ドルーフィムーリド 9
「将陽よ、一つ忠告いいか?」トコマが再び口を開く。
「ああ、何?」
「順調に行けば、今後この世界で小田留と再開できるだろう。その際に守ってほしいことがある。それは、この世界は夢の世界なんだ、と、彼女を説得してはいけないということだ。これはどのドルーフィムーリドにおいても適用される、共通のルールだ」
「なぜ?」俺は端的に聞く。
「小田留はこの世界こそが現実であると、完全に疑うことなく信じ込んでいるからだ。先ほども言ったように、現実世界で、ここは仮想世界なんだ、と言われても、将陽は絶対に信じないだろ? それを小田留に言うようなものだ。だからドルーフィムーリドだとか、チェイサーだとか、エクジットだとかは、彼女の前では決して口にしてはいけない。言う意味がない」
「分かったよ。今までと同じように、普通に、まるでこの世界こそが現実世界であるかのように接する、それでいいんだろ?」
トコマは薄っすらと口元に笑みを浮かべ、それを俺の質問に対する答えとした。そして今一度麦茶を手に取ると、今度はそれを一気に飲み干し、箸を手に取った。
「とりあえず食べよう。夢の世界でも腹は減るからな」
釣られるように、俺も箸を手に取る。しかしここで、侘しい光景が目に飛び込んでくる。空になった食器の数々……。そう、俺とトコマが話し込んでいる間に、料理の大半を龍之介が平らげてしまっていたのだ。
俺はキリッと龍之介の方に顔を向ける。
「おい龍之介。お前ちょっとは俺たちの分残しとけよ」
「あ、わりー。腹減ってたからついな」
「お前無職だろ? どうして腹が減るんだよ。別になんも疲れることないじゃん」
「ば、馬鹿やろーテメー。俺だって超疲れてんだぞ! 人生に超疲れてんだぞ!」
俺は大きな溜息をつくと、トコマの方に視線を送る。
「追加注文するけど、トコマはなんか食べたい物とかあるか?」
「いや、私は何でもいい。将陽が食べたい物を頼め」
「分かった。じゃあ適当に……」
「なあ、さっきの話聞いてて思ったんだけどさー」
パラパラとメニューをめくる俺に対し、龍之介が言った。だが彼の放った次の一言に、俺は一瞬耳を疑ってしまう。
「小田留って、もしかして高松小田留のことか?」
「――えっ? お前小田留のこと知ってるのか? あれ? でも……」
何かがおかしいというのは、すぐに理解できた。たとえ外見が現実の龍之介と同じであったとしても、その人格はドルーフィムーリド独自のものなのだ。俺のことを知らなかったように、小田留のことも知らないはずである。
戸惑う俺をよそに、トコマがすかさず聞いた。
「その名前をどこで聞いた? それとも龍之介は小田留と面識があるのか?」
「どこでって、そりゃーニュースとかネットとかだけど。てか知んねーの? 有名人じゃん。悪い意味で」
「有名人? 悪い意味?」
「ああ」
龍之介は一旦口をつぐむと、俺とトコマに視線を送る。そして確認するように言った。
「殺人犯だぜ?」