。


(今度こそ…今度こそよ…!)


そんなナタリーの思いをよそに、ユリウスが率いる――漆黒の騎士団は、ペティグリュー領から出て行ったのであった。


◆◇◆


「うーん…」

「どうしましたの、お父様…?」

「ああ、ナタリーか」


ユリウスを見送ってから、幾日か過ぎ。

平穏な日常を送っている中で。お父様が朝食を終えても…ずっと席から立ち上がらず。唸っている様子が目に入った。お母様も、心配そうに「あなた、大丈夫ですか…?」と伺う視線を送っていて。


「心配をさせたくはないが…、注意するに越したこともないな…うむ」

「え?」


ナタリーと妻からの視線を受けたお父様は、何かを逡巡したのち。口を開いた。


「どうやら、最近国内で不審な人物を見かける…と知らせを受けててな」



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