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第一話。のっぴきならずにダンジョンへ。 パート2。

「なんだ、このけだるさ……!」

「いきなり、なに? これ?」

 どうやら、ナビーエも同じ状態になってるらしい。

 

「っ?」

「明かりがついた?」

 息を飲む俺と、言葉にしたナビーエ。

 驚く俺達に答えるように空間に声が響いた。

 

 

『三代目プロギャム王の遊び心がたっぷり。

希なしかけの宝物庫へようこそ、盗賊の皆さん。

まず第一歩として明かり確保のため、

あなた方の魔力を利用させていただきました』

 

 声色としては女のそれだ。おどけたような、それでいて妙な色気のある声。

 

「どこだ?」

「小馬鹿にしたような喋り方、んむかっと来るなぁ。

出て来なさい!」

 『はいはーい』と言う声と同時に、すーっと姿が現れた。

 その場所は、おそらくだけど空間の中央。

 

 たしかシルクハットとかって言う、ひっくり返したら

 物が入れられそうな形の帽子をかぶった、

 肌の露出が妙に多い服の、黒い羽の生えた女だ。

 

 雰囲気の色気を加味すると、おそらくはサキュバスって奴か。

 その存在は、話には聞いたことがある。

 

 

「あたしは、この遊びを仕切ってる悪魔、ディアーレよ。

よろしく、お二人さん」

 そう言って女、ディアーレはパチリとウィンクする。

 

「こら、見とれない!」

 

「ぐあっ! お前、俺が身体ろくに鍛えてないの忘れてるだろ!」

 右のあばら骨を殴られて、顔をしかめた俺に、

「こんぐらいやんないと、正気に戻んないでしょ」

 と、そっけなく

 しかしあっさりと言ってのけやがった。

 

 ディアーレは俺達を見て、楽し気に微笑んでいる。

 

 

「じゃ、この遊び。トレジャーギャモンのルール、

説明しようかしら」

 常に楽しげな調子を崩さず、ディアーレはルールを語り始めた。

 

「今、あなたたちがいるところより少し先が、

縦横たてよこ30のマスに区切られた、盤面になっててね。

それがトレジャーギャモンの舞台、フィールドになるわ」

 視線を地面にやると、たしかに。

 

少し先から、だいたい俺が一人と半分ぐらい入れそうな

 四角い仕切りがある。

 

 

「いったいどの辺が遊びなんだ? どこにも遊びの要素見えないけど」

「そ、ゲームを始めなければ、

ここにどんな遊び要素があるのかはわからない。

でも、一歩足を踏み入れれば、あたしの領域。

支配呪賽ドミネイト・ダイスの呪いを受けることになるの」

 

「呪いだって?」

「遊びと呪いって、噛みあわないんじゃない?」

 ナビーエが、かみつくように問いかけてる。

 なんだか、妙に攻撃的だな。

 

「いいえ。ここは遊び場で、呪いはなくちゃ成り立たないの。

だって、自由に動かれちゃったら

フィールドを作った意味がないでしょ?」

 攻撃的なナビーエにもまったく動じず、ディアーレは変わらない調子だ。

 

 悪魔ってのは、こんなに余裕のある連中なのか?

 それとも。俺達が、態度を崩すに値する力を持ってないってことか?

 

 どっちにしても、このディアーレって女悪魔は、

 底が知れないぜ。

 

 

「あたしの呪いは行動の制限。ゲームが始まったら、あなたたちは

あたしの振る支配呪賽ドミネイト・ダイスの出た目の数だけ、

マスを移動できる。

 

逆を言えば、たとえ移動先にどんな罠があろうとも、

出た目の数の歩数だけ、マスを動かなくっちゃいけなくなる。

これが、このフィールド最大にして唯一の制限よ」

 

「罠って、たとえば落とし穴とかか?」

「それもあるわね」

「なるほど。所属拒否の条件の意味が、

これではっきりわかったぜ」

 

「他には、無条件に宝物ほうもつを手に入れられるマスがあったり、

ひょっとしたら、モンスターと戦うことになるかもしれない。

 

遊びって称するのは、なにが起きるかわからないって

ドキドキがあるからなの。どう?

面白そうじゃない?」

 

 実に楽しそうに説明するディアーレ。

 なるほど、たしかに遊びって言うだけのことはある。

 

 

「落ちずにゴールしろ、か。で、始めるのはいいとして、

ゴールって言うのはどこにあるんだ?」

「君から見て真っ正面。29マス先の地点にあるわ。

そこまで無事に辿り着ければ、お宝は君の物。

 

穴に落ちたり、モンスターと戦って敗北、

死んだらお手柄はなにもなし」

「あっさり、戦いだの死ぬだの言ってくれるぜ」

 

「穴に落ちたら奈落の底まで真っ逆さま、

なんてことはないでしょうね?」

 ぼやいた俺を無視し、相変わらず険悪な空気を纏ったナビーエが

 ディアーレに聞いている。

 

「大丈夫よ、心配しないで。

ただ、手に入れたお宝を没収されちゃうだけだから。

生死がかかってる、のは、モンスターとの戦いの結果だけ」

 

「なんで今、生死がかかってる、を

妙にねっとり言ったんだ?」

「追及すんなバカ!」

 

「かはっっ! おまえ、今度は横っ腹かよ……っ!

死ぬぞこのままだと。

って、なんで顔真っ赤になってんだ?」

「しらないよっもうっ」

 

「アハハハッ。カノジョちゃん、かわいいんだー」

「かっかかかかのじょっ!? そっそそっ

そんなんじゃないったらっなにいってるのよっ

このっ色欲悪魔っ!」

 ものすごい勢いでまくしたてた。なにを動揺してんだ?

 

「やめてよ、もう分かり易すぎてお腹よじれる、アハハハハ!」

「大笑いしてやがる……なんなんだ、こいつら?」

 

 

***

 

 

「手番はどっちからにしてもいいわよ、好きにして」

 一頻り笑った後。息を整えたディアーレが、そう説明の続きを言った。

 どうやら動くのは順番らしい。

「ウィンクすんじゃないっ。んもういちいちスケベったらしいんだからぁ!」

 

「どこがだ?」

「いちいちつっかからないっ。さっさと始めるよビック!」

「え、あ、はい。かしこまりました……」

 

「あぁもぅ君たち楽しいなぁ。

痴話げんかしながらギャモン始める人なんて、そういないわよ」

「また大笑いしてんなぁ」

「痴話げんかじゃないわよっもうっ

赤面殺すつもりか、この色欲悪魔はっ!」

 

「フフフ、ごめんなさい」

 また挑発的に言うと、

 

「さあどうぞ、一歩先へ。

トレジャーギャモン、得るかなくすか持ち越すか。

命を賭した宝物ほうもつ漁り。じーっくり、楽しんで行ってね」

 そう、まるでプラクト大会の実況者みたいに、

 おおげさに言って、最後にまた一つウィンクのディアーレ。

 

 

 

 彼女の言葉に促されるように、俺とナビーエは

 四角い地面の上へと足を踏み込んだ。

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