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最終話。開かれた道は、新たな絆に。 パート1。

「はぁ。やっっっと出て来た!」

 いにしえの宝物庫を出た瞬間、そんな疲れ果てたようなナビーエが

 俺を出迎えた。

 ナビーエの声に空を見上げれば、うっすらと茜色に染まっていた。

 

 ここに入ったのが昼だった。

 ナビーエが、ここを出たのがいつごろなのかわからないけど、

 ナビーエのこの様子からして、よっぽど長いこと

 俺は後ろの建物にこもっていたらしい。

 そして、よっぽど長いこと。ナビーエは、待っててくれたみたいだ。

 

「待ってて、御者さん連れて来るから」

 言うとナビーエは、どこかへ走って行ってしまった。

 御者を連れて来る、つまり馬車を連れて来るってことだろうな。

 

「一応、俺の調子には配慮してくれてるんだな」

 ねぎらい一つもなしに走り去った幼馴染に、

 俺はナビーエらしいな、と微笑した。

 感謝の隙もありゃしなかったぜ。

 

「よし、ちょうどいい。今のうちに、

判定済ませちまおう」

 左のポケットには、かわることなく例の札が入っている。

 取り出して、札の色が黒いのを確認した。

 

 わりと激しく動き回ったのに、よく落ちなかったなと

 軽く感激さえ覚える。

 一つ頷く。

 

 そして、左手で下から札を包むように持って

 、右手で上から札を包むようにする。

 通常、札を机に置いてから、札を聞き手で抑えるようにして

 判定を始める。左手は机の代わりだ。

 

 こうしないと札の置き場がないから、かっこわりいけど

 この状態で判定する。

 準備を終えたところでゆっくりと息を吸う。

 そして。

 

「ふぅぅぅ……」

 静かに息を吐くのと同時に、札に意識を集中する。

 札が少しずつ熱を帯びて来た。この熱が収まれば判定完了。

 寒い時期にポケットに入れておけば、

 軽く暖を取れそうなぐらいの熱さになった。

 

 危うく熱さで手を放しそうになりながら、

 札を持ち続けること、更に少し。

 徐々に熱が収まって行き、そして完全に消えた。

 

「よし。さて、どうなったかな?」

 そーっと右手を離すと、札の色はかわらず

 茶色に近い白だった。

「変化なし」

 俺の口角は、勝手にニヤリと上がった。

 

 

***

 

 

「ねえビック。あの先、出た目によっては

わたしと同じく、落とし穴にしか止まれなくなる

と思ったけど。うまく行ったんだね」

「ディアーレからの手心のおかげで、落とし穴はなんとかな」

「そうなの?」

 

「ああ。根比べにギリギリで勝ったから、らしい。

その後、ゴールするまでがまーた大変でさ~」

 と、思わず愚痴ってしまった。

「いじわるなのね。根比べとやらでは、手心加えてくれたのに」

 

「そこはフィールドの管理者として、曲げられなかったみたいだぜ」

「複雑なんだねぇ」

「そうだな。なにやら、俺との根比べのおかげで、

ディアーレはなにかを掴んだみたいだ」

「ふぅん。ビック、そこまで意地になってたんだ」

 

「そりゃ、戦いたくないからな」

「そのためにいにしえの宝物庫に行ったんだもんね」

「そうだぜ……あれ? どうしたんだろ、馬車 止まったぞ?」

「ほんとだね。どうしたんだろ?」

 

 

「だ、誰だ。なんで馬車に掴まってるんだ?」

「馬車に」

「掴まってる?」

「ごめんごめん~、やっと追いついたからさ」

 

「おい、今の」

 驚いた俺に、

「うん。間違いなく。だよね」

 困ったように、呟くような感じで答えたナビーエ。

 

「ヤッホー、お二人さんっ】

 馬車の中に、入って来たのだ。

「「ディアーレっ!」」

 あの、女悪魔が。

 

 

「お前、いったいどうやって?!」

「いったでしょ」

 そう言い終わると、

「おわっ?」

 いきなりディアーレが、俺に抱き着いて来たのだ。

 

「あたしは、あの役割だけに囚われなくていいほどに

力がある。ってさ」

 露出の多い服で、それもほんとに服 鎧じゃないおかげで、

 やたらに柔らかな感触が、俺の前半身に押し付けられているっ。

 

 特に胸の辺りに、厚みがあるのに柔らかい

 って言う、不思議な感触が……。

 

「ち、ちょっと。なにしてるのっ?!」

「だってこの馬車。三人横に並ぶの、ちょっと狭いじゃない?

だ か ら。こうやって、縦に並んだの」

「なるほど」

「納得すんなビック! ほどこうとしなさいよっ!」

 

「やめろっ、むりにはがそうとするなっ!

椅子にむりやり押し付けられて苦しいっ!」

「そうだよカノジョちゃん。やきもちなんて、かわいいなぁ」

「んがああああっ!」

「がっっ! 骨が! 肋骨がきしんでるからやめろ!」

 

 

「アハハッ、やっぱあなたたち楽しいなぁ~」

「お前のせいで、俺はこんな苦しみを……!」

「まあまあ、そう怒らない」

「んぐぐぐ……ところでディアーレ」

「ん?」

 

「いったいお前、どうやってここにいるんだ?」

「どうやって? 簡単なことよ。宝物庫にもあたしはいる。

ここにいるあたしは、いわば分身みたいなもの。

自分の持ち場の状況は把握できるようにして、

お仕事する時には持ち場に帰る、そんな感じにしたの」

 

「なにそれっ、もうやってることのレベルが高すぎて、意味わかんない!」

「俺も同じく」

 呆然としている俺と、腹立ち紛れな言い方のナビーエ。

 そんな二人を見たディアーレは、自慢げにフフンと口角をゆるりと釣り上げた。

 

 

「で、さ。こういう場合ってさ、どうなるのかしら?」

「なんの話だ?」

 

「ほら。少年は、トレジャーギャモンを、

なにも取らずに生還することが、戦わない条件だったでしょ?」

「そうだぜ」

 

「でしょ? なら、よ。

こうして、ダンジョン内の存在がここにいる場合、

その存在。つまりあたしは、ダンジョンの取得物

って扱いになるんじゃないかしら?」

 

「どうなんだろうなぁ? そこはギルドに聞いてみねえことには、

どうにもなぁ。……ん?」

「どうしたのビック?」

「いや。この聞き方。まるで、俺に冒険者なり騎士なり、

やってほしいような聞き方だなぁ、って」

 

 

「そうよ」

 あっさりと、なんの余韻も溜めもなく、女悪魔は言い放った。

「……なんでだよ?」

 

「だって。少年が冒険者にならなかったら、

カノジョちゃんとのやりとり、見られなくなっちゃうじゃない。

あたし、それが楽しみでここにいるのに、二人の道が違っちゃったら

ここにいる意味ないでしょ?」

「お前……」

 

「だいじょぶだいじょぶ~。あたしも冒険者として同行するから、

少年はな~んにもしなくていいの。ね、『戦わない』で済むでしょ?」

「強引な話だなぁ、それ」

「あたしの道を切り開いてくれたんだから、それに報いたいのよ」

「急にまじめになるなよ、調子狂うだろ……」

 

 

「でも、たしかに強い人が同行してくれるんなら、

わたしもビックも安心だよね」

「おい、ナビーエ。なんだ、その物言いは?」

「フッフッフ」

 ディアーレの含み笑い……嫌な予感が。

 

「少年。多数決、って。知ってるわよね?」

「……お前。まさかそれを理由に、俺を冒険者にさせよう、

って言うんじゃないだろうな?」

 

「「あら、わかってるじゃない」」

「貴様らなぁ……!」

 俺の苦労をなんだと思ってるんだ、って意味をこめて、

 怒りをこめた声で応じる。

 

「カノジョちゃん、ギルドに交渉しましょう。あたしが戦利品です、って」

「うん、それいい。そうすれば、ビックは宝物庫から宝物たからものを持ち帰ったってことにできるもんね【」

「ナビーエ。トレジャーギャモン中の敵対は、

いったいなんだったんだよ……」

 

「利害の一致、って奴だよ」

「勝ち誇った顔、すんげーむかつくんだけど……」

 

「色欲悪魔。証拠として魔力を計って見てくれない?」

「証拠?」

 ずっと色欲悪魔って言われてんのに、

 そこについては、なんとも思ってないんだなディアーレ。

 

 サキュバスって俺の予測、当たってるんだろうか?

 言われてもあたりまえだから、別になんともないぜ、って感じで。

 

「うん。これだけのことをやれるんだから、きっとそうとう強い判定になるよ。

いにしえの宝物庫の物品は、みんな魔力がすごく強いって言われてるの」

「なるほど。あたしの強さが証拠になる、ってことね。

了解了解。ちょっと不安な作戦ではあるけど、

やらないよりましでしょう」

 

 俺を冒険者の依頼に同行させようとする理由が、

「あたしが戦闘はこなすから、少年は『戦わない』でいいわよ」

 なんて言う強引な論法の奴が、今のを不安がるなよな。

 

 

 それにしてもこいつら。

 どんどんと、俺が冒険者になることを確定させる方向に、

 話を進めてやがる。

 

 ーーほんとになんなんだ、この女子どもの団結は?

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