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第二話。悪魔の力が無駄遣い。そして進行ルートに悩む俺。

「で、始める前に。手番、どうする?」

 ナビーエに問われて、

「俺が先だ。さっさと終わらせて帰る」

 と、かぶり気味に答えた。

 

「だと思った」

 呆れた調子でナビーエ。

「焦らない焦らない。少年、焦るとこけるわよ。

じゃ、手番も決まったことだし」

 そう言うと、ディアーレはシルクハットを脱いだ。

 

「お、なにするんだ?」

「ゲーム、スタート」

 帽子の隙間とでも言おうか。

 かぶった時に、頭が入らない部分に手を突っ込んだディアーレ。

 中からは、一つのダイスと一つの丸い板……みたいな物が出てきた。

 

「なんだ、それ?」

「呪いのアイテム~」

「ずいぶん楽しそうね」

「で、そいつをどうするんだ?」

 

「こうするの」

 「よっ」って力の入った声と同時に、持ってたダイスを上へ放り投げた。

 

「なんだ? このゴローンゴローンみたいな音?」

「おこさまは知らないかしらね、ルーレットをする時に回す物。

っとー出ました~。ふむふむ、数字は4っと。

ってことは配置パターンはナンバー(フォー)ね、オッケー」

 なにやら楽しそうだ。常に楽しそうだけど。

 

「はい、ダイスの目も出たわ。2かー、少年。

幸先悪いかもしれないわねー」

「ぐ、な。なんて、重み……体がろくに動かせないっ!」

 

「言ったでしょ、それが唯一の制限だ、って。

手番じゃない人は、他の人の手番に手出しできないように、

加重魔法で動きを制限させてもらってるのよ」

「て、てってい、してる、のね。けど、加重魔法、だなんて高等な物を、

たかが遊びに使うなんて」

 

「役割には手を抜かない。それがあたしの誇りだからね。

トレジャーギャモン、ようはダイスギャモンだけど、

ルールはわかる?」

「今更聞くのかよ?!」

「ええ、わかるわ。小さいころにちょっとは遊んだことあるからね」

 

 

「だな。えっと、目は2だったな?」

「ええ。安心して、特殊マスは色で判別できるようになってるわ。

問題は出た目って制限の中で、いかにしてトラブルをさけるか、

だからねー」

「危機感を煽ってるつもりか?」

 

「今はその軽口、危機感を煽ってるより、

ただいらだちを、助長してる、だけよ。

そんな態度なのに、実力が無暗に高いのが、余計ね」

 なんとか動こうと、微妙に体をクネクネしようとしながら

 ナビーエが悪態をつく。

 

 フッフッフーと、意味ありげに笑うだけのディアーレに、

 ぐぐぐっと、いらだちを更に募らせてる様子のナビーエ。

 そんな二人を横目に、俺は移動にかかった。

「とりあえず直進だな。いち、にい、っと」

 

「少年、手番チェンジ。対加重姿勢っ! なんてね」

 クスっと微笑しながら言った直後、

「ぐああっっ! こ、これが。加重魔法の威力か……っ!

体が、重い。

むりやり、、押さえつけられてる、感じだ……っ!」

 

 く、そ。体が、ギシギシ、言って、やがる、っ!

 こんな、中でっ、ナビーエはっ、動いてたのかっ!

 

 

「お、おおっ! 動くっ、体が動くっ!」

 「イイイヤッホオオオウ!」っと、喜びの垂直ジャンプのナビーエ。

 流石の元気ありあまり娘である。

「うわ~あ!」

 そのまま、勢いで前に飛び出そうとしたナビーエ。

 

 なにかに弾き返されたらしく、勢いがすごすぎて

 前後にバヨンバヨン跳ね返りまくっている。

 

「だめよカノジョちゃんルールは守らなきゃ。

ってことで、ダイスの目が出るより先にマスを飛び出すと、

結界魔法によってこうなります」

「そーゆーことは先に言いなさいよー! あぎゃっ」

 

 すごい声と同時に、地面に勢いよく尻餅をついて、

 ナビーエの跳ね返りまくりは止まった。

 

「いったったぁ。あ、あんたも、気を付けなさい、ビック」

「あえてバカやってやったんだぞ、みたいな顔しても、

素の反応見てる俺から言わせてもらえば、

言い訳にしか聞こえねえぞ」

 

「そこは素直に、わかりました、で納める!」

 恥ずかしさにだろう、顔を赤くしながらそう言って、

 ナビーエは立ち上がって、服の埃をはたき落とした。

 

 

「ん~ん、この感じ。ほんと、君たち楽しい。それっと」

 今回は、なにげない動作でダイスを放り投げた。

 それは、

 カッッ カッカッ コロコロコロ

 っと言う、なんとも小気味いい音でルーレットの上で転がった。

 

「出た目は4。可もなく不可もなく、かな?」

「いちいち、出た目の評価するんじゃないわよ。

それじゃあ、わたしもひたすら真っ直ぐ行こうっと」

 

 「まったく。結界魔法なんて、

 わたしじゃ使えないレベルの魔法を軽々と」

 なんぞと愚痴りながら、マスを歩いて進むナビーエ。

 足を踏み出す勢いに、いらだちがドッカリと乗っている。

 よっぽど悔しいらしいな。

 

 俺には、ナビーエとディアーレの魔法の技術レベルに、

 どの程度の差があるのかわからない。

 俺が磨いてたのは、プラクトの腕だけだからな。

 

「はい次、少年のターンね。いくわよカノジョちゃん」

「だから彼女なんかj」

「どーん!」

「っがっっ! バッカ! 息 詰まるでしょタイミング考えなさいっ!」

 

「大丈夫大丈夫、マスの仕掛け以外じゃ、人は殺さないから。

あたしの目には、お客さんの強さがわかる魔法がかかっててねー。

分析の魔眼とでも呼びましょうか?」

「ああそうですか、すごいですね」

 

「どーもどーも。じゃ、次。少年のダイス振るわね」

 ディアーレ、ナビーエの嫌味にまったく動じてねえな。

 見事な聞き流しっぷりだぜ。

「ほいさっ!」

「変な掛け声だな、今回は」

 

「ダイスロールの台詞、いつもいっしょじゃ面白くないじゃない。

これも、お客さんを楽しませる味付けよ。はいー出ました、

今回は3ね。調子悪いねー少年、呪われてるのかしら? ウフフ」

「ウフフって……洒落にならないんだが……

ここにいるのもある意味じゃ、呪いみたいなもんだし」

 

「はいどうぞ、加重開放ー」

「話には反応ないのかよ? って、おお!

スイスイ体が動くぞ!」

 喜び勇んで真っ直ぐ三歩。

 そんなこんなと、俺達はゲームを進めていった。

 

 

***

 

 

「こ……これは……」

 だいたい、盤面の中央ちょっと先辺りまで進んだ。

 俺が進むのを考えなければならなくなったのは、ここが初めてだ。

 出た目は5。進む数は、絶対に出た目の数じゃなきゃならない。

 そして、進んだ先に青いマスが三つと、赤いマスが二つ。

 

 これまでの状況で、青マスはなにかしらの宝物たからもので、

 赤マスがトラブルマス、ってことがわかってる。

 困ったことに、ナビーエが既に一つ青マスを踏んでいる。

 つまり、宝物ほうもつを入手している状態だ。

 

 これは、俺としてはまずいのである。なぜなら俺の目的は、

 なにも取らずに、この盤面のゴールに辿り着くことだからだ。

 

 

 ようするに、だ。

 心苦しい話なんだけど、ナビーエには落とし穴で

 盤面から退場してもらわなきゃならない。

 

 もしかすると、俺だけが手ぶらであればいいのかもしれない。

 けど、細かいところまで言及できる状況でもなかったし、

 考える余裕がその時の俺の頭になかった。

 だから二人とも手ぶらで落ちずに、ゴールするつもりでいたんだけど、

 状況的にそれが無理になった。

 

 なら、俺だけが手ぶらで落ちずにゴールすることを、

 達成の最低条件だと考えることにした。

 そうじゃなかったら、もう絶望しかなくなっちまうからだ。

 

 

「さーて、どうするかなー?」

 楽しそうなニヤニヤ笑いを浮かべながら、

 こちらを見て来るディアーレ。

 その顔が、だんだん腹立たしく感じて来たぞ。

 

 ナビーエは、俺より少し先まで進んでいる。

 あっちは、一回トラブルマスに入った。

 その内容はモンスターとのバトルだったけど、

 危なげなく撃破して戻って来た。

 曰く、動きが重くて、よけるのは簡単だったとのこと。

 

 その無傷っぷりに驚いてたのは、俺よりもむしろディアーレだった。

 俺が驚いてたのは、ナビーエの無傷より

 この建物に上階があったことだからな。

 

 なーんかナビーエの奴、俺も赤マス踏んでも楽勝だろみたいな

 謎の頷きをしてたんだけど、冗談だろ。

 プラクトの修行に余念がなかった俺に、

 実戦闘を軽々こなせるような、身体能力があると思ってんのか?

 頭でわかったとしても、体が動かんわ!

 

 

 面白い仕掛けだなと思ったのは、バトルマスを踏んだ時だ。

 赤マスを踏むと、マスが上階までスーっと動いてそこで戦うことになる。

 戦闘が終わると、手番の人間を乗せたマスが戻って来る。

 

 

「でも少年。青マス三つに赤マス二つだよ、行く先には。

お得しかないじゃない?」

「まて、話しかけないでくれ。進むルートを考えないとまずい」

 

「だから、青が三つあるんだから、

そこ踏むしかないんじゃない? 違うの?」

「だから話しかける奈ってのに。違う」

 声をかけられ続けては、無視するわけにもいかない。

 ので、しょうがなく答えた。

 

 こっちの話を、無視してやがって納得いかねえけど。

 

 

「あら、そうなの?」

 しかたない。とりあえず、こいつの相手をしよう。

 ルートを考えるのはその後でもいい。

「俺は。なに一つ、ここから宝物ほうもつを取ることなく、

そして、落ちずにゴールしなきゃならないんだ」

 

「……君、なんのためにここに来たの?」

 初めて、ディアーレの声と表情に少し。

 少しだけ、腹立たしげな色が宿った。

 だが、俺は毅然と答えた。

 

 

「俺は。戦わないためにここに来た」

 

 

「……え?」

「今言った条件を満たして、ここを出ない限り、

俺は冒険者なり騎士団なり、そう言う

戦いを常とする中に、身を置かなきゃいけないんだ」

「それがいやだから、ここに来た……の?」

 

「そうだ。俺がプラクト優勝者の得点を拒否するためには、

ここからなにも得ずに帰るしかない。

ダイスギャモンで宝物たからものの番人をしてるあんたには、

複雑な客だろうがな」

 

「あ……ああ。そう……なんだ……」

 呆けた顔で、そう呟いたディアーレ。

 よっぽどショックだったんだろうな。

 

 

 ーーと、思ったら。

 

 

「アハハハハ!」

「え?」

 笑い始めやがったよ。

 

「なにそれ! 戦いたくないからここに来た? 宝はいらないけど

しょうがないからここに来た? ゴールだけがほしい?

歩いてこのフィールドを渡り切ったって言うためだけに、

この宝物庫を使う」

 笑い交じりに、俺の言葉を分析するディアーレ。

 

「誰も見てないのに、クソマジメにここを報酬なしにわたり切ろうなんて、

そんなの初めてよ。あー! あああ! お腹痛い! お腹痛いっ!!

助けてお腹釣る! 笑い死んじゃうっっ!」

「そ……そこまでか?」

 あまりにも楽しそうな大笑いで、呟き疑問声になっちまった。

 

「たしかに、前代未聞でしょうからね。

ただなにもなく、本当になにもなく、

ここを渡り切りたがる人なんて。

 

宝物庫よここ、それもいにしえの宝物庫。

そりゃ番人大笑いでしょう」

 

「俺も、おかしな条件だな、とは思うけどよ。

ここまで大笑いされるとは思わねえだろ……

まだ笑い続けてるし」

 さて、笑い転げまわってる美女悪魔はさておいて、

 

 進行ルートを考えよう。ようやくだ、ようやく

思考が本題に向くぜ。

 

 

 青が、正面の四歩目に一つと、正面三歩の左右に一つずつ。

 赤は、左右青の一つ先。正面の五歩先には黒いマス。

 黒マスが、どんなトラブルマスかはわからない。

 けど、白 青 赤以外の不明マスは、踏まないに限る。

 

 となると……よし、道は決まった。

 ただ、問題は踏み終えた先。

 モンスターに勝った後、更なる先がどうなってるのかを考えたい。

 とは言うものの現状、そこまでの先は見えない。

 

 見たいが、出た目より先は少しぼやけてて、

 地面に視線をやると、最早闇。

 くっ、出た目の先は移動先から見ろってことか。

 これまでは、マスの色配置に余裕あったから

 気にしてなかったぜ。

 

 ほんとに、全力で人間を独楽にしたギャモンを

 やらせてやがったんだな。

 

 

「よし。進むぞ」

 左の赤マスに向かって、俺は歩を進める。

 

 ーー戦いに気持ちを固めないとな。

 怖がってたら余計に動けない。

 

 ーー試合だ。プラクトの試合だと思え。

 プラクトだけど、相手は実態を持った奴で、

 俺がその相手をするだけだ。

 試合だ。試合だ。しあ……

 

 

 やっぱりこえー!

 

 

 だが、赤マスを踏むのは、今の俺の定め。

 踏むしかねえっ!

 

「はーい、バトルマス到着ー。少年、いってらっしゃーい」

 楽しそうな声の直後、一瞬の浮遊感。

「逝ッテキマアアアス!!」

 

 

 恐怖を誤魔化すため、俺は全力でおたけんだ。

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