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「どうしましたの?フランツ様」

「…その、わしも聞いたばかりだから、噂程度の話として聞いてほしいんじゃが…」

「え、ええ」


暗い表情のフランツにつられて、ナタリーの表情も硬くなる。


「わしは僻地におるからの…色んな話が聞こえてくるんじゃが…どうやら、ここの領地に近い国が攻め込む準備をしておるって話がの…」

「そ、それ、は」


同盟国はこちらに侵攻しないだろう。とするなら…ナタリーが以前に見た戦争の――敵国が準備をしているのか。


「…ああ、本当なら旦那様にお話しすべきなのじゃが、まだ今日会ったばかりのわしの話を耳に入れるのもどうかと思っての…まあ、あとは…」


フランツは微妙な顔をする。おそらく、さっきの部屋で見た父と母のやり取りを見て――この話をするのを遠慮していたのかもしれない。


「えーっと、頼りになるときはなるお父様ですので…」

「そ、そうか!いや、なにそんな心配はしとらんかったがの…いや~、ほっほっほ」


笑顔でごまかしているが、ナタリーも強く否定しづらい。お母様は周りから見て、良くないレッテルを貼られるから…口を酸っぱくお父様に「威厳を」と言うが――。


(…うーん、あれがお父様のいいところでもあるし…)


ありのままの…表も裏もない姿は、安心するというか。これもあくまで、家族のひいき目になってしまうのかもしれないが。


「フランツ様…ご忠告、感謝いたしますわ」

「ほっほっほ。いいのじゃよ、戦争なんて起きん方がいいんじゃがのう…」


それは、ナタリーも強く同意する。確かに以前も戦争は起きたが――こんなに早く準備しているものなのだろうか。まだ、一年ほど猶予があると思っていたのに。


(なんだか…嫌な予感がするわ)


◆◇◆


お母様の診察が終わり、ひとしきり家族でお礼を言い。フランツが帰った後。ナタリーはお父様の部屋へ向かう。ちょうど部屋に着いた瞬間、ばったりお父様と出会う。


「ナタリーじゃないか…!どうしたんだ…父さんの子守唄を、ついにっ」

「お父様、ちゃんとしたお話がございます」

「あっ…はい」


お父様はどこか寂し気な表情をしながら、ナタリーを部屋の中に招き入れる。ソファで対面する形で座り――「戦争に備えて、兵をきちんと集めたほうがいいと思いますの」と話を切り出した。


「え、ええ!?」

「突然のことで驚くのかもしれませんが、ここは他の国に近いため…攻め込まれる危険が高いと思いませんか」

「…う、ううむ」


お父様は今まで見たことのない程の難しい顔をする。それもそうだろう、ペティグリュー家の領地は今まで戦火に巻き込まれたことが少ない。だからこそ、兵力だって少なく――ナタリーの知る未来では、ひどい惨劇に陥った。


「…お願いします。お父様、領地の守りを増やしてくださいませ」

「…ふむ」


お父様が、渋るのもわかる。守りを増やすということは金がかかることだ。ナタリーの一存ですんなりと決められない。きっと説得するのも難航するはずだ――と思っていたのだが。


「…わかった」

「え?」

「…ナタリー、父さんは戦力を強くしようと思う」

「…お、お父様、その…本当にいいのですか?」


お父様はすんなりと受け入れてくれた。自分で言っておいてあれだが、つい心配になり――聞き返してしまう。そうすると、優しい笑顔を向けてくれて。


「どうしたんだい?ナタリーが言ったこと――まあ、確かに急に頷いたのは、気になるか」

「…え、ええ」

「父さんは、今回…母さんの件で、ナタリーにとても感謝しているんだ」


お父様は、ナタリーの瞳をきちんと見つめてくる。そして深く頷き。


「なにより、父さんじゃ見えなかったことを…ナタリーが気づいていると、理解したんだ」

「……」

「本当に、父さんの目は節穴だな…まさか最愛の人を亡くしてしまったかも…なんて」

「それはっ、お父様のせいじゃ」


ナタリーの言葉を受け止め、どこか満足そうに――そして確かめるようにお父様はまぶたを閉じる。


「ナタリーは優しい子に育ったな。だからこそ、なんだ」

「…?」


ゆっくりとまぶたを開いて、ナタリーを視界に映すと――真剣な面持ちで。


「父さんたちのことを考えてくれる…ナタリーの言葉を信じられないのなら――これから先、何も信じられなくなるだろう」


会話の中に、確かな温かさを感じる。その言葉は、ナタリーの胸に響き。


「お父様…」

「おや、父さんも泣き虫だが――ナタリーも父さんに似ているな」

「も、もう…っ!」


ナタリーは、気づけば目に涙を浮かべていたようで。それを見たお父様は、ゆっくりと席を移動し…ナタリーの隣へ。


そして娘をぎゅっと抱きしめる。幼い頃以来かもしれない、いや死ぬ前を合わせるとかなりの期間ぶりになるだろう。


(お父様は…こんなにも思ってくれてたんだわ)


いつもは、父に対して冷静な態度のナタリーだったが。本当はなんだかんだ…甘えたかったのかもしれないと気づく。


「お父様、ありがとうございます」

「ううん。いつだって、父さんを…そして母さんも頼っていいんだからな」

「ふふ…、そうしますわ。あ…」


お父様の机の上に置いてある紙を見つけて――いたずらな笑みが思わず浮かぶ。


「どうしたんだい?ナタリー」

「お母様へ贈る、新しいドレス…内緒にしておきますわね」

「えっ!どうして…あああ、依頼書が見えていたか…サプライズだから…な?」

「ええ、お母様もきっと喜びますわ」


完成日は、来年――ナタリーが知る戦争後の日付だった。



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