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ドルーフィムーリド 3

 俺がガックリと肩を落としていると、龍之介が好戦的な面持ちで突っかかってきた。


「おいおいおいおい! 俺を無視してんじゃねーっつの! なんか用があって話しかけたんじゃねーのか? あ?」

「あ、えーっと。じゃあとりあえず、お前はなに? ここの係りの人かなんか?」


 俺はとっさに聞く。一応筋の通った質問を選んだつもりだ。


「係りじゃねーよ! 無職だよ! つか、じゃあってなんだよ? なめてんのか? どいつもこいつも俺のこと馬鹿にしやがってよ! ふざけんなよ! クソが! 死ね! クソが!」

「わるいわるい、とりあえず落ち着けって」たしなめるように言うと、話を逸らすためにも次の質問を投げかける。「とりあえずこの建物から出たいんだけど、どこから出ればいいんだ?」

「あ? もう出るのか? もっと見ていけよ! 飛行機カッコいいだろ! 美しいだろ! 最高だろ! あっちに見えるプロペラが前方に二つついた戦闘機はよ、XF5Uっつって、その奇抜で平たい形状からフライングパンケーキって……」


 突然ベラベラと話し始めた。俺はそれを「ちょっとストップ。ちょっと待ってくれ」と言い遮る。別に興味がないというわけではない。むしろそういった物は好きな類であるといえる。しかし今は残念ながら時間がなく、小田留を捜すため、エクジットを探すため、ここから出るのが先決なのだ。

 くいくいと、トコマが俺の服の袖を引いた。そして彼女は口元に手を添え、俺の耳へと向かい背伸びをする。


「将陽よ、あれを使うか?」

「あれ?」

「お金だよ。お金を使い今日一日この者を雇うんだ」

「雇う? どうして?」

「正直私もこの世界には驚いているんだ。現代でもなければ過去でもない。未来? というか、ここまできたら最早異世界だ。基本的な生活基盤は一緒なのだろうが、現実世界とは違った習慣、規則で社会が回っている可能性は高い。おそらく我々には、どこに何があるなどといった地理的なことさえもさっぱり分からないだろう」

「つまり彼を一日雇い、ガイドにすると?」

「つまりそういうことだ。彼からはできるだけたくさんの、有用と思われる情報を聞き出す」


 俺は無言で頷くと、さっそく龍之介に対し交渉を開始した。


「なあ龍之介。お前さっき無職だって言ったよな? ということは金に困ってるんじゃないのか?」

「金? ああ困ってるよ! 金がねーんだよ! 金金金! 誰か俺の口座に一千万ぐらい振り込めよな! クソが!」

「一千万は無理だけど、一万円で今日一日俺たちのガイドをお願いできないか? 実は旅行でここにきたんだが、右も左も分からない状態なんだよ」

「ガイドだー? ……」


 龍之介は手で顎をさすり、しばし黙考する。

 それを見たトコマはここぞと言わんばかりにさらに条件を追加した。


「前金が一万円だ。ガイド終了後には成果報酬としてさらに一万円出そう。どうだ?」

「一日ガイドするだけで二万円か。こいつぁー割がいいな。超割がいい! しゃっ! やってやるよ。ガイドでもなんでも」

「決まりだな。私はトコマだ。よろしく頼むぞ、龍之介よ」


 トコマは自然と手を差し出す。


「おうよ。任せときな。トコマ」


 龍之介は彼女の手を取ると威勢よく言った。

 その自己紹介の流れに乗り、俺も龍之介に対し手を差し出してみる。


「俺は将陽だ。よろしく」


 すると龍之介は俺の手を軽くはたいた。


「テメーは駄目だ。俺はトコマのために尽力するんだ。俺はよ、男とババアは信用しねーんだよ」


 このクソヤロー、と思ったが、そもそも夢の住人だ。形而上的人物にイライラし、精神を擦り減らすほど馬鹿げたことはない。俺は一人心落ち着けると、財布から一万円を取り出し龍之介に渡した。


「ではまずは、ここから出るための案内をお願いしたい」トコマはさっそく一つ目の依頼を口にする。

「了解。エレベーターはあの中央の塔にあるんだ。あそこから下へ行けば出られるぜ」


 龍之介はそのように言うと、ついてこいとでも言わんばかりに威勢よく歩き出す。俺たちは彼の後を追い、その中東風の、大きな時計の設置された尖塔の方へと向かった。

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