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コンビニでたまたま芽生える恋があったっていいでしょう

作者: 山田くぐる


 少し窮屈なスニーカーに押し付けられる霜焼けが痛い。

 冬は嫌いだ。いいことなんかありゃしない。何一ついいことなんかあるわけない。

 だって、こんなにも寒いんだから。

 

 僕の毎朝の日課はコンビニで缶コーヒーを買うこと。

 少しでも暖まりたいという悪あがき。

 家から会社の間の唯一のコンビニは冬の朝限定だ。

 今日は一日晴れの予報だったのに。はぁ、と大きくため息をつく。本当についてない。

 定時で上がり、家路なかばで土砂降り。コンビニに飛び込んでからはや10分。

 雨は止むどころか、どんどん強くなってきている。

 やむを得ない。ビニール傘を買おう。

 傘を買うのは嫌だが、あの雨に打たれるよりは幾分かマシだ。


 早朝しか立ち寄ったことがないため、少し新鮮な気がするコンビニ。

 ビニール傘をを店員に手渡し、お金をトレイの上におく。

 さっさと帰ろう。足早にコンビニからでようとする。

 するといきなり、


 「お客さま!」

 

 と後ろから声がかかる。

 今はコンビニに俺しかいない。振り返る、


 「お客さま、お釣りをお忘れです!」

 

 どうやら俺は、急ぎすぎてお釣りを受け取るのを忘れてしまったらしい。

 缶コーヒーはいつもピッタリで払うからうっかりしていた。多少恥ずかしいがどうってことない。

 だってこの時間帯にはもう一生来ることはないのだから。


 レジにずんずん進み、


 失礼しました。ありがとうございます。


 チラリと店員の顔を見て言う。


 と、同時に ドクン と心臓が脈打った。

 

 特段、美人というわけではない。のに、何故だろうか。 

 とても惹かれた。一目惚れだと自分でもわかった。

 彼女と目が合う。ニコリと笑う彼女を見て心臓は破裂してしまいそうだ。

 ドクドクとうるさいそれを無視する。

 

 サッとお釣りを受け取り。

 さっきよりももっと急ぎ足でコンビニを後にする。


 帰りながら思う。一生合わない人に一目惚れしてしまった、と。

 思い出すだけでもドクドク脈打つ。どんな人かも知らないのに。

 

 少しくたびれたアパートに帰りつく。少し濡れてしまったスーツを窓際にかける。

 

 いつもの日課のビールを飲みながら彼女を思う。

 一目惚れなんて初めてだな。

 ハハ、とかわいた声で笑う。明日も行ってみようかな。珍しくそう思った。


 大きな水たまりができている通勤途中。いつもと同じように缶コーヒーを買う。

 昨日のことを思い出し少しだけニヤける。

 今日も昨日と同じ時間。定時であがって足早にコンビニへ。


 カランコロンと入店音が響く。


 脇目も振らず缶コーヒーを手に取る。レジの方に目をやる。

 立っているのは少しくたびれたおじさんただ1人だった。

 次の日もまた次の日も。

 同じ時間に缶コーヒーを手に取る。

 彼女はレジにいなかった。


 期待するのも馬鹿馬鹿しくなり会社帰りにコンビニによることはなくなった。


 朝だけだに戻った缶コーヒーが少し切ない。

 そんな気がした。


 今日は一段と冷えるな。

 身震いしながら店内へ。

 一直線に缶コーヒーの元へと急ぐ。


 たまたま。本当に偶然、今日は小銭がなかった。

 しまったと思いつつ千円札を出す。

 今回はお釣りがあるぞ、と自分に言い聞かせる。

 受け取る時、ほんの少しの期待をのせて店員の顔をチラリと見る。


 バラバラと小銭が散乱した。

 そんなことはどうでもいい。


 彼女だった。


 名刺を出して彼女に押し付けるように渡す。

 言うつもりのなかった言葉が口をついてでる。


 「好きです、。」と


 ぽかんとする彼女に、やばい引かれたかなと思いつつ。

 もうどうにでもなれと流れに任せて吐き出した


 「土砂降りの日に一目惚れをしました。良ければ付き合っていただけませんか。」


 

 次の日の朝も缶コーヒーへ向かう。

 彼女はいなかった。

 昨日の返事はもちろんノーだった。当たり前だけど。

 

 でも何故だろう、ほんの少しだけ冬が嫌いじゃなくなった。

 霜焼けの痛みも、白い息もなんだかんだすてたもんじゃないな、と。


 そう思った。



 


 

 

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