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第四話。意外な決着と最終関門。

「ぜぇ……ぜぇ……ちくしょう!

いい加減、攻め込まねえといけねえのに!

た……体力が! 体力ばっか削られやがる!」

 オニズリーの動きは把握した。

 

 が、逃げ回ってるうちに息が切れて、

 攻撃なんて、できたもんじゃねえ。

 

 そもそも攻撃したところで、俺の攻撃なんて通用するのか?

 ……やべえ。

 根本的なところに、疑問が沸いてきちまった。

 

 

『早くして! 動きが押さえつけられ続けるの、

体力ガリガリ削られるんだからっ!』

「むちゃ言うなバカーロー! お前と違って、

こっちはろくに戦えねえんだぞ! お前基準で考えるな!

って言うか叫ばせんな、また体力削られる!」

 

 疲れで滑舌悪くなりすぎて、

 バカヤローがバカーローになっちまったじゃねえか。

 ちきしょうオニズリーの野郎……!

 

『あっちゃー。口うまく回んないぐらい疲れちゃったかー。

ただ逃げ回ってるだけでこのざまは、流石に厳しいかなー?』

「このざまとか言うなよな、こっちは必死なんだぞ。さて」

 一つ、俺でもダメージを与えられるかもしれない手はある。

 

 相手の動きに、それこそプラクトみてえに

 法則性があることは、理解したからな。

 なら、突っ込むしかねえ……か。

 さっさとしねえと、ナビーエと共倒れだ。

 うっしゃ。次の大振りの隙に仕掛けるぞ!

 

 このディアーレ製オニズリー、敵を目に捉えると一度動きを止める。

 そして、

「いち。にい。さん。大振りだ」

 注意深く観察して得た情報から出たのが、この判断だ。

 

 攻撃にはいくつか種類があるが、そのうち一番振りの大きい奴は、

 三回数えたところで腕を後ろに引く。

 そして今まさに、腕を引いたところなのだ。

 

 ビョンッ! っと言う、低いのに鋭い音がした。

 このモンスター、間合いを調整すると言った知能はなく、

 相手を見つければ、その場で攻撃の構えに入ると言う、

 ほんとうに排除用に設置されたトラップなのか、

 と疑問に思う動きをするのだ。

 

 もしかしたら、これもディアーレのサービスの一つなんだろうか?

 それでも流石にオニズリー。

 その拳を振るった風圧が、少し俺の動きの始動を遅らせた。

 この風圧、子供ぐらいなら軽く吹っ飛ぶんじゃないだろうか?

 なんにしても、今が攻め時だ!

 

 

「オラアアアアッ!」

 声の勢いも借りて、地を全力で蹴り、

 奴に蹴りを放つべく右足を曲げる。

 

『うわ、えげつな』

 ディアーレの声だ、思わず出たって感じだろうか。

 なにがえげつないのか。

 それは、俺が攻撃を叩き込む場所だ。

 

 見事に命中!

 

 しかし、攻撃をした俺の側は、空中でバランスを崩してしまって、

「おあっ!」

 慌てて上半身を前に倒して、先に見えた物に掴まる。

 

『爪先で右目を蹴るわ、ついでにオニズリーの両方の角を、

一本ずつ、おもっきし掴わ。

少年。ほんとに戦い素人なの?』

「なに言ってんだ。今だって敵さんが、痛みで暴れ出すんじゃないかって、

戦々恐々としてんだぞっ!

 

『むりよ、その状態じゃ』

 諦めたかのような、かぶりを振ってそうなディアーレ。

「どういうことだ?」

 

『ただ目を蹴飛ばされただけなら、たしかに痛みで暴れるでしょうね。

けど、オニズリーの角は目や耳以上に重要な感覚機関でね。

押さえつけられると、暴れるより前に状況把握に専念しちゃうのよ』

「そうなのか?」

 

『ええ。それも二本とも掴まれちゃったら、

気絶したみたいにまったく動かなくなるの。

片方だけなら、目を動かすとか、耳が動くとかするんだけどね』

 

「なるほどなぁ、覚えておくわ。

それで……なんだけど、さ」

『なに、なんか不安そうだけど』

「いや、な。なんか、ちょっと、角がミシミシ言い出したんだけど。

どうしたらいいんだ、俺?」

 

『そうねぇ……』

 含み笑い。なんだ? いったい、なにを企んだ女悪魔?

『どうする? 目に加えて、

それ以上に主要な感覚器官を潰されたオニズリー、

なぶり殺しにしたいんなら、試合を続けるけど?』

 

「お前……どう答えるか、わかってて聞いてるだろ?」

『フフフ。バレちゃった~?』

「語尾に『ん』がついてそうだな、おい……オモシロイ奴だな、ほんと」

『つまり。あたしの予想が正しければ、あなたの勝利って形で

試合終了、ってことになるけど?』

 

 俺の皮肉を、まるで意にも介さねえ。図太すぎるな、こいつ。

「あくまで答えは、俺の口から言わせるつもりだな?」

 

『あくまであたしは進行役。プレイヤーの行動を推察して、

勝手にゲームを動かすことは、許されてないの。

それが契約だし、ここは賊を排除するための仕掛けよ。

賊にそこまでの配慮なんてしちゃったら、ここの存在意義が問われるじゃない』

 

「今更な気がするけどな、それ」

 

『サービス満点にした覚えはないけれど?

オニズリーの攻撃をさけきったのは、あなたの力だもの。

たしかにちょっと強さに手は加えたけど、

動きに生きてる感じが薄いのは、あたしの力の限界点。

 

このトレジャーギャモンってフィールドを、

出現 維持しながら、モンスターを完全に際限するだなんて

あたしじゃむりよ』

「ちょっとちょっと、自分の力量を自慢するのなんなんだよ?」

 

『あら、カノジョちゃんとおんなじこと、まったく同時に言ったわよ。

ほんと、仲いいわねぇ』

「幼馴染だからな。考えも似るんだろうぜ」

『ふぅん。カノジョちゃんの方は、そーんな理由じゃ

なさそうだけどねー』

 

 と、言ったところで、いよいよ角の軋み音がビシビシ言い出した。

 これ、もうすぐ砕けるんじゃないのか?

『あら。もう限界みたいね。はい、少年。改めて答えて。

試合を続けるか。続けないか』

 

「続けない。いくら作り出された物とはいえ、

俺になぶり殺して楽しむ趣味はねえからな」

 

『はい、了解。解答いただきました~。

ってことで、おめでとう少年。このバトルマス、突破よ。

オニズリーを消すから、そのまま動かないで。

下手に動くと怪我するから』

 直後。スーっと、オニズリーの姿が、その形を薄れさせ始めた。

 

 手元が心もとなくなったなー、と思ったら、

 俺はまるで、最初から中空に立たされてたかのように

 動けないまま落下。ガクンっと体を曲げることになってしまった。

「……、膝が折れるかと思ったぞ!」

 

 『ちょっとびっくりしただけでしょ、おおげさなんだからー』と、

 ディアーレは、そう楽しそうな声で言った。

 ーーさっきの話。どこまでがほんとなんだか、怪しいもんだぜ。

 けどま、無事に突破できたんだし、よしとするか。

 

 

***

 

 

「ようやく動ける~!」

 赤いマスに乗って下の階に戻ったら、

 二人からお疲れ様のひとことの直後に、

 加重魔法を喰らってしまい、即刻ナビーエの手番になった。

 

 なので、俺は一息つく暇もなく、

 強制的に押さえつけられる羽目になっている。

 

「カノジョちゃんの出目は5。あっちゃぁーっ、

出た目は多かったけどなぁ」

 ディアーレは、本当に気の毒そうな表情と声色だ。

 お宝がもらえる青マスを、お得と言ってる時点で

 公平性は怪しいもんだけど、ここまで入れ込むかね進行役さん?

 

 で、どうしてそんな反応なのかと言えば。

「黒いマスしか、とまれる場所がない」

 と言うわけだ。

 ナビーエは、ぽっかりと口を開けた黒いマスに身構えている。

 

 ディアーレの反応からすると、ひょっとしたら

 黒マスは落とし穴かもしれないな。

 

「くっ……! せめて、ビックだけでも無事ゴールしてね」

 まるで、落とし穴であることを、知ってるかのような言い様だな。

 覚悟を決めたらしく、腰を沈めたナビーエは、

「たぁっ!」

 一っ跳びで黒マスへと飛び込んで行ってしまった。

 

「なんつう思い切りの良さだ」

「ほんとね……驚いたわ。なにはともあれ、カノジョちゃん、お宝没収~。」

 地面より更に深いところで、「あっ!」って短い悲鳴が聞こえた。

 その直後、ナビーエが踏んだ黒マスが、

 灰色のマスが横からせり出すことで塞がった。

 

「出口はそのまんま、元来た方だからね~。

上と同じ魔法で光があるから、行き先は見えるでしょ?」

 小さく靴音が聞こえる、どうやら動き出したみたいだ。

 ただ、なんだか足運びがゆっくりだな。

 

 

「加重開放~」

「ふぅ、軽くなったぜ」

「もうあたしと二人だけだから、重みに苦しむことはないわよ。

安心して」

「あ、そっか。俺しかフィールドにはいないんだもんな」

 

「ええ。じゃ、さっさと振るわね。カノジョちゃん待たせちゃ悪いでしょ?」

「幼馴染だけどな」

「頑ななんだから」

 またも色気のある微笑で言うと、「よっ」って言う掛け声で

 ダイスを放り投げた。

 

「お、6が出たわよ。っと、あらら。

こりゃ、運命は決まっちゃったわねぇ」

「どういうことだ?」

「はいルート確認してみて~」

「なんでそんな楽しそうなんだよ」

 

 言われた通り、六歩移動できる範囲を確認する。

「……なるほど。たしかに、いやがらせのように

移動先に落とし穴マスだな」

「あれ? なんで目に闘志が宿ってるの?」

 

「たとえ到達先が落とし穴しかなかろうと。

俺は、戦わない権利を手にして見せる!」

「……本気? でも、面白いじゃない。

いったいどうやって、落とし穴マスを突破するのか、

見せてもらうわよ。少年」

 

 

 

 そうして俺達は、お互いに挑戦的な笑みを向け合うのだった。

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