リーベンスの森とブレイウルフ達その2
そうこうしている内に大きな岩が見えてきた、言われた通り刺々しい岩で、回りにもそこそこ大きい石が落ちている。
、走る先に目をやると道しるべのように、走る先々の木に傷がついている。
「これに沿って走って行けってこと?」
走ってほしい方向があるのだろう、岩を右手に見ながら方向を徐々に変えていく、急に変えたらブレイウルフたちにインを刺されて追いつかれてしまう、いや本当にもう動けなくなる寸前なんですけど。
岩を背に左に方向転換したが、私が通った後をブレイウルフはまるで線をなぞるようにピタリと追っかけてくる、そろそろあきらめて欲しい。
と、そこでふと思う、なんでこいつらは着かず離れずを保っているのだろう、回り込むなり、一匹が飛び掛かるなりしては来ないのだろうか、そうなれば私はいともたやすく捕まってしまうだろうに。
ん?もしくはそうなるのを、待っている?
その考えに至り、今感じている汗の温度が急激に冷えていくのを感じた。そうか、もしかしたらこいつらは待っているんじゃないか? こいつらの仲間が私の行く手をふさぐか不意打ちをするのを。そんなことをされたら、冒険者でも何でもない商業ギルドの私にはなす術が無い。
ギッと奥歯を噛み締めて手足に力を込めて走る、焦りから思考が単純になってきているらしい
少しでも差が開けば、もしかしたら何とかかなるかもしれない、不意打ちや待ち伏せにも対応できるかもしれない。と、そう思ったのだ。
しかし、その思い付きはすぐさま覆る、それはそうだ奴らは私より早く長く走れる獣なのだ、こちらが速度を上げればあちらも早く走る。持久力に関しては言わずもがな。
涙が目じりに浮かんできたその時、
ボボンッ
という音が前方でなったかと思うと、ちょっとツーンとする臭いと共に濃い白い煙があっという間に私とブレイウルフたちを飲み込んでいった。
思わず立ち止まりそうになる中、決して立ち止まらず真っ直ぐ走れというルルの言葉を思い出す。これで奴らを捲こうというのだろうか。なら何でもっと早く使わないんだよ!!
と、思った瞬間煙が晴れ、眼下に広がる大森林。
崖ですやん。
止まらなきゃという思いとは裏腹に、動く足、その瞬間に感じる浮遊感、もう頭真っ白です、涙も引っ込みました、ありがとうございます。
頭の中に家族と今までの魔道具が浮かんできたその刹那、グンッと体が引っ張られる、浮遊感の代わりに感じる後ろへと引っ張られる力、そしてまた訪れる浮遊感、下を見ると私を追っかけていたブレイウルフ達が崖下へ落ちていっている、彼らも急には止まれなかったみたいだ。違うのは私は引っ張られ空に舞い上がり、奴らはそのまま自由落下を強制的されるところだろう。
ポスッという音と共に落下が止まる。生き延びた!という実感がわき出てくると同時に緊張感が抜けるとそれを表すかのように耳がしなしなと倒れてくる。私の耳は意外と正直なのだ。
「ちゃんと護衛したよー、ボーナス期待してるね」
後ろからウキウキとした声がする、どうやら子供を後ろから抱っこするように受け止めたらしい。
この受け止め方はないだろう。
後ろ抱っこされているので顔は見れないが、間違いなくキラキラしているであろう笑顔をして、私を抱えているルルに向かって私は。
「リーベンスの村に着くまでは護衛終わってないからね」
と、生還はできたが釈然としない気持ちを抱えるのであった。