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使者がいる玄関へ、ミーナそしてお父様と共に向かう。


廊下を抜けて階段を下れば、仰々しい装いをした使者がいて――その手には、王家の飾りがついた巻物が見えた。使者が持っている巻物が、おそらく伝言であり…場合によっては、王命なのだろう。


(――以前は、閣下との結婚を命じられたけど…今回はいったい…)


王城からの便りに、あまり良いイメージがない。だから、ナタリーは身構えていて。


「…ペティグリューの領主様と、ナタリー様でいらっしゃいますね?」

「あ、ああ」

「…はい」


受けた命令を淡々とこなすように――目の前の使者は、父とナタリーを確認して。その後、巻物を開いて口に出した。


「国王陛下からのお言葉でございます。…此度の戦争で、貴家の通達により…騎士団などの応援が駆け付けたと聞いた。結果、我が国の領土に敵兵の害なく、また貴家の令嬢によって、同盟国兵の負傷も少なく――戦争終結に至った」

「…い、いや…その通達は――」

「…というのは、建前(たてまえ)だ」

「え!?」


お父様が、使者の言葉に待ったをかけて――否定をしようとすれば。逆に、使者が話す…王からの言葉にギョッとする。


「そうした“ペティグリュー家の活躍”ということで、他の貴族をけん制したい。この言葉の意味はわかるだろうか」

「……」


現国王――エドワードの父親からの手紙は“脅し”であった。つまり、貴族の中でも飛びぬけて力を持たないペティグリュー家へ褒賞をあげ――貴族間の均衡を図りたい、ということなのだろう。もしそれを汲み取らない場合は――。


(…想像するだけでも、恐ろしいわ)


「貴家には、ぜひとも褒賞を受け取ってほしい。王家からの要望はそれだけである。…ペティグリュー家は、今後とも王家と懇意にと願っている――ので」


父もナタリーも使者からの言葉に、固唾を呑んで耳を澄ませる。


「この“褒賞”以外は、難しく考えなくて結構だ。貴家領主には、明日王家に来てほしい…もちろんナタリー・ペティグリューも共に」

「なっ」

「王家から領主とその娘に、栄誉を与える…以上になります」


国王から出た娘の名前に、お父様は口をあんぐりと開きながら受け止めている。一方で、ナタリーは同盟国の褒賞として…捧げられないことにホッと安堵した。


そんな父と娘の思いを気にせず。使者は「明日、王城へと来てください…よろしくお願いします」と最低限の礼儀をもって――帰り支度を行い、見送るのも結構といった具合に。


素早く馬車へと乗り込んで、去っていった。


「…ふ、ふぅ。なるほど、な」

「…明日、王城へ向かいますのでしょうか?お父様」

「…うーむ。そうだな、国王様の言葉を無下にはできない…な」

「そう、ですよね」

「だが、聞いた内容は…損ばかりでもなさそうだ。まあ、社交界で少し注目を浴びるだろうが…」


国王からの提案で、領土をもらったとしても――うちの家は都市部から離れているので。きっと他の貴族にとっても脅威にはなるまいから。なにかやっかみが現れることもなく…収益が増える分には魅力的なものだ――ということらしい。


「ただ…父さんの可愛いナタリーが…他の男の目に触れてしまうのが…大問題だな…」

「……お父様」

「ナ、ナタリー!母さんのように冷静な目を、父さんにっ!?うっ…」


お父様は「真剣に考えて…言っているのになあ」とつぶやきながら、胸を押さえていた。ナタリーの視線が、思いのほか心に刺さったらしい。


(…王城…ね)


舞踏会ぶりに、行くことになる。ただ今回は催しではないので――巻物の内容からも、ただ褒賞を授与されるだけのようだから。きっと何も問題はないはずだと、自分の頭の中で何度も確認する。


そんな怒涛の連絡などを受け――その後、ユリウスに処置を終えたフランツに別れを告げた。もし数日経っても起きなかったら、また呼んでほしいとのことで。


僻地へと帰っていくフランツを見送ったのだった――。


◆◇◆


どれだけ悩んでも、考えても時間は過ぎ――。

王城へ向かう当日になった。今日もまだ、ユリウスは目覚めていない。ミーナに支度を手伝われたのち、お父様が待つ馬車へと向かう。


「あなた、ナタリー…気を付けてね」

「…ああ、君も体をよく休めるんだよ」

「ええ、ゆっくり休みますわ」


国王から、お母様の参加の是非は書かれていなかったので――戦争後、心労からか体調を崩していたお母様は家で待つことになった。第一王子のこともあったし…きっと無理して来てほしいとは、思ってないだろうというお父様の見立てだ。


「お母様、いってきますわ」

「…はい、二人ともいってらっしゃい」

「ああっ!すぐに戻ってくるからな…!」


お母様に見送られながら、お父様とナタリーは馬車へと乗り。王城へと向かったのであった。


◆◇◆


ナタリーの知る王家は――戦争が始まり、第一王子と第二王子が倒れ…現国王は退位していた。そして幼い第三王子が、王位を継承していて。


しかし今回は、第一王子の訃報は知らされたが――第二王子、現国王は健在だ。


そんな自分の知る歴史と現在を比べていれば…ペティグリュー家の馬車はあっという間に王城へと着く。舞踏会ぶりに、街や城の様子を見るが、戦火の被害は一切なさそうだ。


馬車をお父様と一緒に降りれば。王家の使用人に案内され――現国王が待つ広間へ通される。そこは…赤いカーペットが敷かれる空間で、床から数段上の位置に豪華な椅子があり。


「…よく、来てくれたな。ペティグリューよ」

「…国の崇高な光にご挨拶申し上げます」

「そう、堅くならなくともよい…顔を上げよ」


父と娘が共に、敬意を表して顔を下げていれば。現国王から言葉をかけられ、二人とも顔を上げる。そこに映るのは――戦争で疲れが生まれたのか、濃いクマがある国王様と王妃様。そして側に、エドワードと第三王子が座っていた。


「来た早々にだが、褒賞を授けようと思う…敵国で得た――ペティグリューの領地に近い土地を与えよう」

「はっ、ありがたく頂戴します。今後も、ペティグリューは王家に忠誠を誓います」


今回の戦争で獲得した他の土地については――同盟国と共に協議していくようだ。比較的利益があまりないと見えた土地が、授かった場所だ。きっと、重視していなかったから…こんなに早く褒賞として授けられたのだろう。


「…うむ。まあ堅苦しいことは…これで終わりにしよう」


一通りの授与が終わった後、国王は満足そうに頷き。視線をナタリーに向けてから、お父様を見て。


「ペティグリューとあまり交流をせんかったな…と思ってな」

「は、はあ」

「此度の戦で、そなたとの連携も必要だと――思っての」


国王はお父様の瞳をじっと見つめる。そんな国王のオーラにビクついているのか…お父様はオドオドしていて。


「だから、今日は天気もいいからな…ゆっくりと庭で話そう――ペティグリューの」

「こ、光栄でございます」

「うむ…そうなると、ペティグリューの令嬢は退屈になるだろう…?」

「えっ、いえそんな――」

「エドワード、令嬢に城下町を案内するのはどうか」


驚くナタリーに気づいていないのか。国王はニヤリとなにかイタズラな視線を、エドワードに向けていて。その視線に、エドワードは苦笑しながらも。


「ふふ、素敵な提案だと思います。きっと、城下町はあまり来たことがございませんよね?」

「え、ええ」

「では、この僕が案内いたしましょう。魔法で変装すれば、騒がれませんし…なにより“影”もおりますから、心配はないでしょう」

「へ、陛下っ?」


エドワードの瞳に見つめられて――城下町に来たことがないことを伝えれば。話が進んでいき、驚きの提案にお父様は。思わず国王を呼び、目をこれでもかというくらい開けていて。ナタリーが男と歩くなんて――!?とでも言いたげな視線だった。


「だから、案ずるな。…エドワード、しっかりとエスコートをな」

「はい、父上」


(えっ、いったい…どうしてそんなことに…!)


エドワードと話す機会なんてないと思っていて。それは、貰ったペンダントを持ってきていないくらいには思っていて。お父様は、王族が近くにいるためか――強く否定できないようで。目で意思を伝えるのみ。そんな中、優美な足取りでナタリーの前へ…エドワードはやってくる。


「どうか無礼をお許しください…手を触りますね、ナタリー」

「…へ?」


太陽のように輝かしい美貌の彼が、ナタリーの手を取れば。


「では、行ってまいります…夕刻までには戻りますね」

「えっえっ」


エドワードは、広間にいる面々にそう伝える。すると、王妃様は笑顔で。第三王子は「お兄様、いってらっしゃい~!」と手を振っていた。そしてエドワードはというと…ナタリーと視線が合えば、面映ゆそうに目を細め。


その顔を見た瞬間、ナタリーの視界がぐにゃりと歪み…目の前の景色が変わっていった――。



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