大学では地味な陰キャとバカにされている俺は実はボディーガード 〜地味に生きたいのに、以前助けた幼馴染で有名人の歌姫が離してくれない〜
想像以上に読んでくれている人がいたので、連載でもう少し書いてみました。
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学校では地味な陰キャとバカにされている俺は実はボディーガード 〜地味に生きたいのに、以前助けた有名人の幼馴染が離してくれない〜
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『雄一、おまえは将来、有名人の専属ボディーガードになるんだ!』
『うん!』
『ほら、今日も修業だ! まずは父さんと一緒に十キロ走るぞ!』
『分かった!』
昔は、ボディーガードに憧れた。親父や祖父がそんな仕事をしていてかっこいいと思っていたからだ。
小さい頃から親父と祖父に鍛えられた俺は、順調に力をつけていった。
そして、高校生になったころ……探偵である親父の仕事を手伝わされた。
有名人の身辺調査、という名のボディーガードだ。
休日はほとんどその手伝いだったな。
命がけの仕事を手伝い続けた俺は……これ人間がやる仕事じゃねぇわ、と思った。
命あっての人生だ。そう考えるようになった俺は平和で平穏な普通の生活ができればそれで良いと思った。
だから、親父に言った。
俺はボディーガードにはならない、と。
親父は滅茶苦茶寂しそうな顔をしていたが、俺の考えを否定することはなく、自由を手に入れた。
何とか大学へと進学した俺は今――二年生になり、平和で平穏な普通の生活を手に入れた。
〇
俺のラインに一通の連絡がきていた。
それはクラスのアイドルともいえる、佐伯からだった。
四限目の講義が終わった後、教室に残ってほしいということだった。
……これは、もしや告白だろうか。
まさか、俺が佐伯にそんな目で見られていたとはな。
別に俺は佐伯のことが気になっている、とかそういうことはなかったが、きっと大学生の普通というのはこういうことなんだろうと思う。
ソースはネット。大学生で彼女できない奴はうんこ、というのをネットで見た。
ここで告白されれば、やっと俺も普通の大学生になれるんだな。
そんなウキウキ気分で四限目の講義を終える。
「おう、陰キャ、どうしたんだよ?」
「……いや、なんでもないけど」
俺はクラスでは陰キャ、と呼ばれている。
そこには悪意が込められていたが、それ以上過激ないじめに発展するわけでもなかった。
命の危険がないのなら、別に好きに呼んでくれて構わなかった。
クラス単位での講義だったため、見知った生徒たちが続々と教室を離れていく。
いつもはだらだらと残る皆だったが、まるで佐伯の告白を知っているかのように廊下へと出ていく。
もしかしたら、佐伯がみんなに言ったのかもしれないな。
佐伯はクラス全員と親しいから、そのくらい余裕だろう。
ニヤニヤ、と少し意地悪い笑みもあったが、今は気にしなかった。
教室には俺と佐伯だけになった。
廊下からは人の気配が感じられる。うん、クラスの人数分あるな。この程度の気配察知はサバイバル経験から、息をするようにできた。
佐伯が、動いた。俺の前に来て、微笑んだ。
「あのさ、ライン見てくれたよね?」
「……ああ」
「なんで呼ばれたか、分かる?」
彼女は頬を赤らめ、もじもじとこちらを見てきた。
「……まあ、その色々考えたけど」
「考えたの? 何を?」
佐伯が甘ったるい声とともにそう言ってきた。
……わざわざ言うのはすこし恥ずかしいが答えるとするか。
「告白、とか?」
そういった時、佐伯はにやり、と口元を緩めた。それから、こくんと頷いた。
「そうなの。私……その、ずっと長江のこと気になっててさ。……付き合ってくれない?」
本当に告白だとは思わなかった。これで俺もまた普通に一歩近づけた。嬉しく思い、頷いた。
「……そうなんだな。ああ、わかった。いいよ」
……まさか、こんなあっさりと彼女が出来るとは思っていなかった。
そう思って俺が返事をした瞬間だった。佐伯が笑いだした。
「……佐伯?」
「あははっ! やっぱ、ウケるわ!」
彼女が笑いだした次の瞬間、扉ががらりと開き、廊下からぞろぞろと人が流れ込んできた。クラスのみんなだ。
まあ、いたのは気づいていたが……どういうことだ?
「おいおい、まさかおまえが佐伯さんと付き合えると思っているのかよ!?」
佐伯を見ると、彼女は腹を抱えて笑っていた。
……なるほど、これがあれか。
嘘の告白、という奴だな? これもネットでみたぞ。
呼びだされて告白されたと思ったら罰ゲームでしたー、とか言う奴だな?
その体験者もわりと多い様子だった。……つまりもしかしたら、これは普通の生活を体験するためには必要なことなのかもしれない。
だが、実際に体験してみたらわかる。
これは苦しい……。だが、少しでも普通に近づけたと思いこんで耐えた。
「ぎゃははっ! 何がいいよ、だ! おまえが佐伯さんと付き合えると思っているのかよ!」
「マジでウケるんだけど」
「陰キャのおまえが身分わきまえろよな! おら、さっさと帰れよ、陰キャオタクが!」
最後に佐伯をちらと見ると、彼女は苛立った様子で髪をかきあげる。そして、クラスの不良っぽい男子をちらと見た。
「いつまでもこっち見るなっての。ボコされたいの?」
「おう、そうだ。さっさと帰れよ陰キャ野郎が。オレの拳の餌食になりたいのか?」
不良が拳を構えてきた。
ここで怪我をさせては悪いので、俺はすっと鞄を持って教室を出る。
「言い返すこともできねえなんてな」
「マジで陰キャオタクだな!」
……世の普通というのも中々大変なんだな。
〇
がっくりと肩を落としながら、部屋に戻ってきた。明かりをつけ、明日の準備をしていると、ピンポーンとチャイムがなった。
宅配便とかだろうか? 玄関に向かって扉を開けると、
「久しぶり」
とても、こんなボロアパートにいてはいけないような容姿の女がそこにいた。
すぐさま扉を閉めた。
だが、奴は靴をさし込んでいた。
「帰れっ! なんでここに来たんだよ!」
「会いたかったから」
「俺は会いたくねぇんだよ!」
「嘘言わない。今だって扉がゆっくりと開いている……っ」
「おまえがこじ開けてんだろ!」
抵抗する彼女に、俺は小さく息を吐いて……扉を開けた。
怪我をされたらたまったものじゃないからな。
「……なんだよ、赤式」
「名前」
「……なんだよ、友梨佳」
そういうと、彼女は嬉しそうに帽子とマスクを外して、素顔を見せた。
……その圧倒的な美貌に、俺は小さく息を吐く。
彼女は俺の幼馴染で、赤式友梨佳という。
両親は歌手で……彼女もまた、歌手として活動していた。
そして……今の若者たちに大人気で、その美貌もあってか、歌姫と呼ばれていた。
彼女はキャリーバッグを引きずるようにして、俺の部屋へと上がってくる。
「……おい、何しにきたんだよ」
「ニュース、見てない?」
「何のだ?」
「熱愛発覚」
「誰と?」
「雄一と」
「はぁ!?」
頬を染めた友梨佳に、俺はそれを無視することはできなかった。
まず、俺と彼女の間に幼馴染以上の関係はない。
だが、友梨佳の頭のネジは何本か足りていない。
彼女が、どこかで『好きな人がいる』といって、俺の名前を挙げていてもおかしくないのだ。
俺が驚いてスマホを開き、彼女の名前を打ちこんだ。
真っ先にニュースに出てきたのは――赤式友梨佳、脅迫される、というものだった。
「……どういうことだ?」
「……私、次の参加予定だったイベントを脅迫電話と手紙で潰された。……それで、しばらく事務所が休むようにって言ってきたの」
「……はぁ、それで?」
「だから、世界で一番安全で安心できる場所に来た」
「このオンボロアパートは、家賃百万近いあなたのマンションと比較したら涙も枯れるほどの脆弱性だと思うんですが……」
「でも、雄一がいる。安全」
ぶいっと、友梨佳はピースする。
俺が頬をひきつらせていると、親父から電話がきた。……まさか、この依頼を受けたの、親父じゃねぇだろうな?
「もしもし」
『おう、元気しているか?』
「ああ、元気だが……なんだ?」
『そっちに、友梨佳ちゃん行ってないか? まあ、行ってたら面倒見てくれ、頼む』
「……おい、俺はもう親父と関わらない、一般人として生きるって言っただろ? そっちで面倒見ろよ」
俺がそういうと、友梨佳は寂し気に俺の服の裾を引っ張ってくる。
『オレが面倒見るつもりだったんだが、友梨佳ちゃんがおまえがいいの一点張りなんだよ。頼む、今回だけは見てくれないか?』
俺よりは親父のところにいたほうが安全だとは思うんだがな……。そう思って友梨佳を見ると、彼女は笑顔であったが……よく見れば少し頬が引きつっているように感じた。
不安や恐怖が、そこからは痛いほど伝わってきて、俺は頭をかいた。
「……お願い、雄一」
「……はぁ、わかったよ。今回だけだ。だが、報酬は俺が九割もらうからな」
『おう、分かったよ。そんじゃ、頼んだぜ』
親父がそう言って電話を切った。
……まったく。
俺だってできれば有名人とは関わりたくない。それは、平和で平穏な普通の生活とかけ離れているから。
だけど、幼馴染の彼女を無視したくもなかった。
「今回だけだからな?」
「……うん、ありがとう」
「いいよ、別に」
「お礼に何か奢る」
「……おっ、それなら近くにちょっと良いレストランがあるんだ。そこに行かないか?」
「行きたい。デート」
「……一応変装しろよ?」
「うん、わかってる」
嬉しそうに友梨佳が笑う。
やはり笑顔が似合う奴だな。
「そういえば何かあった?」
友梨佳が突然首を傾げてきた。
「どうしたんだ?」
「……なんだか、今日雄一の元気がないように見えたから」
……たぶん、あの嘘の告白だろうな。顔には出さないようにしたつもりだったけど、幼馴染としての勘でわかったのかもしれない。
「そう、だな……ちょっと大学でいろいろあってな」
「色々?」
「ああ。今日女子から呼び出さ――」
「――どういうこと?」
まだ何も言っていないのに、友梨佳の目がぎらんと光る。
「よ、呼びだされてな……告白をされ――」
「社会的につぶす? それとも、普通につぶす? 誰にお願いしたらいいんだろう……」
「やめて! その告白ただの嘘の告白だったから、何もねぇから!」
こいつ、なぜか俺のこと好きみたいだからな。
まあ友梨佳は有名人だから俺が彼女とそういう関係になることは絶対にない。
目のハイライトが戻った友梨佳は次の瞬間、むっとした顔になる。
「つまり、雄一を騙したということ?」
「まあ、そういうわけだ。それで、クラス全員に笑われてな。おまえみたいな陰キャオタクが告白されるわけねぇんだよ。ぶっ飛ばされたくなかったらさっさと帰れ、って言われてな」
「全員ボコしちゃった?」
「んなことするわけねぇだろ? こっちは普通の生活を送りたいんだからな。まあ、でもネット見ると、嘘の告白に騙されてっていうのもわりといるし、ある意味普通の生活なのかもな」
だとしても、辛いんだけどな……。
「なにそれ、嫌な場所。大学辞めちゃえば?」
「辞めてどうするんだよ?」
「私が養う」
「……ヒモってことか?」
「うん。私に毎日おはよう、おやすみを言ってくれればそれでいい」
「なんつーダメ人間だよ」
「ダメでいいから、私のところに来てほしい」
ぐいぐいと腕を引っ張ってくるが、俺は小さく息を吐いた。
「それは普通の生活じゃないから嫌だ」
「変な拘り」
「今まで普通の生活送れなかったからな、これからは普通に生活したいんだよ」
「ふーん……まあ、いいや。とりあえず、ごはん食べにいこ?」
「ああ、わかった」
俺は彼女とともに外へと出て、近くのレストランへと向かった。
〇
レストランの帰り道。
暗くなった夜道を歩いていた俺は、すっと友梨佳に体を近づけた。
「どうしたの?」
「……つけられているな」
「……つけられて、る。もしかして、事件の……」
友梨佳の表情がひきつった。みるみる顔が青ざめていき、元気がなくなっていく。
……友梨佳にこんな表情をさせる奴がいることが腹立たしい。
「……安心しろ」
「……え?」
「俺が守ってやる。傍にいろ」
「う、うん……」
友梨佳が腕にくっついてきた。彼女の体はかつてないほどに震えていた。
……どれだけ元気に振舞っていても、命の危険があるかもしれないのだから仕方ない。
そうして、くっついたまましばらく歩いたときだった。
――背後から殺意が迫ってきた。
「死ね!」
声に反応し、友梨佳が振り返る。友梨佳の表情がひきつっていた。
俺は冷静に状況を確認。
友梨佳を抱え、回るようにして男の一撃をかわす。
暗闇を切りさくような銀色――ナイフを振りぬいたのが見えた。
男はかわされるとは思っていなかったようで、驚いたようにこちらを見ていた。
顔にはサングラスとマスク。肌すべてを隠す服装であるため、年齢は分からないが――さっきの声の感じから中年くらいだろうと思った。
男はナイフをこちらに構えなおし、そして、一気に迫ってきた。
「……おせぇな」
男の一撃をかわしながら、その手首を蹴りあげた。
男の手からナイフがこぼれ、宙に舞う。
手を押さえてうずくまった男の背中を踏みつける。
「ぐあ!?」
「友梨佳、警察に連絡を頼む」
「う、うん……っ」
彼女は顔を青ざめながら、スマホを耳に当てた。
男は……さっきの一撃で意識を失ったようだ。
すぐに周囲を見渡し、他に仲間がいないのを確認する。電話を終えた友梨佳が、俺に近づいてきた。
そして、ぎゅうっと腕をつかんできた。
「……守ってくれて、ありがとう」
「仕事だからな……そんな怯えるな。もう、大丈夫だぞ? 目覚ましたらまた気絶させるだけだからな」
「……で、でも怖いから」
友梨佳はさらに力を籠めて俺の腕をつかんでくる。
アパートでふざけて近づいてきたときとは明らかに違った。
「……はぁ、わかったよ」
……そう弱気な顔を見せられると俺も無下には扱えない。
しばらくして警察がやってきて、男を引き渡した。
警察に軽く状況を説明する。それから、俺たちはアパートまで戻ってきた。
部屋に入ったところで、ようやく友梨佳は安堵できたようで、表情から力が抜けた。
「やっと、安心できたのか?」
「……うん、また、助けてもらっちゃった」
「前もそうだが、今回も仕事だ。恩に感じる必要はないんだぞ?」
あくまで仕事。でも、友梨佳はそれ以上のものを感じてしまっている。
こちらにやってきて、ぎゅっと抱き着いてきた。
「……おい」
「やっぱり、好き」
「……それは、不安だったドキドキ感を勘違いしているだけじゃないか?」
「勘違いじゃない」
むすっと友梨佳が頬を膨らませ、続ける。
「まず好きなところその一。仕事で嫌なことがあったときに、嫌な顔一つしないで話を聞いてくれる」
「……アフターケアってのも大事だって教えられたからな」
「その二。今回みたいにいきなりきても、相談に乗ってくれる」
「どうせ暇だからな」
友梨佳は上目遣いにこちらを見てきた。
その可愛らしい表情に、まったく何も感じないわけではなかったが、あくまで彼女は依頼主だと言い聞かせる。
ボディーガードの心得として、依頼主と恋仲には決してなってはいけないというものがある。幼い頃から叩きこまれたおかげで、すっと心が落ち着いていった。
「そして最後。……ずっと、普通の幼馴染として接してくれる」
「それは……俺が普通の幼馴染が欲しいだけだからだって」
「私は自分の夢だったから、歌手を目指した。でも、時々……普通の一人の女性になりたいときもある。そんなとき、私を普通に扱ってくれるのは雄一くらいだから」
「……そうか? わりと有名人として扱ってもいるぞ?」
普通の生活が送れないから、会いたくない、というときだってちょくちょくあるしな。
けど、友梨佳は首を横に振った。
「態度が違うもん。私をこんな風に扱ってくれる人、中々いない。
だから、好き」
「ああ、そうか。まあ、これからも普通の幼馴染としては仲良くやっていくつもりだ」
「むー、雄一の馬鹿」
頬を膨らませた友梨佳に、俺は苦笑を返しながら、彼女を引きはがした。
「もう今日は遅いんだ。寝ようぜ。ベッドは使っていいからな」
「ベッド、一つしかない。一緒?」
「おまえが使っていいから。俺は寝袋で寝る」
「……別に一緒でもいいのに」
「いいから、おやすみ」
そういって、俺は強引に彼女を寝室へと押しこんだ。
〇
次の日の朝。友梨佳の迎えにマネージャーがやってきたので、友梨佳を引き渡した。
「……ありがとうございます。昨日は危険なところを助けてくださったみたいで」
「いえ、気にしないでください」
マネージャーと軽くやり取りをすると、友梨佳がこちらを見て来た。
「本当に、ありがとう。雄一がいなかったら、たぶん……死んでた」
「気にすんな。ま、困ったことがあったら言ってくれ。多少は力になってやるからな」
……幼馴染だからな。俺がそういうと、友梨佳は一度目を見開いてから嬉しそうに微笑んだ。
「やっぱり、雄一大好き」
「へいへい。仕事頑張ってな」
「うん、またね」
「おう、また」
友梨佳を見送った後、俺も大学へと向かった。
……今日の講義は四限以外は、クラスごとに受けるものではない。
だから、佐伯たちと顔を合わせる必要がなかった。
講義を受け、次の教室に移動してまた別の講義を受ける。
そうして四限を迎えてしまった。
俺は小さく息を吐きながら、四限の教室へと向かった。
やはり、クラスメートたちからはニヤニヤと小馬鹿にしたような笑みを向けられる。
時々からかうような声も聞こえたが、すべて無視することにした。
さすがに先生が来てからは絡まれることもなく、そのまま講義が終わり――。
「おう、陰キャ。今日は一緒に付き合えよ。飲み会行くぞ」
「……いや、別にいいよ」
「うるせぇ、付き合えよ」
ニヤニヤ、と彼らはこちらを見ていた。何か新しい遊びでも考えたのかもしれないな。
周りを彼らに囲まれ、俺は強引に連れていかれる。
どっかでタイミングを見て逃げ出そうかな、なんて考えながら歩き、校門を出た時だった。
「雄一、大学終わったの?」
聞きなれた声に、呼び止められた。
今日もマスクに帽子と、完璧な変装だった。……だけど、マネージャーを控えさせていては目立つだろうが。
案の定周囲の人がちらちらと友梨佳を見ている。
「……なんでここにいるんだよ」
「またね、って言った」
「今日来るとは思ってねぇよ!」
思わず声をあげると、俺に絡んでいた男たちが苛立ったような声をあげる。
「なに、陰キャ。この子と知り合いなの?」
「何? ちょっとかわいい感じじゃん、マスク外してみなよ」
「ん」
いや、外すなよ。
友梨佳は帽子とマスクを外してから、髪を軽くかきあげた。そこで彼らは驚いたように目を見開いた。
「あ、あかか赤式友梨佳!?」
「え!? 超有名人じゃん!? どうしてこんなところに!?」
「て、ていうか、え!? い、陰キャ、し、ししし知り合いなのか!?」
驚いたように全員がこちらを見てきた。
「……知り合い、みたいなものだな」
「恋人」
「おい」
嘘つくんじゃねぇよ。俺が訂正しようとしたが、友梨佳はすっと俺のほうに来て腕をつかんできた。
驚いた様子の彼らは、あっさりと俺を友梨佳に引き渡した。
皆呆然と固まっていた。
どうせなら、居酒屋まで護衛してほしかったんですけど……。がっしりと友梨佳に掴まれてしまった。
「それでは、雄一さん。友梨佳をお願いします」
マネージャーは一礼とともに去っていく。
「……いや、あのこれってもしかして仕事ですか? それなら報酬は――」
「……ただ、遊びに来ただけですので、では」
……マジかぁ。
と、友梨佳がちらと周りを見た。
「そういえば、雄一に昨日告白した人がいるみたいだけど、この中にいるの?」
「え? は、はい……私、ですけど……」
佐伯が控えめに手を挙げる。その表情は歌姫、赤式友梨佳を生で見れたことに対しての喜びを感じているようだった。
「あっ、そう。雄一は私のだから、勝手に変なことしないでくれる?」
ぎろり、と友梨佳が睨みつけると、佐伯の表情は一変する。
……昨日の男も問題なく撃退できそうなほどの殺気だった。
こくこく、と佐伯がかたかたと震えながら頷いた。
「いこ、雄一」
満足そうな友梨佳を見て、俺は小さく息を吐いた。
「おまえ、わざと大学まで来たな?」
「好きな人、傷つけられたら嫌だから」
なるほどな。俺に痛い目をみせた奴に仕返ししたかった、そういうことか。
軽く息を吐きながら、彼女とともにアパートへと向かう。
「今日はどこ行きたい? 奢るから」
「……友梨佳の行きたいところでいいぞ」
「ラブホテル」
「よし、やっぱり俺が店選ぼっかなぁ……」
俺はすぐにスマホを取り出し、どこか良い店がないか全力で探し始めた。
想像以上に読んでくれている人がいたので、連載でもう少し書いてみました。
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