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魔導エンジニア~世界は割と平和なので旅にでます。  作者: カリカリ・カリフラワー
3/4

リーベンスの村にて

それから元の馬車道へ戻り、朱色と農紺色に空が分かれ始めた頃、私たちはリーベンスの村ヘと到着した。もうヘトヘトだ、体のあちこちに擦り傷があるていどだけれど、命を狙われるということはこんなにも消耗するものなのか。


村の前で衛兵さんに身分証明をして村の中に入れさせてもらう。


「大丈夫?もうちょっとだから頑張って。」

ルルが励ましの言葉をかけてくる。


私よりも動きまわっていたはずなのに、ルルはちっとも疲れた様子がない。

(冒険者すごいな、私はこんなんで旅を続けられるのかな。)

これからの旅路を不安に思い弱気になってしまう。いかいかんしっかりしなければ!!

「この村は宿とギルドが一緒になってるから、とりあえず到着の報告してから今日はすぐ休めるよ。」

とルルが指さす先には


「火鼠亭&ギルド出張所」と看板を掲げたレンガ造りの建物が建っていた。


スイングドアを押して中に入ると、ガッシリした体つきをしたスキンヘッドの男の人が皿を拭いている。人が入ってきたのに気が付くと。


「いらっしゃい、宿かい?それとも依頼の報告かい?宿なら一晩10リル銀貨で依頼を受けるなら8リル銀貨になるぜ。」


拭いていた皿を置き、ニカッと笑う。なんかいかつい割に愛嬌がどことなくある宿屋の主人だな。


「その両方、依頼主はこっちのウサギ耳の子なんだけど、結構疲れてるみたいだから先に食事とお風呂をいただいていいかしら?部屋は一人部屋を二つお願い。」

ルルはこちらをちらりと見ると、宿や兼ギルド出張所の主人に答えた。

主人もこちらをちらりと見て、かわいそうな子を見る目をしている。


失敬な。


「あぁ~。そうだな、そんな姿じゃあなぁ、まぁそのなんだ。先に風呂に入ってこい。部屋は2階の階段を上って奥の2部屋を使ってくれていいし。料金は明日の朝払ってくれればいい。」

と壁にかけてあるカギを2つ取りカウンターに置いた。


「ありがとう。じゃあ行こうか。」

私に手招きをする。


ん~、この間、私何も話してなくないか?勝手に話は進んでますけど?と、言葉を発しようにももう移動を始めている。まぁ取り立てて文句を言うところもないんだけど、、慣れた冒険者とはこんな感じなのだろうか。


釈然としない気持ちを抱えつつルルの後を追って2階に上がると

「あたしこっちの部屋使わせてもらうから、荷物はあなたの部屋に置いておくね。」

と、ルルはテキパキと行動していく。

「荷物置いたら、一緒にお風呂行こうね。」

と言葉を残し自分の部屋に消えていった。


あっけにとられつつも自分の部屋の扉を開け荷物の中から洗面道具と着替えを取り出す。


ついでにリュックのチェックをしておこうと腰を下ろした。


仕事道具は私の命と同じだ。これらがあるから私は食べていけるのだし。食と湯舟はこれらから得られるのだ。


私のリュックは下部が木でできており幾つもの引き出しが付いている、そこに仕事道具や材料が入っていて、下の段から魔道工具、2段目に魔道工具のアタッチメント、3段目と4段目の材料と確認していく。それぞれを手に取り工具には不具合がないか、材料には混在や瓶の割れが無いかを確かめる。



「おお、材料がちょっと混ざっただけで他は全然大丈夫だわ。あんなに走ったり飛んだりしてたのにすごい。」ほぼ被害の無い仕事道具をしまいながら考える。

私が担いでいたら、被害はもっとひどかっただろうし、この村で依頼が受けられなくなってたかもしれない。ルルって結構凄腕の冒険者なのかもしれない。行動でその腕前の証明をするルルに驚いてしまう。


「父さんもおじぃも、言ってたな。やった仕事で自分の魔道技師としての価値と信用を積み重ねていくんだって。」


幼い時の記憶を思い出す。


まぁたまに無茶苦茶やっておばぁと母さんに怒られて、ぶん殴られてたけど。でも楽しそうに笑っていたことが多かった。

工具箱のカギを閉めてふちをなでていると、コンコンとドアをノックする音がした。


「準備できたー?リーナー?」と私を呼ぶ声がした、慌てて着替えと洗面用具を持ち扉を開ける。

「ちょっと道具のチェックしてた、待たせてごめん、ルルさん」

「ルルでいーってば。問題あった?」

「ううん、完璧だったよ。」

「そう?よかった、じゃあ行こうか。」

笑いながら先に進んでいく。本当にタフだな。


お風呂は2階の廊下から別の階段を下りて目の前にあった、扉を開けてスイッチを押すと魔吸殊が淡く光り更衣室に明りが灯る。

手早く服を脱ぎ洗面用具を持ち浴室に入ると暖かく湿度を含んだ空気が流れてくる。


キチンと整理されている浴室はとても気持ちがいいものだ。


ウキウキと気分も弾んでくる。

体を洗おうと椅子に腰かけ鏡をみて驚いた。

なんともひどい顔をしている。顔は汗を拭った時についたであろう泥か何かが頬についており、耳も少し触ると手が黒くなるくらいに汚れているし、髪の毛は汗と涙となにかでごわごわのぐちゃぐちゃになっている。これは服も相当小汚くなっているだろうなぁ。


なるほど、ルルも主もこちらをチラチラ見てくるわけだ。

身ぎれいなルルの隣にこんな姿の私が並んでいたら、宿の主もよっぽどひどい目に合ったと考えるのも頷ける。


まぁ実際にひどい目にあいましたけども、ええ遇いましたとも。


さっさと髪を洗い始めているルルを見て私もお湯を桶に溜めて頭からかぶる。


ザァッという音と共に頭のってっぺんから暖かさが全身を撫でていく。まるで体から緊張感や疲労感がじわっと浮き出てくる感じ。


ああ、いきかえるぅ~。


早速洗面用具から石鹸を取り出す、一つはさっぱりとした洗い心地のミントエキスを練りこんだ体を洗う用の石鹸と、二つ目はミカンより少し香りの強い柑橘系のエキスと皮を薄く切ったものが混ぜ込んである髪と耳を洗う用の石鹸で、二つ目の方は先日寄ったブルタルの町で購入したもの、使うのを心待ちにしていたのだ。もう一度お湯をかぶり石鹸を泡立てる、ふわっと石鹸の香りと泡が手のひらの中で広がっていき浴室を満たしていく。



「なんかいい匂いする~、いい石鹸だね。」

ルルは何の香りもついてない石鹸で髪も体も洗う様だ。


「使ってみる?私も初めての石鹸だから使い心地は保証できないけど。」

「良いの?ありがとう」


なんてまぶしい笑顔、金茶色の耳はピンと立ち、目がパッチリと開いて、口角が上がり喜びの表情が浮き出てくる。表情がパぁっと変わる。かわいい人だなぁ。


早速泡立てて二人で頭を洗いはじめた、わしゃわしゃと石鹸の泡が湧きつつ程よく消えていく、その都度柑橘類の香りがはじけて浴室に広がっていくみたい。耳も忘れずにしっかりと洗いざぶざぶとすすぐ。



うん、さっぱりとしつつ程よくしっとり感が髪に残っている、いい石鹸だ。ルルも満足そうに髪を触っている。満足してくれて何よりだ。

ミントの石鹸で顔を洗った後に、次は木綿のタオルを出す、このタオルは網の目のようになっていて程よく泡立ち肌も荒れない、探しに探して見つけた逸品である。

泡立ちもよくさっぱりと体を洗い終え、いよいよこの時が来た。ゆっくりと足から湯船に入り、膝、腰と浸かっていき。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

浴槽に体をいれるときは声が出る、もうこれは私にとって朝日が東から登り西に沈むのと変わらないのだ。言わば自然の摂理。


「リーナおやじ臭い~。」

ルルはけらけら笑いながら隣に入ってくる。


「これは仕方のないことなの。覆しがたいものなのよ」

「気持ちはとてもわかるけどね、ふぅいいお湯。」



疲労がゆっくりと溶け出すのを感じながら、二人でしばし目を細めながらお湯を堪能するのであった。







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