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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
9章 万難排し、世界を守るが〈勇者〉の役目
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第95話 寝不足な妹とテンションハイな聖霊がバスの中



「ふああああ〜…………っ」



 ゆったりとバスに揺られる中、自分でもビックリするぐらい大きなアクビが出た。


 ……っていうか、同じぐらいのアクビが、この10分ぐらいの間に3回は出てる。



 ハッキリ言って……眠い。すんごく眠い。眠くて仕方ない。



「どーしたんですかアリナ!

 そんな眠たそーにしてる場合じゃないですよ!」


「うっさい……誰のせいだと思ってるの……」



 隣、通路側の席で大いに盛り上がってるアガシーを、あたしはわざとらしく不機嫌にニラみ付けた……つもりだけど、多分、眠さのせいでぼんやりした目を向けるだけに終わったと思う。




 ――ちなみに、今日は朝6時校門前集合だったから、起きたのは5時頃。



 もちろんいつもよりずっと早いけど、それだけで眠いんじゃない。


 だいたい、そのことも計算に入れて睡眠時間確保したんだから。



 だけど……それはあくまで予定。

 用意した時間だけ絶対キッチリ眠れるなら、世の中に不眠症なんてものはない。



 ……うん、まあね、あたしだって今日を楽しみにしてたから、そもそも興奮して眠りが浅かった、っていうのはあると思う――。



 けれどそれ以上に、あたしは甘く見ていたんだ――。


 部屋の同居人(アガシー)の、このキャンプを楽しみにし過ぎるあまり振り切ったテンションを。



 アガシーはもともとが聖霊だから、少々眠らなくたって大丈夫だそうで……つまり、ワクワクしながら徹夜したところで、あまり問題ないらしい。


 ……あ、ううん、もちろんだからって、タダの人間のあたしをそれに付き合わせて、眠りを意図的に邪魔したとか、そういうわけじゃない。


 むしろ逆で、ちゃーんと自分も布団に入って、静かにしていた。



 だけど……。



 アガシーの、そのおさえきれないワクワクオーラが、もうそれ自体が熱を持ってるみたいに部屋に満ちてて……存在感がスゴくて……。


 それがいちいちあたしを刺激するというか、気になって仕方ないっていうか、毒気にあてられるっていうか……。


 とにかく、あたしまで釣られてそわそわと落ち着かなくて――結局、ほとんど寝られなかったのだ。



 ……ホントに甘く見てた。


 昨夜はあの子、お兄の部屋に押し込んどくべきだったなあ……。



 でも――。



 アガシーが、そうやって、もうどうしようもないくらい、あたしたちの世界のイベントを楽しみにしてくれるのは……それ自体は……正直、微笑ましかったし、嬉しかった。


 お兄だって、いつにも増してテンションが高いアガシーを、ウザいウザい言いながらも、結構甲斐甲斐しく、準備を手伝ってあげたりしてたし。


 だから、アガシーが盛り上がってるのはいい。それはいいんだ。



 でも……頭がフラフラしそうなぐらい眠いのもまた事実で……。



 しかも――。


 バスの移動が4時間ぐらいあるんだし、その間寝てたらいいか、って思ってたら……。



 なんの因果か――うちのクラスのバスでは、カラオケ大会が始まってしまったのである。



 ……ハッキリ言って寝てられない……。



 男子の、ムダに声を張り上げる歌はやかましくて邪魔だし……。


 女子が〈聖鬼神姫(エンジェルオグリス)ラクシャ〉の主題歌やら挿入歌やらエンディングテーマやら歌おうものなら、ファンとしては合わせて熱唱するしかないし……。


 歌うのがバラードとか、静かな曲だったりしても、周りのみんなが盛り上げるから、結局そこそこ騒がしくなるし……。



 ……ああ、でも……。


 真殿(まどの)くんが、みんな困惑しきりになった、洋楽のプログレ系ロック歌ってくれた間は、ちょっとだけウトウト出来たっけ。


 プログレ系って、曲にもよるけど、基本展開が複雑で、興味ないと眠気誘うの多いから。


 しかも、みんなプログレッシブロックなんてまず聞いたことないから、盛り上げようも分からなくて静かにしててくれたし。



 それにしても……。


 あたしは、〈世夢庵(せむあん)〉のケーゾーさんの影響で、メタルやハードロックも多少は分かるんだけど……よく小学生がプログレの曲とか知ってたなあ……しかも洋楽で。



 真殿くん……謎多き人だよまったく。



 ちなみに、その至福の時間も、続けて朝岡(あさおか)のヤツが、やたらと暑苦しい特撮ヒーローの主題歌なんて熱唱してくれたおかげで、すぐに終わってしまった。


 その際朝岡には、思いっっっきり殺意を込めた、氷点下の視線を送っておいた。



 そして、今は――。



 我らが担任、喜多嶋(きたじま)夏子(なつこ)先生(20代)が、すごい気分良さそうに、コブシを利かせた実にイイ声で演歌を大熱唱している。



 みんなも、そのギャップが楽しいのか、先生をはやし立て、盛り上げるから……もう5曲目。

 もはや単独ライブ状態である。


 アガシーなんて、サイリウムを振って――って、なんでそんなの持ってるんだ……。



 まあ、いつもお仕事大変な先生が、楽しそうに熱唱するのはいい。

 いいんだけど……寝るにはやっぱり邪魔だ。



 うーん……どうしよう。



 いっそ、「うっさい! 寝かせろ!」ってキレようか……なんて、寝ぼけた頭がヤバいこと考えてると……いつの間にか、アガシーがあたしの顔をジッと覗き込んでいた。



「……眠いですかアリナ? やっぱり寝たいですか?」


「……寝たい。

 もう、葉月山(はづきやま)に着くまで爆睡したい」


「ん~……分かりました。しょうがないですね。

 ちょっともったいない気もしますけど……」



 そう言ってアガシーは、あたしの前に手をかざす。



「は? アガシー、なにを……」



 そして――――



「おやすみなさい、アリナ」












「……これでよし、と」


「よし、ではない。

 魔法で眠らせるとは、まったく強引な手を……」



 余は、亜里奈(ありな)が閉じたまぶたをうっすらと開けて、刺すように聖霊を見るが……。


 当の聖霊に、反省するような素振りはなかった。



「しょーがないでしょうが。アリナが寝たいって言うんですから。

 それに、睡眠薬なんかよりはよっぽど健全でしょうに?」


「……睡眠魔法は、寝起きに頭痛がするから、決して気分は良くないと聞くが」


「二日酔いなんかよりははるかにマシなハズです……多分ですけど」



 多分……そう、多分、だ。



 なにせ、余も聖霊も、もともとが睡眠魔法ごときは効果が無いし、酒に酔うような体質ではなかったからな。そう言うしかない。


 〈人造生命(ホムンクルス)〉の身体ではどうか知らぬが。



 まあ……とにかく、後でなにか、頭痛を緩和出来そうな弱い魔法をかけておくか……。


 寝不足の上、やっと寝られて起きたら頭痛――では、亜里奈があまりに不憫(ふびん)だ。



「……そうだ、ハイリア。

 臆面も無く表に出てきやがったついでに、一つ聞いておきたいんですが……。

 こうやって広隅(ひろすみ)市から離れましたが、アリナに流れ込むチカラについては変わらず――なんですか?」



 着替えやらが入っているリュックサックとはまた別にしてある、おやつがいっぱいに詰まった袋をごそごそやりながら、聖霊は余に尋ねる。


 まったく、おやつ――いや此奴(こやつ)、真面目なのか不真面目なのか……。



「……変わらんな。チカラの本質――〈闇〉に近いその属性的な問題か、昼間の時間帯ではそもそも微弱になるが……『線』というか、繋がりのようなものは消えていない。

 まあ当然だろう、広隅市の特殊な〈霊脈(れいみゃく)〉は、聖霊、キサマも感じ取ったように、この世界を流れるチカラの中心といってもいいようなものだ。

 広隅から物理的に距離を取った程度で、どうにかなるようなものでもあるまい」



「……ま、やっぱりそうですよねぇ……」



 タメ息混じりに言って、聖霊は取り出したチョコレート菓子……〈コアラどもの進軍(マーチ)〉を、封を開けるや否や、ぽぽいと2つ3つまとめて口に放り込む。



 ……コイツ、もう通算2箱目だぞ……行きのバス内でおやつを食い尽くすつもりか?


 まったく、計画性の無い……と思っていたら。



 自分だけで食らうわけではなく、それを近くの女子に回しては、代わりに別の菓子を受け取ったりしているようだ。



 抜け目がない――いや、違うな。



「あ、アガシーちゃん、これこれ、これもわりとイケるんだよ! 食べてみ?」


「ほっほう! こんなエキセントリックな色合いのシロモノがですか!?

 さすがよーちゃん、お菓子一等兵! 目の付け所が違うな!」



 ……ふむ。

 これも、学友と行く旅行の楽しみ方の一つ、というわけか。


 なるほど――先ほど聖霊が亜里奈に、眠ってしまうことを『もったいない』と告げたのも分かる気がするな。



 だが、まあ……まだこの旅は始まったばかりだ。




 ……これから先、目一杯に楽しむためにも、今はゆっくり休むといい――。




 余は密やかに、聞こえないのを承知で亜里奈に語りかけ……。


 ゆったりと身体が休められるよう、ちょっとした魔法で環境を整えてやってから。



「ふおお!? マジか、なんだこの食感……っ!

 人類の技術革新てのはまったく驚異的だな!」



 アルタメアでは決して得られなかっただろう楽しみを、存分に満喫している聖霊の姿に思わず頬を緩ませて――。




 ゆっくりと、自らの意識も……亜里奈に合わせて眠らせるのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] 寝不足……充血……魔王開眼続行……精神面はともかく目に悪そうだ(ォィ この世界の、力の中心……つまり、作中地球は広隅市から始まった可能性が……古史古伝の日本から世界は始まった的な記述は事実…
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