妖怪タイムスリップ
私は妖怪タイムスリップだ。
人間をタイムスリップさせてはその様子を見て楽しんでいる妖怪だ。
今日も一人の中年男がやって来た。
この中年男はどんな反応を見せてくれるのだろうか。
「おい、そこのお前、タイムスリップしてみたいとは思わぬか?」
「なんだ、変なじいさんだな。そうだなぁ。タイムスリップするなら万馬券とかあててみてーなー」
「そんなことで良いのか。お安い御用だ」
私はタイムスリップの術を使うと周囲の時空が歪みだす。
「な、なんじゃこりゃああああああ」
私達の周りは一瞬にして一面真昼間になる。
「どうだ、これから競馬場にまいろうではないか」
「お、おう」
男はキョトンとした顔で私の後についてくる。
そして私達は競馬場に辿り着いた。
「今日は万馬券が出る日でのう。最終レース、7-2に賭ければ万馬券間違い無しなんだよ」
「ほー……そうなのか。なら7-2の一点買いで一万円だ!」
やれやれ勝ち確定なのにたかだか一万とはしみったれとるのう。
まぁそれでも良いか。
儂もついでに一万円賭けておこう。
そして最終レースが始まり。
見事一着7番、2着2番という結果が出る。
「まじで万馬券か…一万の万馬券っていくらになるんだ?」
「百万じゃな」
「百万かー。でもこれで好きなソシャゲに課金しまくれるな」
「……しょぼいのお」
「なんかいったか?」
「いや、何でもない」
「俺は推しのキャラの為なら何万でもつぎ込みたい。そんな夢をみていたんだよ」
「ふむ……まぁその気持ちは分からんでもないの」
昔は三次元だったものが二次元に変わっただけか。
いや、結構結構。
中年男は自分の口座にお金を振り込んだ後、満面の笑みで帰ってきた。
「それでは、そろそろ元の時代に戻るぞ」
「ああ。ありがとな、じいさん!」
私は再びタイムスリップの術を使い元の時代に戻ってくる。
「よし、これから俺は推しの為にガチャしまくるぞ!!」
「おうおう、行ってこい行ってこい」
私は目を細めながら中年男が去って行くのを見守った。
やれやれ。
タイムスリップで得た金はもう手元にはないというのに哀れなものだ。
タイムスリップで歪んだ歴史は正確な歴史へと戻ろうとする。
だから男が振り込んだお金も男が知らず知らずのうちに使い込んでいたという事になるのだ。
お金に走るからこのような事になる。
タイムスリップをしたいというと大抵の者はお金目的だ。
「人間とは業が深き存在よな……」
私はそう呟きながら深い闇へと消えて行った。
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