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第三話 魔界のしきたり

エロって邪道です。


あの後俺たちは無事何事もなく命名の狭間から出ることができ、サキュレムの案内のもと魔界を探索していた。


「案外魔界も発展してんだなー」


「当たり前でしょ。人間どもより劣ってると思ったら大間違いよ」


ここに到着するまで俺は魔界を殺風景な岩世界が広がっていて、世紀末チンピラどもが蔓延ってるのかと思っていたけど、それは大きな間違いだった。


実は近代的な街並みでいたるところに工場が建てられており、近代的文化なのに電光掲示板があったりなどミスマッチな文化が混ざってる。


「悪魔だって普通にビジネスすんのよ」


「悪魔って召喚されて悪さするイメージなんだけど」


「そういうイメージを売りにしてる悪魔もいるわ」


なんか意外だった。


「サキュレムも召喚されたりとか契約したりとかすんの?」


「指名依頼のことでしょ?そんな大物じゃないわよ。召喚されるのって魔導書に記されてるような誰でも知ってるような悪魔よ」


「でも俺が指名したじゃん」


「魔導書とネットは違うわよ。魔導書には本当に有名な悪魔しか載らないけど、ネットは誰でも自ら宣伝できるから、最近はネットが主流ね」


悪魔もシビアな世界なんだな。


「まあネットとは言っても普通のネットじゃないわよ。人間界にもエクソシストがいて面倒臭いのよ。だから深層ウェブつまりダークウェブを活用してるの」


「え、じゃーなに。俺って知らぬ間にダークウェブにアクセスしてたの?」


「そういうことね」


サキュレムは大して興味なさそうに淡々と話していた。


というか、何かから隠れるように俺のそばをくっついて離れない。


「だからあんたも悪魔になったからには仕事しないといけないのよ」


「どんな仕事すればいいんだ?悪魔と人のビジネスって違うんだろ?」


「極端に言えば人の負の感情を糧にするのが悪魔のビジネスよ」


「例えば?」


「人を殺せば恐怖の感情とか憎む感情が生まれるでしょ?あれを回収するのが仕事」


なるほど、そこは俺が想像する悪魔と変わりはないんだな。


でもよく人を殺すなんて淡々と言えるなーこいつは。

俺は絶対そのビジネス向いてるとは思えんな。


「ワタシの場合は人の性欲とかゲスい感情を回収するのが仕事だったわ。あとは精気の回収ね」


「なるほどな。負の感情にも色々あんのか」


「早く人間の頃の感覚は捨ててしまった方がいいわよ。じゃないとすぐ死ぬ羽目になるんだから」


サキュレムは俺の服を掴みながらもじもじしている。

ハート型の尻尾が妙にクネクネしていたので、俺は思わずその尻尾を掴んでしまった。


「ひゃああっ」


「おまえさっきから何してんだよ」


「いきなり尻尾つかむなっ!お、おしっこ漏らしちゃうところだったでしょっ!」


「なんだ、おしっこしたかったのか。ならさっさとトイレ行ってこいよ」


「トイレしたいけど、見つからないのっ!」


サキュレムは涙目になって俺を睨み上げていた。


加虐心を煽る表情をしてるじゃないか。

俺もようやく悪魔の心が芽生えてきたのか?

いや、紳士たるもの当然の反応か。

むしろちょっといじめなけらば紳士ではないと言い切れる。


さあ、it’s show time!


「ところで、なんで俺って悪魔になったんだ?」


ずっと気になっていたことをとりあえず当事者であるサキュレムに聞いてみた。


「今それ聞くか!」


「気をそらすためになんか話してた方がいいだろう?別にやましいことがあるわけじゃないよー?」


「た、確かに。ヴィランもたまにはいいところあるじゃない」


ちょろい。

なんてちょろさだ!


トイレを探すことよりも話に集中させることで、トイレを見逃させるこの策略。


さあ、見せてくれて!

お前が恥ずかしがるのが俺の悪魔としての糧だ!人間の頃の屈辱を今果たしてやる。


「……悪魔には二種類の誕生の仕方があるのよ。自然発生型と後天性型の悪魔」


「自然発生型とは?」


「自然発生型は読んで字の如く、何もないところとか何かの要因で悪魔が誕生すること。自殺スポットとかから生まれるのが典型的な例ね」


なるほど。

要は人間の負の感情が生み出すのが自然発生型なのか。


「後天性型は悪魔に身を売るとか、もしくは元々悪魔になる予定だった魂が何かの間違いで人間として生まれた場合よ」


「悪魔になるなんだって?」


「つまり、魂は悪魔なのに身体は人間のこと。それが何かの要因で突如身体が悪魔になるのよ」


「なるほど。で、おれは後天性型なのはわかったけど、結局何が原因なんだ?」


サキュレムは呆れた表情で俺を見てきた。

今の情報だけで判断できるかよ。


「あんたの魂は元々悪魔の魂だったのよ。それが間違いで人間として生まれてしまっただけ」


レアケースよ。


サキュレムはそう言ってどうでもいいとばかりに、つんと前を向いて歩いていた。


しかしもじもじは健在だ。


「そしてワタシがあんたの魂に干渉した。それが原因で悪魔として復活したのよ」


俺は元々悪魔ね……。

実感湧かないな。


「それはわかったけど。それで、なんでサキュレムは俺の手下みたいになっちゃったんだ?」


「……単純よ。ワタシがあんたを喰うときに名前を聞いたでしょ?あれは本来真名を聞くはずなんだけど、それが違ってただけ」


「俺の名前は正真正銘、名無権兵衛だぞ」


「その名前まじでムカつくわね」


人の名前にケチつけんな。

俺だって好きであんな名前になったんじゃねーよ。


「魂の捕食というのはリスクが付き纏うものなのよ。悪魔がただの人間の名前を間違えたところでそんなリスクはないけれど、悪魔が悪魔の真名を間違えるというのは非常にリスキーなことなのよ」


「要するに?」


「悪魔Aが悪魔Bの真名を間違えれば、その悪魔Aは逆に悪魔Bに支配されてしまうのよ」


「だから俺の名前は名無権兵衛で間違えてなかっただろ?」


「それは人間の名前でしょ?人間は悪魔の魂に命名なんてできないのよ。つまりあんたの名前は仮の名前だったの。本当は真名はまだなかったのに」


つまり、真名を言い当てられなかったサキュレムは、その代償として俺の奴隷になってしまったと。


俺が本来は悪魔だったていうことにも驚きだけど、隣にいるちんちくりんがおれの奴隷だということにはもっと驚きだ。


文化というか世界が違すぎてびっくりだ。


「……ねえ、ヴィラン。トイレ見つけた?」


「え?いや、見てないけど」


まあ本当は数メートル後ろにあったんだけどな。

だが、お前が俺にしがみつくその姿がたまらないんだよ。


「それにしてもこの世界は結構な悪魔がいるんだなー」


人というか悪魔が往来している。


それも様々な姿形の悪魔だ。

人の形の者もいれば、異形の悪魔もいる。


そういえば俺ってどんな姿してんだろ。

身体を見た感じ異形ではないとは思うけど。


「なあ、俺ってどんな姿してるんだ?」


「普通の人型だけど」


「人型なのはわかるけど、顔だよ顔。悪魔補正でチャイワル系のイケメンになったりとかしてんの?それとも元の顔のままなの?」


「顔?うーん、特に特徴ないわよ。もう、ほんと人型ってかんじ」


「なんか要領得ない説明だなー」


「あ、鏡あるから見る?ほんとぱっとしないわよ」


「うっせーな。ぱっとしないのは知ってんだよ。どれどれ……」


サキュレムから鏡を受け取り覗き込む。


「ん?」


「どうかしたの?」


俺はサキュレムの方に視線を向ける。

するとサキュレムはニヤニヤとした表情で俺を嘲っていた。


「ちょっとまって。え?顔無いんだけど」


鏡には元のぱっとしない顔が映し出されていると思いきや、目鼻口すらないただののっぺらぼうがいた。

しかも夜の闇くらいに肌が黒かった。というか肌なのかすらわからない。


「似合ってるじゃない」


「冗談じゃねえよ!なんで顔無いんだよ!」


「それが本来のあんたの姿なのよ。人間の頃の名前は名無だったけど、本来は顔無しみたいね。アハハハハハ!」


「いつからこの顔なんだ!」


「命名の狭間の時はまだ人間の頃の顔だったけど、魔界に来てからずっとその顔よ。プププッ、あー、面白い」


俺はこれからずっとこの顔で生きていかなければならないのか?

コンプレックス抱く余地すら無いぞ。


「まあその顔も一時だけよ」


「まじで!?」


「見たところ変化系の悪魔みたいだからね」


この流れは俺の秘めた力が明かされる流れじゃないか?

どんだけ強い能力なんだろうか。

楽しみだ。


「代表的な能力は姿を変えられる能力よ。普通この能力の悪魔って、スライムみたいに形がない悪魔が多いのに珍しいわね」


「……強いのか?それ」


「まあ人それぞれよ。変化の能力は姿だけでなく能力もコピーするの。ただ使いこなせるかはそいつ次第ね。多くは使いこなせてないから、強いか弱いかで言ったら弱いわね」


俺はもう一度鏡を覗く。

何度見ても黒いのっぺらぼうだ。


ポテンシャルはあるけど身体がついていかないみたいなかんじなのか。

なんて残念な能力なんだ。


俺なら使いこなせるとか思ってたけど、人間の頃の俺も大して運動が得意なわけじゃなかったからな。


顔だけでも変えるか。


「あ、ちなみに慎重にどんな顔にするか決めた方がいいわよ」


「なんでだ?」


「だってこれからその顔がベースで物語が進行するんだから」


「物語とか言うなよ。俺も読者もシラフに戻っちゃうだろ」


でもそうか、一度顔を決めてしまえばその顔が俺の顔として定着し、イラストではその顔が描かれ、生涯その顔と付き合っていくことになるのか。


まさにビジネスフェイスだ。


いいじゃないかこの能力。

めちゃくちゃイケメンにすれば街を歩くだけで黄色い歓声が聞こえてくるんだろ?

そして夢の逆ナンまで……。


どうせなら商業目的で俺の顔をアイドルとして世にリリースするのもいいだろう。


「フハハハハ!俺の顔は無限大だ!生まれながらの勝ち組とはこのことを言うのだろう!フハハハハ!金だ!金だ!金儲けできるぞ!」


「ちょ、ちょっとやめてよ人前で!そんな顔で恥ずかしいこと言うのやめてよね!」


「決めたぞ!俺はアイドルになって一儲けするぞ!」


見える、見えるぞ。


俺の悪魔としてのビジネスはその美系な容姿で数々の女性を落とし、ハーレムを作り上げることだ!


「ちなみに悪魔としての魅力は顔じゃないわよ」


「なに?」


「単純に力の世界。美形なんてそこらへんにいっぱいいるもの。インキュバスとかね」


な、なんだと。


俺のビジョンが数秒で崩れ去った。


「あ、トイレみっけ!」


そして俺の野望も崩れ去った。

次回、清楚とはエロスである

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