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お母様が、「ペティグリュー家のご令嬢にって書いてあるカードがあって…そこに家紋が描かれていてね」と微笑みを浮かべながら話す。


「う、うん」

「私も歳なのかしらね、忘れてしまって…なんだか王家の獅子のような絵柄と――他国で有名な鷹の…黒い騎士様を象徴しているものが見えるのだけれど…いったい誰なのかしら!」

「へ、へぇ…そう、なのですね」

「ええ!もう気になって夜しか眠れなさそうだわ!」


お母様の瞳と目が合えば…すべてを見通していそうな雰囲気を感じる。カードはともかく、ナタリーはしっかりと玄関に置かれた二つのドレスを見る。まずは柔らかい緑を基調とした――肩が露出しながらも清楚なイメージを持つドレス。


よく見れば、宝石のエメラルドがドレスのレースに編まれていて…。豪華絢爛な装いだ。このドレスを見ると、どこかの王子の瞳が思い浮かぶ。なぜだかそんな気が。この前のお礼が続いているのだろうか。


「ナタリィィ~!」


視界にドアップのお父様の顔が映り…それを避けるように、もう一つのドレスを見る。こちらは鮮やかな赤を基調としながらも、セクシー過ぎず――肩から腕にかけて透明なシフォンを使用している。シースルーの可憐さが際立っていた。


こちらのドレスも、胸部付近にレースでルビーの宝石がいくつも光っていて。どうしてだろう…ユリウスの瞳が連想させられる。


(でも、なんで閣下が…私に?)


うーん…と、頭を悩ませていれば。


「ナタリィィィィィイ!父さんを…無視しないでおくれ~!」

「お、お父様…」


先ほど見た時よりも、ずいぶん震えながら…また皺くちゃな変顔が映る。どうやら、ナタリーが二つのドレスを見ているのが気に入らないらしい。


「父さんもっ!ナタリーに見せたいものがあるんだ…!本当はもう少し後を予定していたけど…!」


お父様がそう宣言し、高らかに指をパチンと鳴らせば。待機していたのか、使用人たちが一斉に二つとは違うドレスを持ってくる。それは、ペティグリュー家を思わせる――薄い紫と白が合わさったドレスで。


また胸元が開き過ぎず、ところどころに真珠が施されていて。天使を想起させるような――。ドレスから目線を変えて、お父様にお礼を言おうとすれば。立っていたお父様が、なぜか床に寝転がっていた。


「えっ」

「やだ~~!ナタリぃ~他のドレス選んじゃやだ~~父さんやだよう~」


盛大に、お父様は床で駄々をこねていた。お母様の方からは、極寒の視線――ペティグリュー家の使用人たちはサッとそこから視線を逸らしている。ミーナに至っては、死んだ魚のような目をしていて。


「あなた…見苦しいですよ」

「ひ、ひぃっ!で、でも嫌なもんは嫌だ~!これだけは譲れないもん~!」


お母様の視線にも負けず、我を通している。自分の父ながら…ある意味あっぱれとも思ってしまう。


「…お父様」

「ナタリー…」


見上げるように、縋る瞳が向く。両親に甘いナタリーは、白旗を上げた。


「私もお父様のドレスが一番だと思っていましたの」

「ナタリーっ!」

「ナタリー…お父様のことは気にしなくていいのよ?」

「…ううん。本当にこのドレスがいいの」

「…そうなのね。ナタリーがいいなら…良いのだけれど」


床からガバッと起き上がったお父様は、とても満足げで。それを見たお母様や使用人たちは、呆れているようだ。


「それに、どちらも差出人のお名前がないんですもの…」

「そうだっ!そんなドレスやめた方がいい!父さんもそう思ってた!」


差出人は100%想像ついていたが…どちらのドレスも着て行ったら目立ちそうだ。なにより、問題に巻き込まれそうな可能性が頭をよぎったのだ。王家の婚約者であったり…ユリウスの母であったり。


「まあ、それでも当日までに気が変わったら…私に言ってね?ちゃんと保管しておくから」

「なっなんだって…!」

「は、はは…」


お母様の言葉にお父様が目をひん剥いて、驚く。しかし、お母様の采配でこの場の騒ぎは収まっていったのだった。


◇◆◇


舞踏会当日――。

ナタリーが、着るドレスに対して気が変わることもなく。お父様が誂えたドレスを着用していた。ミーナが手伝ってくれて、やりきった顔をする。


「お嬢様…!間違いなく、国一番の美しさです…!」

「ふふ、褒めてくれてありがとう」

「あ、本気にしてませんね?間違いないのに~」


ぷくっと顔を膨らますミーナを見て、思わず笑顔になる。そんなミーナは、今日フランツの元へ向かうことになっている。夕方ごろに出発するので、帰りは明日になるそうだ。


「ミーナ、本当に今日は…」

「大丈夫です!お嬢様の気遣いは嬉しいですけど…私がしたいって思ったことですから!なので、今日は私の分まで楽しんで来てくださいね?」

「え、ええ…」


ミーナの勢いに負けて、尻すぼみな反応をしてしまう。それを見たミーナは、「ちゃんと、舞踏会でのお話聞かせて下さいね…!」と念まで押してくる。そうまで言うなら、一緒に参加すればいいのに…やっぱりそれは違うらしい。


(今日の舞踏会は…楽しめるのかしら…ね)


前回は壁の花になってやり過ごしていた舞踏会。そのことを思うと今回も、周りの偵察はするが…果たして。ミーナとの会話を楽しみながら、刻々と舞踏会への時間は近づいていった――。


◆◇◆


ミーナを先に馬車で見送り。その後、執事に連れられて外へ向かう。馬車の前にはお父様がいて…早くも涙ぐんで感動していた。お母様が、早く乗ってくださいと催促すればやっと動き…馬車の準備も整って動き出す。


夜が近づく中――ペティグリュー家の馬車はしっかりと会場へ向かっていった。


◆◇◆


王城の荘厳な扉が開き――会場の中へ、父のエスコートで入れば。煌びやかなシャンデリアと豪華なドレスを着た貴族たちが見えた。ナタリーが入った瞬間、ちょうど楽団の音楽が止まったのか。少しの静寂ができていた。


なにやら、ナタリーの方へたくさんの視線が集まっているようなと思っていると目線が合った。それはまず、赤い瞳のユリウスで。今まで見たこともない程、目をまんまるくしていた。そしてその隣には、甘い相貌のマルクとも目が――合った瞬間…なぜか彼は、焦ったようにバツの悪そうな顔をして走り去っていった。


しばらくこちらを見ていたユリウスもまた、いつものように鋭い目つきになり。急にマルクが走った方へ彼もまた、向かっていったのだ。少し顔が赤かったようだが――。


(…どうかしたのかしら?)


なんとも変な行動だなと思っていれば…二人が消えた間から。ユリウスの母、元義母の姿が見える。彼女はナタリーのことなど視界に入っていないようで、「おーっほっほ」と近くの貴族と会話を楽しんでいるようだ。


元義母こそが、今回の舞踏会で大きな問題を起こすことを――ナタリーは知っている。


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