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第二話 その名は悪魔ヴィラン

「ーーい、おい、起きろ!」


俺の体を譲るのと同時に、生まれたての子猫のような可愛らしい声が俺の耳を擽る。


「んー、なんだ?夢か……」


「夢ではない!早く起きてくれ!」


寝そべったままいつもより凝り固まったように感じる体を蹴伸びしてほぐす。

そのまま手で目を擦り思い目蓋を持ち上げた。


先ほどから腰のあたりに重さを感じる。

誰か俺の上に乗ってるのか?


そう思って視線を向けると、7歳くらいの幼女がほっぺたをぷっくり膨らませて、俺を睨んでいた。


「……ん?」


「ようやく起きたなウスノロ。このワタシを待たせるとはいい度胸をしている」


幼女はちんまりした足で俺の顔をグリグリしてきた。


なんだこの状態は。


罵倒されているのに、ご褒美だぞ。


じゃなくて、誰だこの幼女は。

誰かに見られたらおまわりにお世話になるどころか、人間としての尊厳が失われてしまうぞ。


しかし。


うーん、パンツが可愛らしい。


「迷子になっちゃったのかな?お家はどこか分かる?」


間違いない。この苺パンツの幼女は迷子に違いない。


そうでなければ、俺がこんな犯罪的な状況に巻き込まれてるはずがないのだ。


「なっ!?おまえ、ワタシをこんな目に合わせてぬけぬけと!そんな奴にはこうだっ!」


「おふっおふっおふ。ちょ、やめれって」


幼女のプリティーフッドが俺の顔を踏んづける。


しかし、今気づいたのだけど、この幼女の頭についてる子羊のような角……どこかで見た覚えが。

さらには、ハート型の尻尾だ。


もしかしてだけど。


「おまえ、サキュレムか?」


「だとしたらなんだ!」


「いや、え?まじ?このちんちくりんがあのムチムチエロエロボディーのサキュレム?」


「うるさいっ!ちんちくりん言うなっ!」


信じられない。

まさかとは思ったけど、まさかこの幼女があのエロティックお姉さんだと?


凶悪的な大きさのおっぱいが跡形もなく消え去っている。

あの巨峰からこの小ささになると、断崖絶壁という比喩よりもクレーターが適切だと思ってしまう。


「隕石射出したのか?おまえのおっぱいセカンドインパクト起きてるぞ」


「うっさいわね!勝手に飛んでいったわけじゃないわよ!おまえがこんな目に合わせたんだろ!」


幼女版サキュレムは胸を手で隠して、目に涙を浮かべながら俺を睨んでいる。

尚も足はしっかり俺の顔を蹴っていた。


「とりあえず落ち着けって」


俺は辺りを見回す。


先ほどまでエロボディサキュレムと俺の部屋で禁断のプレイをしていたわけだけど、どうもここは俺の部屋とは違うらしい。


どこまでも続く真っ暗な闇だ。


ひとりでいたら間違いなく発狂するだろう。


「俺も状況が読み込めてないんだけど、いったいここはどこなんだ?」


「感覚でわからないの?」


「いや、知るかよ。人間が辿り着けるような場所ではないというのは分かるけどさ」


「まさにその通りよ。ここは下等な餌どもが来れる場所じゃない。よかったわね。あんたもようやく知的生命体の仲間入りよ」


「つまり?」


「はあ?これでもわからないの?ここは魔界。悪魔が住う世界よ」


「……悪魔の世界」


何にもないこの世界が悪魔の世界だと?


大丈夫なのか……悪魔。


文明レベル低いどころか全くないぞ。


「そしてここはおそらく命名の狭間(イニシャルゲート)ね」


「命名の狭間?何かするところなのか?」


「見てれば分かるわよ」


どういうことかサキュレムに聞こうとしたところで、突然心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。


サキュレムが何かしたのかと思って様子を見るが、サキュレムもクレーターの胸に手を当てて苦悶の表情を浮かべている。


暫くすると俺たちの周囲を時計のように12個の魔法陣が浮かび上がり、そこから黒い平安装束を纏った何者が12人出てきた。

さらには、俺たちはいつのまにか祭壇のような場所に立たされていたのだ。


「この闇の夜の錦に名付けを預かりてなんとめでたい日かな」


真正面に一段と高い座布団に居座る烏帽子を被った者が、男のような女のような声でそう告げた。


顔を布で隠し、しゃくをもつ姿はまるで平安貴族のような姿だ。

他の者よりも一段と華やかな衣装を纏っている。


おそらくこの中で一番偉い者なんだろう。


「いまあたらしきには名を付けて興じ給ふ」

「まれびと二人とはいとめづらしゅう」

「さだまりたる名付けなれど如何にせむ」


ここに来る者が二人なのが珍しいのだろう。周りの者達がザワザワと話している。


それを一番偉そうな者が手を挙げて制した。


「そこな人、いちどあふておろう」


「その通りでございます。大悪魔マロ様」


サキュレムは片膝をつきつつ深々と首を垂れる。


サキュレムの反応からしてものすごく偉い悪魔なんだろう。


「ワタシはサキュバスの集いがひとり、サキュレムでございます。今はこのような姿ではありますが、嘘偽りはございません」


「ほほほほほほ。いとめづらしきものを目にしたものかな」


俺は状況が読み込めず、サキュレムに耳打ちをする。


「なあ、今どういう状況なんだ?あいつなんなんだよ」


「あんたも早く首を垂れなさい。殺されるわよ」


俺は言われた通り、一度例の大悪魔に営業スマイルを向けつつ首を垂れ、サキュレムに問い詰めた。


「あの方は魔界で指折りの大悪魔よ。しかも大悪魔の中でも特別な存在で、全ての悪魔の命名権を持ってるの」


「命名ってなんだ?」


「悪魔の魂に名を刻むことよ。真名とも言うわ。つまり、真名を知ると言うことは殺傷与奪権を持っていることと同義なのよ」


「ん?ということはサキュレムっていう名前は真名じゃないのか?」


「違うわよ。あれは単なるあだ名で、悪魔は真名の頭文字を取った名前を普段名乗るのよ。真名は別にあるわ」


「そんな大事な真名をどうしてあの大悪魔が命名するんだよ」


「大昔からそういう慣しなのよ。あの方は魔界の司法の権化のような方。逆らって勘に触ってしまえばそれは死と同義よ」


やばいやつじゃん。

平安貴族のコスプレごっこしてるような頭おかしい悪魔だと思ってたけど、超サイコ野郎じゃないか。


そんなサイコが裁判ごっこやってんの?

魔界の秩序終わってんじゃないの?

これってもしかして、魔界に踏み入れた途端、殺し合いが始まるとかじゃないよね?


「そろそろとはじめるとしようかの」


大悪魔マロは両手を横に広げ、周りの悪魔達もそれに続いた。

すると、その掌から黒い塊の渦が巻いて出て、隣の悪魔の掌にビームのように発射される。

やがて円形の黒い円が出来上がった。


「さて、お主の魔の力なれど、少しばかりめづらしきものがあり」


俺の力が珍しい?

何か特別な力でも宿っているのだろうか。

この殺伐とした魔界ではあったに越したことはないぞ?


「そこにおるおさなごを統べておる。己のさだめと永きにわたり共にすることとなろう」


「と言いますと」


「おさなごはお主のものである」


え、まじ?


幼子ってつまり隣にいるサキュレムのことだよな。


どういうことだ?なんでサキュレムが俺の物なんだ?


そう思ってサキュレムの方に顔だけ向ける。


「な、なんだっ!こっち向くな!え、ええい、ワタシの身体を全身舐め回すような視線で見るんじゃない!」


サキュレムは両腕で身体を隠し、内股にして恥じらう。


だが隠すところは隠さずの衣装では隠している意味がない。


「いや、ちょっと前までは俺のことあんなに罵倒していたのに、これからはSU・BE・TE俺の言うことを聞かないといけないと思ってしまうと、なぜだか哀れに思えてしまってね」


「この変態助平野郎!おまえなんか元の身体に戻ればイチコロなんだからなっ!」


「ああ、そうともさ。元のあのグラマスムチムチエロエロボディーに戻れば、それはそれはわたくしは従順な奴隷へと自ら降ることになろうが、今は俺のDO・RE・Iだからなっ!ハハハハハ!」


「ううううう!ぐやじいいいい!」


「どれ、まずはその苺パンツから拝見してやろうではないか。苺パンツは苺の匂いがするのかなー?」


「キッモ!こっちくんな変態野郎!」


サキュレムが例の如く俺の顔を蹴っていると、大悪魔マロが咳払いをする。


「こたびは別なれど、名付けは二人に告げようぞ」


いよいよ命名の儀が始まるのか。


「名付けはあだ名のみを告げるが、お主の心には真名を感じられよう。お主は公にはあだ名を名乗り、決して真名を悟られてはならぬ」


どんな名前になるのだろうか。

カッコいい名前がいいな。

バルスターとかディアブロとか。


大悪魔マロは懐から一枚の紙を出し、どこからか持ってきた筆を手に取る。


「お主の名はヴィラン。これよりヴィランと名乗るがよい」


紙にはでかでかとヴィランと書かれ、大悪魔マロは天高らかとそう言った。


「ふーん、いい名前ね」


「そうなのか?まあ悪い名前ではないと思うけど」


「ワタシの知り合いではうんちょりーぬって名前の悪魔がいるわよ」


「ひどいなそれは。ガチャの外れみたいな名前じゃないか」



◇◆◇◆◇◆



これから悪魔ヴィランとしてサキュレムと共に生きていくらしい。


正直、今でも状況に追いつけてないけど、そこは行き当たりばったりだ。


そういえば、ヴィランと命名された直後に俺の心の中に真名をはっきりと感じられたけど、それは誰にも言ってはいけないらしいから秘密ということで。

次回、魔界のしきたり

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