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お父様の心配は屋敷に帰るまで続き――。

ナタリーがいないと呼吸ができない、父さんはナタリーがいないと寂しくて死んじゃうんだよ、とか。怒涛の宣言を耳にタコができるほどあびた。なので、その後舞踏会を楽しむなんてことはできず。


無事に屋敷まで家族と一緒に帰った。お母様が、ナタリーの足元を見て「まあ!まあ!」なんて目を輝かせていたが――。お父様にバレないように、そっと隠してくれていた。


◇◆◇


舞踏会からの翌日、国中で注目を集めた新聞は「宰相派閥、王家転覆の疑いで投獄!?」という内容だった。記事には、第二王子エドワードの功績を称える内容が目立ち――彼こそが次期国王にふさわしいと期待されているようだった。


(…私の知っている世界から、どんどん変わっていってるわ)


紙面を持ちながら、ナタリーは国の変化を実感する。これで後は、敵国との戦争を乗り越えるだけ――。


改めて、拳を握って決意を持つ。そして、部屋のノックが鳴ったのと同時に「お嬢様。ミーナが屋敷へ戻ったようです」と使用人から声をかけられた。


「あら…!本当に!すぐ迎えにいくわ」


ミーナが貰ったであろう薬をお母様に。逸る気持ちを胸に、玄関へと向かうのだった。


◇◆◇


「ミーナ、おかえりなさい…それで…あら?」

「あっ!お嬢様、ただいま帰りました!それとこちら…」

「ほっほ…久しぶりじゃのう、元気にしておったか?」


ミーナの隣には、医者のフランツが立っていた。会ったのが舞踏会前なので、約ひと月、ふた月ぶりだろうか。


「お医者様が、薬を処方するために奥様を診てくださると言ってくださって…!」

「うむうむ!もちろん薬を渡すだけでも良かったのじゃが…診ないことには、正確な量は難しかろうとな」

「フランツ様…本当にありがとうございます」


フランツの申し出にじーんと、胸が熱くなる。彼にも用事があったかもしれないが、ナタリーの母のために屋敷まで同行してくれた。彼の腕がいいことはナタリー自身が…良く知っているから。


「そうじゃな、少し服装だけを整えて…早速、患者様の状態を診てもいいかのう?」

「ええ…!よろしくお願いしますわ」


彼の笑顔に、優しさに救われながら…ナタリーはミーナにフランツの案内を頼む。そして、フランツが到着して数刻の後…お母様の部屋へ一緒に行った。


◇◆◇


ゆっくりと軽く、お母様の部屋にノックをする。そうすれば、「あら、どうしました?」とかすれた母の声が聞こえた。


「お母様、ナタリーです。その…お医者様を連れてきました」

「まあ…!いったいどうして…部屋に入ってくださいな」


舞踏会が明け、お母様は体力を使ってしまったのか――今日は朝食にも出られず、ずっと部屋で過ごしていた。ナタリーはフランツに顔を向け、促すように一緒に部屋の中へ入っていく。


「失礼しますな…ナタリー嬢から依頼を受けてきました。フランツと申します」

「あら…ご丁寧に、ベッドからで挨拶が遅れてしまって…」

「いえいえ…気になさらないでくださいな。挨拶も喉を使ってしまうようじゃから…患者様は、自分を第一に考えてほしいのじゃ」

「まあ…お気遣い、感謝しますわ」


ぐったりとしているお母様の様子に、ナタリーの不安は増す。舞踏会の時はいきいきと楽しんでいるように見えたが、本当は無理して――。


「ふふ、ナタリー?大丈夫よ。お医者様を呼んでいただなんて…びっくりしたけど」

「ほっほっほ、ナタリー嬢はお母上様が大事なんじゃのう…わしがちゃんと診るから、座って大丈夫じゃよ」


二人の優しい視線に、言葉に促されて。そしてミーナが、側で座るための椅子を用意してくれる。


「ふむ…やはり、奥様は黒点病…じゃな…」

「…え?黒点病?」

「おや、ご存じではなかったのですな…」


フランツがお母様に、黒点病についての説明をする。フランツが診察している間見えた――お母様の手首には前よりも濃くなった黒い痣が見えて。


「まあ…そんな…!そうした病気があるなんて、気づいていませんでしたわ」

「そうじゃな…確かにまだ治療法が確立していない病なんじゃが、ちょうど薬ができましてな」

「あら…!本当に…!心から感謝いたしますわ」


目からウロコといった顔つきで、お母様はフランツと会話をする。そしてフランツは、にっこりと微笑み。


「いえいえ…奥様。わしよりも…、この薬や奥様に対して協力してくださったのはナタリー嬢なのですよ」

「……っ!ナタリーが?」

「ええ、僻地にいるわしを頼ってまで――奥様を助けたいと思う気持ちゆえでしょうな」


お母様はこちらに顔を向け、涙を浮かべていて。「ナタリー」と声をかけ、手で招いている。フランツが、薬を準備し始めたのと入れ替わりに、お母様の前へ行き。


「…お母様、勝手なことをしてしまって」

「ナタリー、ありがとう。勝手なことだなんて、思ってないわ」

「……っ」

「やっぱり、自分で思い込むのはだめね。すっかり、風邪くらいに思ってしまって――」


お母様がぎゅっとナタリーを抱きしめる。その温もりは、ずっと大好きなもので。


「…っ、お母様がいないと…私、嫌です。元気なお母様が…」

「ナタリー、本当に、本当にありがとうね。ナタリー、もう心配をかけませんからね」

「…っうん」

「ふふ、そうよね。私がいなくなったら、お父様の暴走を止める人が―――」


お母様に頭を撫でられながら、会話をしていると。ドタバタと廊下を走る音が響き。ガチャっと大きな音を立てて扉が開いた。


「だ、大丈夫なのか…!」

「あら、あなた。急いでどうしたの?」

「っ!君が、重病だと…医者を呼んだと…」


扉から現れたのは、息を切らしたお父様で。汗とともに、目に段々と涙があふれていき――。


「医者を呼べば、大丈夫だって言ってたのに…うっ、君も、大丈夫だって…ううっ」

「まあまあ…」

「やだ~~~、君がいない世界なんて、耐えられないよう~~」

「もう…、ナタリーが医者を呼んでくれたおかげで大丈夫に…って、聞いていないようね」


お父様の目には大量の涙が。ナタリーはそっと、「お母様、お父様に場所をゆずりますね」と言う。お母様はその言葉に目をまんまるくして――そして面白そうに笑う。


「ナタリーはお父様のこと、本当にわかっていますね」

「うう~~~、やだ~~~。もうなにもできない~~」

「あなた!ほら、こちらへ」

「誰よりも、愛しているんだ…ううっ」


ナタリーが譲った場所に、お父様は瞬時に着席し。お母様の腕の中を独占する。夫婦仲が良いことなので、微笑ましいはずなのだが…一瞬、父が大きな子どもに見え。…いや、気にしてはいけない。


「ほっほっほ。仲が良いのですな」

「え、ええ…」


すこし苦笑いになってしまったのはご愛敬だ。家族のやり取りをしているうちに、フランツは薬の準備を終えたようで。ミーナや執事に、処方の頻度などを教えていた。


「うむ。これで治るじゃろう。また診察に来るからのぅ」

「フランツ様、本当にありがとうございます」

「いいんじゃ、いいんじゃ。…あ~、そうじゃのう。ナタリー嬢、話があるんじゃが…」


フランツの視線の先には、未だに母にべったりの父がいて。「部屋から出ても構わないじゃろうか?」とフランツが提案してくれる。


「ええ、出ましょうか」

「すまないのう」


提案通りに、部屋から出て廊下に立つ。廊下には、ナタリーとフランツだけで。フランツは、声を潜めて話し始めた。


「その、怪しい話を聞いてのう…」



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