3話
前世において。
その狼は何度も戦ったことがありました。
正直な話、私からすればたいしたことはなく、倒そうと思えば倒せるような相手だったのですが……
さすがに、子猫の体では勝てないでしょう。
この場合、私に残された選択肢は「逃げる」「戦う」「諦めて死ぬ」のいずれかです。
このうち、まず「逃げる」は選択できないでしょう。
今、あの狼が襲いかかってこないのは、私が逃げようと背中を見せたときに襲うため……つまり、背中を見せた瞬間やられる可能性が高いのです。
次に、「戦う」ですが……正直これを選択するしかないのでしょうね。
私は、「諦めて死ぬ」なんて選びたくないですから。
と言っても、今の私は貧弱ですので、戦うことは厳しいです。
猫の攻撃といえば……ひっかく、噛みつくくらいなものですしね。
魔法が使えればいいのですが……猫が使えるはずは──ッ!
ついにじれったくなったのか、狼が襲いかかってきました。
子猫の私より大きく、鋭い爪でやられそうになるのを緊急回避。毛が何本か散りました。
幸いダメージは負っていないので、距離をとります。
……子猫の体という前提だと、とても強敵に見えますね……
またしても狼は襲いかかってきます。
目の前の小さな獲物が反撃などできるはずもないとでもいいたげな直線の突っ込み。
それに対して私は、体を伏せ、上を通った際に爪を当てることにより狼の毛皮を引き裂きました。
「グロゥッ」
反撃されると予想をしていなかったようで、少し情けない感じの鳴き声が漏れましたね。
僅かながら、血が滴り落ちています。
反撃に成功した私ですが……もう少し攻撃力が必要だったようですね。
大きなダメージは与えられず、警戒度を上げただけ。これではトータルで損しています。せめて毒が爪についてたらよかったんですけどね。
すると狼は弧を描きながら上から来る形で襲いかかってきます。ちょっと工夫したようですね。
しかし、少し焦りが感じられます。
──戦場において、その焦りは命取りですよ?
こちらに着地するタイミングで、こちらも上にジャンプ。
勢い余って地面に追突した瞬間に、こちらが上から飛来し、噛みつきます。
深く、より深く歯を食い込ませます。
「グルアァァァッ!」
痛み……というよりも痛みを与えられたという事に対する怒りの鳴き声をこぼしていますね。
全力で体を動かし、私を引き離そうとします。
それに対して私は特に抵抗をせず、勢い任せに吹っ飛ばされます。狼を、食いちぎりながら。
「グラァァァァァッ!!」
ガチギレですね。
しかし、少し動けないようなのでこの隙に離脱しましょう。
ダメージは与えられても、勝ち目はないのですから。
なんとか生き残ることに成功した私は、狼に襲われた場所から離れたところで休息をとっていました。
……ふぅ。それにしても大分奇跡的でしたね。
思ったよりなんとかなるものなのでしょうか?
いえ、油断は大敵です。
慢心せず、できるだけ戦える手段を用意したいところです。
そんなことを考えていると、疲労が溜まっていたのか、眠気がやってきました。逆らえそうにもないですね。
ただ、このまま眠れば寝てるうちに殺されるという未来がありありと見えるため、だるい体を動かしてそれを探します。
すると結構簡単に見つかりました。私がちょうど入れるくらいの小さな洞穴です。
猫の目は暗闇でもかなり見えるため、中に危険な生物や危険な物がないことを確認して、入り口をしっかり塞いだあとで眠ろうと思います。
危険な生物……いない。
危険そうな物……なし。
では、入り口を小さな石で塞ぎましょう。
入り口から入っていた光が消えると、洞穴の中は完全に真っ暗になりました。
一連の行動をし終えると、抗い難い眠気が再度襲ってきたので、それに逆らうことなく眠ります。
おやすみなさい……