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骨の髄までイッちゃって

処女作です。

その日、俺はデリヘルを呼んだ。


童貞歴24年に節目をつける一世一代のイベント。


家に人を呼ぶんだから散らかっていた部屋を片付けて、床をピカピカに磨き、そして俺の体もピカピカに磨いた。


入念にな。


そして金に糸目をつけず、極上の女を家に呼びつけたのだ。


それはもう気持ち良すぎて昇天するかと思った。だけど、本当に昇天してしまった。


自分でもわかってるけど、気持ち良すぎて死ぬってどうかしてるんだけど、これには理由があるんだ。


俺が呼んだデリヘルの女。


あいつ、実はサキュバス--つまり悪魔だったんだ。


つまるところ、悪魔に精を吸い尽くされて人間としての生が終わり……終わったと思ったけど続きがあった。


だから俺は今、回想している。


それでは、あの濃厚な……二つの意味で濃厚なあの時間をご覧いただきたい。


あ、やべ、ティッシュきらしてる。



♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎



『お電話ありがとうございます。サキュキャッスルでございます……っあ』


耳元で艶の良い女性の声が囁く。

妙にエロい声だ。


「も、もしもし。よ、よよ予約したいんですけど……」


落ち着け、俺。

まだ物語は始まったばかりだ。テンパリ系主人公じゃ格好つかないだろ。


俺はこの日のために用意したワイン『カッシェロ・デル・ディアブロ』をグラスに注ぐ。


『かしこまりました。お名前をお伺いしてもよろしいですか?……んっ』


名前か……。

こういう風俗の店って裏で何やってるかわからないからな。

適当に名前言っとくか。


いや、それともこれは既にプレイが始まってるのか?特殊な名前を呼ばせる設定を聞いてるのか?

俺は純粋に恋人系が好きだけど、人妻系も捨てがたい。

いや、たけど妹系も捨てがたい!


とりあえず落ち着け俺。


手元のグラスをゆっくりと回し香りをたたせ、生娘から搾ったような赤々としたワインを口に含んだ。

渋みがなく飲みやすい。


決めた。

俺は妹系にする。


「じゃー、お兄ちゃんで」


『……失礼ですけど、お名前をお伺いできますか?』


俺は本気で言ったつもりだったけど、お姉さんには極々普通の対応をされた。


「……名無です。ていうかさっきまでの喘ぎ声なんだったんだよ!既にプレイ始まってるのかと思っただろ!?いきなり素面に戻ってんじゃねーよ!」


『名無様ですね。それではご希望の娘はいらっしゃいますか?……だめっ』


くそ、なんなんだこの店は。

サービス精神旺盛なのか適当なのか分からなくなってきたぞ!


そういえばこの店の名前『サキュキャッスル』からしてコスプレ系の店なんだろう。


写真見てみたけど、どれもグラマスなお姉さんのアハーンなコスプレ写真ばっかで、集中して見れなかったんだよな。


人選ぶのに結構時間かかったけど、結局おっぱいが一番でかいやつにしようと思った。


やっぱおっぱいが正義だよ。


ていうか名前見るの忘れてたな。

なんていう名前だっけ……まあいいか適当で。


「胸が一番大きい人で」


『それではどちらにお伺いしましょうか?……だからっ、だめっ』


「えーと、俺の家で。住所は東京都--です」


一体何してんだ。

電話越しでナニやってんだ。


見えないぶん想像力がかき立てられる。


くそ、期待させてくれるじゃないか。


だが今日の俺はそこらの童貞とは違うワインガイなんだよ。


ワインガイは焦らず優雅に構えるのだ。本革製の高級な椅子に腰をかけ、フルボディーワインをゆっくりと口に含み、達観した余裕な笑みを浮かべる。


生娘が言い寄ろうとも爪先でグイッと顎を持ち上げて「待てと言っただろ?子犬ちゃん」と言うのだ。


カッコいい。


これこそ俺が求める理想の俺。

否、今俺は理想の俺になろうとしてるのだ!


『かしこまりました。お、お時間はどうされますか?……んーーっ!』


ふっ、電話のお姉さん。

ワインガイを色気で落とそうなど一年早い。


まあ、余裕を持って1時間後くらいでいいだろう。


『ちなみに、当店で一番おっぱいが大きいのはあ……あっ、私です。……んあっ」


「今すぐで」


『かしこまりました。それでは今すぐイキまあああすっっっ!』


うおおお、なんだ最後の置きセリフ!

どっちの意味でのイキますなんだよ!

すごい、この店は絶対当たりだ!


ピンポーン。


電話のお姉さんに感極まってトリップしていると、インターフォンが俺を現実に呼び覚ます。


宅配便かな?


「はーい、どちらさまでしょうか」


「サキュキャッスルでございます。名無さんのお宅でよろしかったでしょうか」


「え?早くね?」


まだ1分も経ってないぞ。


とりあえず俺はドアを開ける。


「あ、こんばんわ。サキュレムです。よろしくお願いしますわ」


サキュレムと名乗る女性は名刺とともに、妖艶な笑みを浮かべて挨拶をしてきた。

間違いなくさっきの電話の声の人だ。


お姉さんのおっぱいはでかかった。

腰のくびれから推定してゆうにIカップは超している。

なんてデカさだ。


身長は172センチある俺と同じかそれより高いモデル身長。


全身ムチムチのグラマスボディー。


髪色は淡い紫色……光の加減によっては桃色にも見えるロングヘア。


そして艶かしい四肢に纏う際どい衣装は、隠すところは隠さず、見えるところも隠さず。

いや、もちろん隠してはいるけど着てるのか?って感じだ。


なによりも、ガーターベルトが太ももに食い込んでいて、ムッチリ感が俺の性グセをくすぐる。股関節から伸びるすじもたまらない。


そして特筆すべきはお尻から伸びる悪魔的な尻尾と頭から生える羊の角だ。

あれ触ったらすごい反応するのだろうか。


いや、コスプレか。

しかしなんと精巧な作りなのだ。


……こんなこと書いてたら間違いなく女性のリピーターは離れていくんだろう。


「ど、どぅぞ、お姉さん。汚いところですがお上がりになってください」


「ええ、失礼しますわ」


お姉さん改めサキュレムは、ヒールを脱がずそのまま部屋に上がる。


「あ、あの、靴を……」


「あら、気付きませんでしたわ。こんな豚小屋みたいなところだと、どうも普段の癖が抜けなくて……いけませんわね」


サキュレムはそう言いながら俺の方へやってくる。

そして俺の胸ぐらを掴んで、ベッドに倒してきたのだ。


「なっ!?」


「それで、何が言いたいのかしら」


「あ、え、えっと」


「何が言いたいのか身体で示してごらんなさい」


熱い息が耳を擽り、ゴミを見るような視線を俺に向けてくる。

しかしその手は俺の顔から首に伝い、どんどん下の方へ降りていく。


「骨の髄まで私に吸い尽くされたいのかしらね?あなたの身体、武者震いを起こしてるわよ」


サキュレムはピンヒールのかかとを俺の太ももにグリグリと押しつけ、しなやかな手の長い爪は俺の首の頸動脈にあてがわれる。


「言ってごらんなさい。ナニがしたいの?」


そうか、これはすでにプレイが始まっているのか!

まさかのSMか。

人生初の行為はSMで飾るのか。


そうとなれば気合が入ってくる。


「は、はい!」


「そうね……普通のプレイじゃもったいないわね。特別に骨の髄よりももっと気持ちいいこと教えてあげる」


「な、なんでしょう」


「私が精を吸い尽くして飲み干して魂までも喰らってしまうのよ」


言っていることはよくわからないが、なんか凄そうだ!

精を吸い尽くして飲み干す……つまるところそういうことなんだろう。

そして魂を喰らうっていうのは、ものすんごい気持ちいんだろう。

よくわからんけど!


「……文字通り、身も心も空っぽになるのよ」


「はい!魂までも喰らっちゃってください!」


サキュレムは妖艶な笑みを一層深くする。その底知れぬ笑みに吸い込まれてしまいそうだ。


「私の目を見て」


サキュレムは鼻と鼻がくっつくほど顔を近づけてそう言った。

その目は血のように赤く、花のように鮮やかで、蝶のような煌びやかさがあった。


なんとも不思議な目だ。

コンタクトとも違う、不思議な魅力がある。


底が見えない瞳の暗闇に引き摺り込まれる感覚がした。


「名前は何?」


「名無権兵衛です」


「……変な名前ね。嘘はついてないわよね」


「はい。嘘偽りはございません」


「そう。それにしても地球の日本て良いわね。こうも簡単に餌が手に入るんだから。馬鹿な男どもがいて私としては嬉しい限りだわ」


サキュレムは何か言っているようだが、何故かその言葉は耳から耳に抜けていくように理解することができない。

意識がボーッとする。


「あ、でも勘違いしたらダメよ。私はエッチも好きなんだから。それよりも魂が好きなだけ!」


そしてサキュレムは己の指をを自ら噛んだ。その指からは鮮やかな血が流れ、俺の身体を汚していく。


「別に魔法陣なんて作らなくても悪魔の力で魂食べられるんだけど、魔法陣の方が効率良いのよ」


サキュレムは血が滴る指で俺の心臓あたりを指でなぞっている。

そのなぞり方からして複雑な紋様だということだけはわかった。


「もちろん快感も段違いに気持ちいいの」


「……おれ、は」


「あら、珍しいわね。チャームがかった状態で意識を呼び起こすなんて。でもよかったわね。意識を保った状態で、最期に目にするのは極上の女よ。男冥利に尽きるってものよ」


サキュレムはなぞっていた指を止めて、その手を心臓の上に当てる。


「展開が速くて色々分からないだろうけど、つまるところ私はサキュバス。正真正銘の悪魔であなたは私に狩られる餌」


サキュレムのお尻から伸びた尻尾がウネウネと俺の顔をなぞった。

それはつまり飾りなんかではなく、正真正銘に生きている証。


「にしてもこんなに速く目的が達成されるなんてね。普段は違うのよ?まず警戒を解くためにしっかりしっぽりヤラないといけないんだから」


サキュレムは傷ついた指を口に含み、挑発するように己の指を舐め回す。


チュポッ。


指から口に伸びた涎の柱がテラテラと艶かしく光っている。

そしてそれは蜘蛛の糸のように俺の顔に垂れ下がった。


「でもアンタは馬鹿でよかったわ。美貌に当てられて心まで開いちゃうなんてね。童貞って単純で……人間としての尊厳はないのかしらね?」


言われたい放題だ。


だけど抵抗しようと体を動かそうとするが、全く力が入らない。


「でも、安心して。私があなたの全てを奪ってあげる。それって童貞を失うことより尊いことだと思わない?」


サキュレムの指が俺の唇をなぞる。

指についた唾液と唾液が絡み合い、不思議な感覚がした。


「そういえばファーストキスはまだよね?」


サキュレムの顔が目と鼻の先まで近づいた。

熱い息が交差し、その熱気で頭の中がぼんやりとする。

唇と唇が触れ合うその瞬間--


「童貞もファーストキスも失わずに死になさい」


俺は胸からかつて感じたことないほどの衝撃を感じた。

心臓を抉り取られてしまうような、不快な感覚。


俺は自分の胸元に目をやる。

不可思議な紋様が浮かび上がり、サキュレムの手がその紋様の中にえぐり込まれていた。


「ぐわああああ!!」


「安心して、痛いのは少しだけ。それからは私も経験したことがないような快楽が待っているらしいわよ」


そしてサキュレムはその表情に一層恥じらいが含まれる。


「あーんっ、ずるいわ。私も感じてみたい。ハアハア……帰ったらどう慰めようかしら……んあっ」


完全にトリップしてやがる。


まだ俺は気持ち良くないのに、むしろ痛いのになんでこいつの方が気持ちよさそうなんだよ!


くそっ。

悪魔がなんだ。

なんでこいつに殺されなくちゃならないん

だ。


俺はまだ童貞なんだぞ!ファーストキスくらいもらってくれよぉ!


「んあっ、この感覚来たわね。ヌルッとしたこの感覚は間違いなく魂だわ。どう?気持ちいい?」


「あああああ!!」


「どう?やっぱ気持ちいいのね!」


「全然気持ちよくねえよ!むしろ痛えよ!」


「そんなはずはないわ!今までの人間は気持ち良すぎて昇天したくらいなんだから!」


「じゃー、俺は今までの人間とは違えんだよ!」


ここにきて人類史上稀に見る逸材なのか!?

全く嬉しくない。むしろ気持ちよく死にたかった。


「おかしいわね。なぜか今までの魂とは違う感覚がするわ……まさか、これは!?」


サキュレムは今までの表情とは一点変わって驚愕の表情になる。

そこには確かな焦りが見えた。


魔法陣に入れていた手を慌てて抜こうとするが、サキュレムの腕には鎖のような影が纏まりついて抜けないようだ。

だが、その鎖は俺の胸から伸びているものだった。


「……なんだ、これ」


「あんた何したのよ!?今すぐ解きなさいよこれ!」


「いや、解けって言われても俺にもわかんねえよ」


鎖はサキュレムの腕から全身に広がり、その艶かしい四肢をキツく締め上げている。

特にすごいのはおっぱいだった。


これ以上言ってしまうと危ない気がする。


すごい。

なんて絶景なんだ。


「……くっ。この波動……まさかあんた、悪魔に堕ちるって言うの!?」


「はあ?何言ってんだ?」


黒い鎖が身体に食い込み、そして心臓の辺りを貫いた。


サキュレムの表情は苦悶に満ち、逆に俺はかつてないほどの高揚感と快感が身を襲っていた。


「すげえ、なんだこれ!サキュレム!お前が言ってた通り、快楽で溺れ死にそうだ!」


「いやいや、溺れ死ななくていいから!今すぐ人間に戻りなさいよ!あんたそんなキャラじゃないでしょ!?冴えない人間のまま人生幕閉じちゃいなさいよ!」


鎖はサキュレムの身体の内側から外側を貫き、雁字搦めにしていく。

まるで蛇が獲物を絞殺して丸呑みにするかの如く。


そして俺の体にはかつてないほどの快感と、溢れ出す未知の力が湧き上がってくるのを感じた。


「お願いだから、今すぐ離して。じゃないと私まで巻き込まれるでしょ?」


「うるせえ!何がなんだか知らねえが、お前は俺の道連れだ!」


「やめてえええええっ!!」


◇◆◇◆◇◆


この時をもって俺は人間をやめ、悪魔に堕ちた。

理由は色々あるらしいけど、その時の俺には預かり知らず。


これからは悪魔ライフを過ごしていかなくちゃいけないらしい。


サキュレムと一緒に。


次回、その名は悪魔ヴィラン

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