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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢の侍女

作者: 上野飛鳥

 あなたは、殺された。


 一度目は悪魔に心を売ったとされて、火あぶりの刑になりました。泣き叫ぶ貴女の無実を唱えた私も殺されましたね。もう随分昔のことのようです。あの時の痛みを忘れた日は一日もありませんが。


 二度目は王子に危害を加えて殺したと、世間からバッシングを受けた後に自殺しましたね。私は一度目のトラウマからずっと貴女を避けていました。罪悪感で、私も貴女の後を追いました。


 三度目は平民の子を虐めたと、言いがかりをつけられて。平民の子は泣いていましたが、きっと貴女の方が泣きたかったでしょう、そんな事実はかけらも無かったのですから。近くで見ていた私が一番よく知っています。


 四度目は国を欺いた、と。この国にいるのが悪いのだと、よその国へ私が連れ出したせいで貴女は殺されてしまいましたね。私たちは今までで一番短い、十年しか生きられませんでした。


 五度目は貴女の両親すらも巻き込んで反発しました。でも結局みんな殺されてしまいましたね。この時の死人が一番多かったように思います。


 何度繰り返されても、貴女が幸せになる世界は訪れない。自らの手で何度も貴女を助けようとしました。けれどその作戦はどれも失敗して、貴女は何も悪いことをしていないのに殺されてしまいます。

 何度この手を尽くしても、貴女が悪いと知っていても、何の役にも立たないのだと私は知りました。


 だから私は、悪い子になることにしました。


 貴女が平民の子に行ったとされる悪事を全て、自分がやったのだと言いました。狂気的に、猟奇的に、自分がやったのだと証明するものすべてを揃えて。


 私は死刑になりました。


 でも、これで良かったように思います。誰かが悪役にならなければいけない世界なら、私が悪役になりましょう。

 貴女が救われること、それが私の願いです。

 例えどんな犠牲を払おうとも、貴女が救われるのなら。誤解されやすい貴女ですが、本当は誰よりも根が優しい人だと私は知っています。

 いじめられていた私を助けてくれましたね、困窮している人を見ると一番に手を差し伸べていましたね、贅沢三昧に見せかけて質素な生活をこころがけていましたね、本気で王子を愛していましたね。


 いつも強気で、弱みを見せない貴女だから、誤解もされやすかった。でも私はそんな強い貴女が好きでした。大好きで、大好きで、たまらなかった。


「っ、アリア!」


 だから、そんな顔をしないでください。

 今にも泣きそうな顔なんてしないでください。私は痛くも辛くもないんです。貴女が笑っていてくれるなら。

 誰かが私を悪魔と呼びました。

 悪魔なのかもしれません、私は彼女が救われない世界なんていらないと思ってしまうから。


 大きな大きなギロチンに首をかける。これが私でよかったと、そう思わずにはいられません。


「はは、ははははっ!」


 大丈夫です、お嬢様。お嬢様がそんな顔をする必要はないんです。最後の最後まで、私は自らの意志でここにいると証明するために笑いましょう。

 私は今度こそ、死にます。何度も死んでいるせいか、怖いとは思いませんでした。むしろ、ようやく貴女が苦しみ続ける地獄から解放されると思うと、清々しささえ感じます。


 嗚呼、でも、最後に一つ望むなら。



 ───どうか、幸せに。 



 広場には歓声が上がり、泣き崩れるたった一人の少女のことなど誰も気に留めなかった。

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