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第一話。のっぴきならずにダンジョンへ。 パート1。

「んーんーんー」

「ウッキウキだな、ナビーエ」

 ダンジョンに行けるとあって、幼馴染はこの話が動き始めてからご機嫌で、

 今朝は、いつにも増して楽しそうだった。今もそうだしな。

 小躍りしてるように、楽しげに肩がぴょこぴょこ上下してたほどだ。

 

 首までの黒に近い赤い髪、濃い紫の瞳で、

 濃い青の軽鎧を着ている今のナビーエは、

 色が濃すぎて、全体的に黒っぽく見える。

 

 俺に、一人で行かせるのが心配だから、

 って付いて来たけど、絶対こいつ特殊ダンジョンに行きたいだけだ。

 今の態度が、如実に物語ってるからな。

 まったくなぁ。ありがたいんだけど、もうちょっと

 心配するそぶりぐらい、見せてくれてもいいだろうに。

 

 

 俺ビック・リシターと、幼馴染の少女ナビーエ・フォン・ギッツァーは、

 現在馬車に揺られて目的地、いにしえの宝物庫と呼ばれる

 特殊なダンジョンに向かっている。

 

 どうしてこんなことになったのか。

 それは一週間ほど前。

 俺がプラクトの大会で、優勝したことがきっかけだ。

 

 俺達の暮らす世界では、様々な魔法を駆使して作られた

 趣味と実益を兼ねた戦術指南が、プラクトと呼ばれる娯楽として

 広まっている。

 

 プラクトの大会で成績を残せば、冒険者や騎士団など

 命を賭ける職業を始める時に、

 入団テストをしなくて済む、って言う恩恵を得られるんだ。

 

 この二択の理由は、冒険者ギルドが騎士団の下部組織のような扱いで、

 国の援助を受けて運営されてるから、らしい。

 騎士団は冒険者に比べて、収入がいいかわりに自由が利かず、

 冒険者は騎士団に比べると、収入は悪い代わりに自由が利く、

 そういう違いがあるそうだ。

 

 俺はプラクトを、あくまでも娯楽として楽しんでいるだけで、

 実際に戦うつもりは微塵もない。

 

 

 だって、怖いじゃないか。

 

 

「優勝得点を拒否する人間ぐらい、一人や二人いてもいいだろうに。

なんで拒否に条件が必要なんだよ」

 得点と言いつつ、優勝してしまうと、その手の組織に所属することを、

 衆人環視の前で、承諾しなきゃならない。

 

 そう知ったのは表彰式の時で。

 剣を掲げた、鎧の紋章入りのトロフィーを受け取る際に、

 当然のように、確定時効として問いかけられたからだった。

 

 この世界では、自分で金を稼いでもいい最低年齢が13歳。

 俺はそれより三つほど年齢が上のため、

 優勝得点を言い渡したんだろう。

 

 優勝賞金もあるけど、それはトロフィーを受け取らなければ

 もらうことはできない、ってこともその時知った。

 俺は実力を試すためと、賞金目当てに大会に出てたから、

 大会情報を見落としてた、可能性はあるけどな……。

 

 

 で、所属の拒否をトロフィーを受け取らないことと同時に伝えたところ、

 ざわつく周囲と同じく、動揺した主催者が、それならばと

 付きつけて来た条件が俺達の現状に繋がっている。

 その条件とは。

 古の宝物庫から、宝物を持ち帰らずに、落ちることなく生還すること。

 

 どういう意味なのか、今の俺にはわからない。

 けど、この条件を聞いて直感した。

 なかなかに、難易度が高そうだと

 

 

 今日ギルドから出る時に、条件を達成したかどうかの判定のためにと、

 冒険者ギルドや騎士団で使われる、魔力の強さを判定する黒い札を渡された。

 これは魔力を通すことで、その強さによって

 札の色がかわると言うしろものだ。

 

 なんでも、いにしえの宝物庫のお宝は、

 持ってるだけで魔力が強まるんだそうだ。

 だから試験を終えて宝物庫を出たところで、

 判定を行ってくれと言われている。

 

 俺の魔力の強さを、いにしえの宝物庫から出た時との

 比較対象として、ギルドを出る前に一度判定してあるから、

 こう言われたわけである。

 

 判定結果は、俺がまともな鍛錬をしてなかったせいだろう、

 茶色に近い白。下の下の、その中での上と言う、

 苦笑いされるような結果だった。

 

 色は、白 茶 銀 金 虹、の五段階で、

 それぞれ、次段階に近づくに従って、色が変わって行く。

 

 ちなみにナビーエは、銀に近い茶色らしい。

 彼女の目標段階は、最高ランクの虹なんだそうだ。

 目標、流石に高すぎやしないか?

 

 たしか虹って、人類中探しても

 両手の指で、足りるか余るかってぐらい

 該当者いないって話だぞ。

 ギルドマスターだって、記録でしか見たことないって言うし。

 

 

 しかし、俺とはえらい差だよな、ナビーエ。

 プラクトを使わず、純粋な肉体の鍛錬を経て

 冒険者を目指すナビーエだから、

 魔力の鍛錬、魔法の特訓もしてるのかもしれない。

 

 冒険者の開始目標が、どのランクなのかわかんないが、

 あんまりスタート地点高くしすぎると、

 冒険者やる前におっちぬぞ。大丈夫なのか、その辺。

 

「いつまでむっとしてるのビック。もう決まったことなんだから

諦めなさいよ」

 幼馴染に、諭すように肩を叩かれる。

 しかし、俺は納得していない。

 

 ちなみに今乗っている馬車は、主催者のギルドが手配した物。

 それも無料だ。よっぽど、例外を許したくないらしい。

 っと、その馬車がゆっくりと速度を落とし始めた。

 

 そろそろ、らしい。

 

 

「到着しましたよ」

 御者が扉を開けて、俺達に告げて来た。

「ヤッホーウ!」

 聞くや否やナビーエは、なにも聞かずに飛び出した。

 

 馬車の細かい揺れに合わせるように、体を小刻みに動かしてたほどだ。

 よっぽど、動けない状況が耐えられなかったみたいだな。

 

「元気がいいですね」

「まったくだぜ」

 元気いっぱいの幼馴染と、まったく逆の俺の様子に、

 御者は、なんとも言えない笑いを浮かべている。

 

 重い腰を上げ、俺も馬車を下りた。

 昼だって言うのに、少し薄暗い。

 目の前に聳える建物のせいだろうな。

 

 スカっと晴れた空から降り注ぐ、

 いやみなほど、まぶしい太陽の光を軽減できて、

 気は相変わらず重たいものの、天の恵みに

 腹を建てなくて済んで、よかったと思ってる。

 

 天の恵みに腹を立てたら、天から神の怒りが落ちて来る。

 そんな話を、よく聞かされたからな。

 具体的にどんなことなのかは言われてないけど、

 神の怒りが落ちて来る、なんて言われたら

 恐ろしく感じるのは当然だろう。

 

 

「ここが古の宝物庫か。なんか、遺跡みたいな感じだな」

「遺跡で宝物庫。わくわくするよねっ!」

「お前、冒険者より冒険家に向いてるんじゃないのか?」

「冒険者のついでに冒険家すればいいんだから、

わたしはやっぱり冒険者なんだよ!」

 

「揺るぎない奴だなぁ」

 始まる前から、ゲッソリしている俺である。

 

「では、わたしは馬を繋げてきますので」

 そう言って御者は、どこかに馬車をゆるりと走らせて行ってしまった。

 

 

「たしか、ここに踏み込むと。おお、勝手に扉が開いたぞ」

「すっごいよね、これ。他じゃ見られないんじゃないかなっ」

「楽しそうでなによりです」

「もうビック、腹くくれってば。

もう、古の宝物庫に入るんだよ」

 

「わかったよ。落ちるってのがなにかはわかんねえけど、

それに気を付けてさえおけば、大丈夫ってことだろ。

なんとかなるさ。宝は持って帰らないけどな」

 

 俺は緊張しながらも、それでも湧き上がる興奮を抑えられないまま、

 古の宝物庫へと足を踏み入れた。

 男子たるもの。誰しも多かれ少なかれ、冒険心って奴は持ってるものだ。

 宝を秘めた遺跡に高まるのは、最早定めの領域。

 

 ……女子ながら、はなから興奮を抑えるつもりがないのが相棒で、

 正直不安だけど。

 

 

 俺達が中に入ると、重たい音が背後で鳴った。

 反射的に後ろを見たら、つい今勝手に開いた扉が

 ゆっくりと、これまた勝手に閉まって行くところだった。

 

 ドォンともゴォンともつかない音を立てて、外と中とは隔たれた。

 

 

「いよいよだね」

「ああ」

 全体的にぼんやりと白く、明るさを感じる。

 おそらくは光の魔法だろう。

 古って言われる長い年月、よく魔力がなくならなかったものである。

 

 定期的に誰かが、魔力の調子を見てたんだろうか?

 話に寄れば、この場所は、古代この地域を収めてた王が

 賊への対策として、作り上げたしかけなんだと言う。

 いろんな意味でなにもんなんだ、古代プロギャム王。

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